いつでもお好きに「高3にお弁当作ってもらうなんて、やっぱり気が引けるなぁ…」
星奏大学に入学して朝日奈唯が借りたワンルームのマンションには、恋人である成宮智治が、毎日のように顔を出している。
「俺がやりたいだけって言ってるじゃないですか。先輩は気にせず課題を続けててください」
「でもさぁ…」
教材を広げていたローテーブル兼こたつから、朝日奈はのそのそと這い出る。キッチンで腕を振るう後輩のすらりとした背中は、よく見慣れた姿だ。卒業をわずかに残したころ、もう彼のこんな姿も見られなくなるのかと感慨を深めたものだが、ほどなく成宮に告白されて交際することになり、舞台が菩提樹寮から自分の部屋の狭いキッチンに移動しただけだった。置きっぱなしにしている焦げ茶色のエプロンをつけて、彼がこの狭い台所に立ってから、もう1時間は経っただろうか。
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