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    momohiki_saburo

    @momohiki_saburo

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    momohiki_saburo

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    イニと竜≡がてつはうを使ってほのぼのと魚を獲る話、概ねギャグ寄りです

    「竜三!おるか?」
     寒い夜が明け、ようやく陽が差し込み始めた時分に野営で響く大声。
     こんな朝早くから叫ぶなよ。思わず眉間に皺が寄る。
    「ここだ!」
     同じくらいの声量で手短に居場所を返す。
     菅笠衆以外でここに来るとなるとあいつしかいないだろう、欠伸を一つして声の主を待つ。

    「ここにいたか」
     少しすると声の主が岩の隙間から出てきた。
    「仁!なんだよ朝っぱらから」
     まだこの時間だと寝てる奴も多いんだからあまり大声を出すなよ。まあ俺も大声で返したが。
     あまり大きな声だと皆が起きる、そう続けると、はっ、とした表情の後、俺の側に寄ってきて耳打ちしてくる。
     違う、そうじゃない。
    「これから時間はあるか?」
    「そりゃ腐るほどあるがよ」
     耳元で喋られるとこそばゆい。
     時間はあると答えると、なら一緒に来てくれとぐいぐい袖を引っ張られる。
     やめろ解れが拡がると振り払って仁の顔を見ると、何やらひどくご機嫌そうな表情。

     今度は何をしでかそうとしてるかは知らんが、その顔がろくでもないこと考えてる顔だってのはよく知ってる。
    「なるべく大きい籠を二人分用意してくれ、すぐに出るぞ」
     仁があんまり急かすので、仕方なく最低限の身支度だけ整えて、ようやく起きだした仲間の寝ぼけ眼に送られて野営を出た。


    「……で?」
     ろくに説明もされず連れてこられたのは野営から少し離れた場所にある川。
     言われるがまま持っては来たが、何に使うかわからない籠を足元に置いて、仁を見る。
    「ここで何するってんだよ」
    「まあ、焦るな竜三」
     お前がさっき急かしたんだろうが。
     俺のそんな視線はどこ吹く風とでも言いたげに、仁が襟の合わせの隙間から手を突っ込んでごそごそと何かを探している。
     ってかどこに物入れてんだお前。
    「ん、あった」
     にんまり笑った仁が取り出したのは蒙古の使う武器。
    「お前、それ…!?」
    「てつはう、と言う武器だ」
     名前こそ知らんがよ、それには随分手を焼かされたから知っちゃあいる。俺が言いたいのはなんでお前がそんな物騒なもの持ち歩いてるんだってことだ。
     問いただそうとする俺を仁が手で制してくる。くそ、腹立つなその顔。
    「まあ見ておれ、あの石だ。これをな」
     仁が川の中ほどに飛び出た一際大きな岩を指差す。
    「あそこに」
     そうして右手を振りかぶり
    「こうするのだ」
     てつはうとやらを投げた。

     ひゅるひゅると不規則に回転するそれは間抜けな軌道を描いて

     轟音と共に炸裂した。

     あ、やられた。そんな考えが頭を掠めた時には手遅れで、飛び散る水と閃光にすっかり俺は覆われていた。


    「おい仁!!何しやがる!!」
     くそ、目の前がちかちかする、耳も痛ぇ、鼓膜は…破れてないな。しかし、頭の上から足の先までずぶ濡れだ。
     この野郎、説明くらいしろよ。眩む視界で横を見れば、仁はけろりとした顔で立っていた。
     こ、こいつ慣れてやがる……。

    「そう怒るな竜三、そろそろだぞ」
     見てみろ、と仁が川を指差す。
     蒙古の武器で抉れた岩の周りに何かが浮かび上がる。あれは……。
    「魚?」
    「そうだ、これで飯に困らんだろう。さ、早く拾うぞ」
     仁が籠を一つ持ってざぶざぶと川に入っていく。
     一体何がどうなってんだ、呆けていた意識は「早くせんと魚がまた泳ぎ出すぞ」の仁の声で引き戻され、慌てて俺も仁に続いて籠と一緒に馬鹿みたいに冷たい川に入ることになった。

    「本当に魚だ……」
     籠の中に川から引き揚げた魚が入っている。あんな妙な方法で本当に魚が獲れたらしい。
     川から揚げる時にぴくりとも動かなかったので死んでいるのかと思っていたが、何匹か息を吹き返したらしく、籠の中で暴れている。
    「どうだ、これで飯が食えるであろう」
     満足そうな表情で笑うこの狐顔の幼馴染に、ついにつままれたかと思い、もう一度目を擦ってもやっぱり魚だ。
     聞くと、音と風で岩の下の魚を気絶させたのだ、なんて仁は答えるが、俺にはさっぱり意味がわからん。
    「ふうん、とりあえず魚が隠れていそうなところに投げ込めばいいのか?」
    「そのようなものだ」
     これで少しでも菅笠衆の食糧の足しになればよい、そう言って笑う仁。
     確かに菅笠衆の飯事情はギリギリだ。有り難く頂くことにした。
    「おっと、待て竜三。まだもう一つの籠がいっぱいになっておらんだろう」
     帰り支度を始めるかと準備し始めた俺を仁が止める。
     右手にはさっきの武器。
     確かに飯が増えるのは助かる、また川に向かって空を舞う蒙古の武器。今度はしっかり目と耳を塞いだ。
     ああ、まさか武器もこんな使われ方をするとは思ってなかっただろうになぁ。
     浮かび上がる魚を回収しに川に入りながら、そんなことを俺は思った。

