君が居た夏に 夏の、とある日のこと。本当に何でもない、ただ平々凡々とした日であった。隼人は何とはなしに屋上に繋がる扉の前に立っていた。何か屋上に特別な用事があったわけではない。何となく、もしも強いて言うならば、呼ばれた気がしたのだ。何かに。
出入りの禁じられているわけではない屋上の扉を開け放つと、ギィ、と酷く軋む音が踊り場に響いた。この学校が何年前に建てられたか、なんてことは分からないが、既に老朽化しかけている屋上に訪れたがる生徒はやはり少ない。いつ柵だとかが崩れ落ちてしまうか分からないからである。扉の向こうには、やはり誰一人の影も見えることはなかった。ジリジリと、身を灼くような暑さからの逃げ場がない屋上は、ゆっくりと廻る一年の中でもこの季節が一番不人気だ。何かに導かれたかの如く、隼人は屋上で唯一の影が出来上がっているところへ向かう。陽の酷く眩しい光に身体が、眼が襲われる。耐えるために瞬きを何度もしながら辿り着くと、そこには先客が座っていた。誰も居ないだろう、と高を括っていた隼人は驚いて思わず足を止めてしまう。ゆっくり歩いていたとはいえ、いきなり足を止めたために生徒用のスリッパが音を立てると、壁に凭れ掛かるようにして座り込み、眠っていた先客がぱちりと目を開いた。
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