途中覚醒if /石神千空 それは何の前触れもなく突然起こった。
視覚も聴覚も触覚も、五感の全てを奪われてただ自分の思考だけが存在する世界。宇宙空間のようなそこでは、強烈な眠気に似た意識が吸い込まれるような感覚が約800000秒周期に起こる。
その422回目を乗り越えたとき、石神千空の目に初めて光が差した。
長い長い暗闇の中いきなり外光が飛び込んできたものだから、瞳孔が驚いて小さな痛みを知らせる。眉根を寄せつつ体表感覚が戻っていることを確かめると、身体を動かさず視界の限りを見渡した。見えた限りに危険はない。現場の保全を第一に、ゆっくりと身体を起こす。
「107年か……ククク、意外と早かったじゃねぇか」
千空は不敵に笑う。
この年数なら人類文明の痕跡の多くはまだ失われていないだろう。何らかの物理的攻撃を受けている可能性もないではないが、かつて末広高校だった校舎は傷んでいながらもその建物の形を保っていた。廊下に石のまま点在する馴染みの顔ぶれも見たところ無事だった。
2021