アルファベットA 満開だった桜が春風に吹かれてぶわっと舞った。蕾が膨らんで、ポップコーンが弾けるように咲き始めた桜は、満開になり散っていく。見頃は二週間ほどで、あっという間に葉桜になってしまう。
「すごい風!」
真宝は、桜の花びらを乗せた風を見送って花びらたちが地面に散らばる前に……
「くしゅん!」
「おいおい大丈夫か?」
「……うん。くしゃみ出ちゃった」
大きく育った身体にずいぶん可愛らしいくしゃみだと、荒仁は目を細める。
「風、強えな」
桜の花びらは次々と落ちてくる。
「なあ、久しぶりに修行するか」
と、思いつきを口に出した荒仁が小学生の頃のようにニヤリと笑う。
「なんの?」
「落ちてくる桜の花びらキャッチする。先に10枚キャッチしたら勝ち」
「へえ!おもしろそう!やる!」
わくわくした真宝は力強く返事をした。
「……おい、まだやんのかよ」
「……っうん!あ、とっ……もうすこし、で10まいっ……!」
言い出しっぺである荒仁の方が早々に疲れて地面にへたり込んでしまったが、トレーニングを続けていた真宝はひらひらと舞う花びらを何度も追い、難しいね!と言いながらもあっちにこっちに飛び跳ねて楽しそうである。
そんな真宝を微笑ましく感じながら、荒仁はずっと長いこと心のすみにあるかもしれない感情を無視せずにはいらなくなっていた。
(真宝、修行に夢中になってんな。ああそうか、俺、一生懸命になってる真宝に惹かれたんだ。小せえ身体でついてくる真宝に……俺、やっぱり真宝が、すきなのか)
春の柔らかな日差しとピンクに包まれる真宝。そんな真宝を眩しく感じながら荒仁は、自分の手のひらにある数枚の桜の花びらを何気なく地面に並べていった。
「はぁ……!はぁーー!!やっと10枚!……あれ?あらちゃん、何してるの?」
真宝の視線の先には、
荒仁の足元
地面に桜の花びらで相合傘。
そしてアルファベットの
AとM。
「は、は、は、はーーー??こ、これはこれはっっつ?!いや、これはあのっ……!無意識で!」
「無意識って、願望ってこと?あ、……あらちゃん神さんのこと気にしてたから……」
「俺のイニシャルAとまほろちゃんのM!?誤解!誤解だって!!」
「……おれ、そろそろ行くね」
「おい真宝!!待てって!」
うららかな春の天気は変わりやすい。荒仁は「まってえーー!!」と真宝を必死に追いかけた。
パッパラッパハラハパッパハラパ〜〜〜
「あれぇ?あらてぃーんダッシュしてどしちゃったの?」
「さあな」
そこに特殊な乗り物に乗った、シグマスクワットのヘッド神摩利人と大英王太が通りかかった。
「……なんだこれ?」
王太が地面に並べられた桜の花びらに気づき眉間に皺を寄せる。
「んーー?なにぃ?」
そこにあったのは可愛らしい桜の花びらの相合傘。
「およ?さっきまで、あらてぃんいたとこじゃん?んーー?AとM……?アラティンとマリトォ?ふっ、あらてぃんやっぱりシグマにいーれーるー!」
摩利人は今日一番のいい顔でにっこりと微笑みぱあっと花を飛ばす。
ご機嫌に去っていく摩利人にへいへいと相槌を打ちながら並んで歩く王太の背後、桜の木の影からひっそりと様子を伺っていたのはNG BOYSのエンペラーこと心土阿久太郎。
「くっ!あいつら、今度こそ叩きのめして……」
と、言いかけたとき地面の桜の花びらの相合傘に、春雷に打たれたような衝撃を受けた!
「ふーーん。なるほどね」
キョロキョロと周りを気にして、素早くささっと
A(あくたろう)K(けんいちろう)
に変えた阿久太郎は、ピンクに頬を染め軽やかにスキップしながら桜吹雪の中に溶けていった。