     二人して濡れた服の端を絞って水を出す。
     川に何度も腰まで浸かったもんだからすっかり身体は冷えている。
    「しかし、あんな重いもんよく懐に入ってたな」
    「そうか?他にも色々あるぞ」
     仁は懐から鈴やら、爆竹やら、くないやらを取り出しては俺に見せつけるようにごとごとと地面に並べていく。
     どうやったらそんなに物が入るのか、試しに仁の懐を引っ張って中を見ようとしたら拒まれた。
    「ん、これは何に使うんだ?」
     ふと目について笛かと思い拾い上げたら、どうやら吹き矢の筒。
    「吹き矢じゃ蒙古は倒せんだろ」
     吹き矢で射てる針じゃ、うさぎか何かを仕留める程度が精々だと思っていたが、仁の顔を見るにどうやら違うらしい。
    「いや、殺せる。これを使うのだ」
     仁が懐から取り出したのは紫の花、また懐から物が出てきやがった。
    「これから毒を得て、それを針に浸すのだ」
    「やめろ、それをこっちに向けるな」
     ふっ、と矢を吹く真似をして仁は笑ってたが、そんなもんが刺さるとか冗談でも勘弁だ。
    「ふむ、竜三。この毒を使ったら魚も獲れるのではないか?」
    「馬鹿お前、そんな魚食ったら俺たちまで死んじまうだろ」
     真面目な顔して仁がとんでもないことを言い出した。
     第一そんなことしたら魚どころか、水を飲んだ下流の村の連中だって死ぬかもしれんだろ。
     川に毒を流すかのような動作をする仁を諌めて野営に戻ることにした。

     二人でそれぞれ馬に乗って帰路につく。
     服が濡れて寒いは寒いが、向こうに着くまでにはなんとか乾くだろう。
    「おい仁、……ありがとよ」
    「ん、何だ竜三?何か言ったか?」
    「なんでもねぇよ!」
     籠いっぱいの魚が重い。悔しいが仁のおかげで今日は皆飯が食えそうだ。


     道の半ばでふとさっきの会話を思い出す。
     ……しかし、毒の作り方なんて物騒なもの、よくあの伯父御が学ぶことを許したな。
     まあいいや、それよりもあの蒙古の武器が俺たちにも扱えるかどうか聞いてみよう。そうすりゃ最悪魚は食える。
    「なあ仁、さっきの武器は俺たちでも使えるか?」
    「うん?使い方を知りたいのか?よいぞ」

     こうして道中と、野営に帰ってから少しの間、俺たちは仁にてつはうとやらについて教えてもらい、その日は久しぶりにしっかり飯が食えたのだった。
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    momohiki_saburo

    REHABILIイニと竜≡がてつはうを使ってほのぼのと魚を獲る話、概ねギャグ寄りです「竜三!おるか?」
     寒い夜が明け、ようやく陽が差し込み始めた時分に野営で響く大声。
     こんな朝早くから叫ぶなよ。思わず眉間に皺が寄る。
    「ここだ!」
     同じくらいの声量で手短に居場所を返す。
     菅笠衆以外でここに来るとなるとあいつしかいないだろう、欠伸を一つして声の主を待つ。

    「ここにいたか」
     少しすると声の主が岩の隙間から出てきた。
    「仁!なんだよ朝っぱらから」
     まだこの時間だと寝てる奴も多いんだからあまり大声を出すなよ。まあ俺も大声で返したが。
     あまり大きな声だと皆が起きる、そう続けると、はっ、とした表情の後、俺の側に寄ってきて耳打ちしてくる。
     違う、そうじゃない。
    「これから時間はあるか?」
    「そりゃ腐るほどあるがよ」
     耳元で喋られるとこそばゆい。
     時間はあると答えると、なら一緒に来てくれとぐいぐい袖を引っ張られる。
     やめろ解れが拡がると振り払って仁の顔を見ると、何やらひどくご機嫌そうな表情。

     今度は何をしでかそうとしてるかは知らんが、その顔がろくでもないこと考えてる顔だってのはよく知ってる。
    「なるべく大きい籠を二人分用意してくれ、すぐに出るぞ」
     仁があ 2936

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