…はぁ、参りましたね。一人になってしまいました。せっかくこはくんとペアを組むことができたので、少々怖いですが良いところを見せようと意気込んでいたのに…。
私もお化け役に驚いてしまいましたが、余計に驚いたのが桜河の鉄拳です…。間一髪躱しましたが、騒いでいるうちにそのまま逸れてしまいました…。
「あ…大会議室……」
今回の肝試しではこの大会議室にあるお札を持って帰ってくるというものでした。一人ですが辿り着いてしまったので…意を決して中に入りましょう…。
………っ、真っ暗ですね。一歩、また一歩慎重に足を踏み入れた瞬間、視界の端から何かが動くのが見え、何者かに私は引っ張られた。
「!!!!?!?」
私は背後から誰かに抱きすくめられ口を塞がれた。
「しぃ〜〜〜っ、かさくん俺、俺」
え、せ、瀬名先輩!? どうして先輩がここに…?
「向こうからお化け役が走ってきてるから、じっとしてて」
入ってきた入り口に目を向けると、廊下の向こうから二体の不気味な怖い格好をしたお化けがものすごいスピードでこちらに向かってきていた。一人だったら悲鳴を上げていたでしょう。
お化けの二人が会議室に入ってくる。私たちは息を殺して立ち去るのを待つ。心臓の音が聞こえないか不安だった。それを分かってか、瀬名先輩は私の胸元を撫で続けてくれていた。
先輩の鼓動も背中に感じていた。
「あっちにいったね…ごめん驚かせて」
「本当に…心臓が止まりかけましたよ…でも、本当に助かりました心強かったです」
そう言って瀬名先輩にもたれかかった。背中に感じる熱が心強かったし、心から安心できた。
「…瀬名先輩は大きいですね」
「はぁ? 喧嘩売ってる?」
後ろからほっぺをぐにっとつねられた。
「てててて、あの、背中が、大きいという意味です…頼りにしてるんです!」
「ああ、なるほど」
そう言うと先輩の両腕が私に周り、holdされてしまった。触れ合ったままの背中がやけに熱かった。
「先輩…あついです」
「これも、あつさのせい?」
先輩は私の左胸に手を当てて跳ね上がった鼓動を確かめられる。余計に頬まで熱を持ってしまった。その熱くなってしまった頬に今度は手が添えられる。
「あっついねぇ」
「………熱のせいです」
「じゃあ、これも熱に浮かされたせいってことで」
先輩は私の頬を掴んだまま、私の顔を先輩の方に向けられ、限りなく顔を近づけられた。
「坊!!!!」
勢いよく大会議室のドアが開き桜河が飛び込んできた。
「ほら、お迎え来たよ。行きなよ」
瀬名先輩は私を立ち上がらせ背中を押す。
「お、お迎えではありません! …先輩は?」
「俺はもう少し相方……守沢を待ってみるよ」
先輩に「ありがとうございました」とお礼を言い、「桜河!」と声をかけた。
お札を手に取り、また廊下を進んで行く。桜河と歩きながらそっと自身の唇に指先で触れる。
さっきのあれはなんだったのでしょう。暗闇の中で触れた熱。背中に残る温かさと唇に残る熱─
熱に浮かされたと言うにははっきりと感触は残っていた。
また頬が熱を持ち顔を赤くしながら再び廊下を進んでいった。