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    STONE_Yakitori

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    STONE_Yakitori

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    廃墟パロ絵にストーリーをつけました。
    色々と目を瞑ってください。続くかどうかもわからないので応援してください……

    途中覚醒if /石神千空 それは何の前触れもなく突然起こった。

     視覚も聴覚も触覚も、五感の全てを奪われてただ自分の思考だけが存在する世界。宇宙空間のようなそこでは、強烈な眠気に似た意識が吸い込まれるような感覚が約800000秒周期に起こる。
     その422回目を乗り越えたとき、石神千空の目に初めて光が差した。

     長い長い暗闇の中いきなり外光が飛び込んできたものだから、瞳孔が驚いて小さな痛みを知らせる。眉根を寄せつつ体表感覚が戻っていることを確かめると、身体を動かさず視界の限りを見渡した。見えた限りに危険はない。現場の保全を第一に、ゆっくりと身体を起こす。

    「107年か……ククク、意外と早かったじゃねぇか」

     千空は不敵に笑う。
     この年数なら人類文明の痕跡の多くはまだ失われていないだろう。何らかの物理的攻撃を受けている可能性もないではないが、かつて末広高校だった校舎は傷んでいながらもその建物の形を保っていた。廊下に石のまま点在する馴染みの顔ぶれも見たところ無事だった。
     ただの一高校生が目を覚ましたのだ。他の奴らもすぐに起きる。いや、既にもう起きていた奴が複数人いて、何かしらのアクションを起こしている可能性もある。人がいるなら文明が元通りになるまではそうかからないだろう。
     人が石になるなんていう前代未聞の人類の危機に対して、人類復興は案外とイージーゲームなように思えた。

     体表の石片が大方剥がれ終えたところで校舎の窓から外を見やる。目の前には107年前よりも背の伸びた楠と、それに護られるようにして女の石像が体を預けていた。千空の幼馴染みが思いを寄せる相手。ひとまず彼女の無事を確かめて顔が綻ぶ。
     しかし肝心のヤツが見当たらない。どこに行きやがったのかと目を凝らすと、107年前と比べて周囲の環境の位置がずれているように見えた。千空のいる角度からは見えないが、地層に変化があったのだろう。
     その瞬間、血の気が引いた。
     107年で地層がずれるほどの大地震があったとして、もしもそれに巻き込まれ、地割れの間にでも落ちていれば。どれだけ頑丈にできた体といっても石のままでは靭性は皆同じ。五体満足でいる保証などなかった。
     急ぎ校舎を駆け降りる。107年ぶりの有酸素運動にしては身体が軽い。肺で空気を取り込めることを嬉しく思ったのは今が初めてだ。足裏に砂粒が刺さることも忘れて楠のある方へ走る。

     落差は2、いや3メートル弱ほどだろうか。校舎の西側数十センチを開けて地面が沈降し幅10メートル超に及ぶ断層があった。岩壁に手を付き下を覗き込む。想い人を守ろうと両手を突き出したその姿のまま石化した彼が横たわっていた。幸いなことに体のどの箇所にも損傷は見当たらない。
     間抜けにも見えるその必死な顔を見て安堵が胸を包んだ。ひとまずは引き返そうと立ち上がろうとしたとき、手を付いていた所の断層が崩れた。バランスが取れなくなり上半身から雪崩落ちそうになる。

    「……!っぶねー……」

     咄嗟に掴んだのは断層からはみ出てていた楠の根だった。
     全身から冷たい汗が吹き出し、遅れて心臓が主張してくる。どくどくと早鐘を鳴らして主張するそれに全身の血管が応えた。
     掴んだ根を手掛けにして上へ登る。
     落ち着きを取り戻すと、毛皮もなく何一つ身に纏ってもいないツルピカ猿の姿で必死に息を切らせている自分の姿に笑いが込み上げてきた。と同時に、微かな歓喜が胸を掛ける。縮瞳、呼吸、心拍。人が人として生きていると定義されるために必要な三要素。

    「………ククク……」

    長らくの間自分が生きているのか死んでいるのかさえ分からない暗闇に飲まれていたが。今、石神千空は紛れもなく石から息を吹き返した証明を得たのだ。


    ***

     生活拠点はかつて千空が部活動に励んだ科学室に設定した。カーテンや舞台用の暗幕など、学校中から様々な厚さの布を集めて虫食いの少ない部分を継ぎ接ぎにすると春のうちに衣類の不足はなくなった。

     夏には街へ森へ、一人でできるクラフトに必要な資材を調達したり食料になりそうな野草や根菜を探したりした。

     秋には冬に備えて防寒や食糧の準備を整えた。このあたりからようやく人1人が十分に生きていけるだけの生活基盤が整いはじめた。

     冬は食糧調達に行くことが少ない分、実験に専念した。科学室に置いていた薬品類や実験道具は地震で大半が駄目になっていたが、修理すれば使えるものもあった。学校の周りから石化した燕を集めてはできる限りの実験をした。


     そうしているうちに、千空が石化から復活してから丸1年が経っていた。2127年4月1日。科学室の黒板に日付を記し、チョークを置いた。

    「ククク……ミジンコ一人でここまで来たぜ。ハッピーニューバースデー、だ」

     まだ誰一人として、燕の一匹でさえ、千空の独り言に返事をする者はいなかった。

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