悪魔兄妹のおはなし最初に見えたのは、4つの影
手を繋ぎ繋がり合う影は、優しくて、あたたかくて、そして、懐かしい。父と、母と、妹のシアラと…私たちが作り出す大きく小さな影は、広大な空の中にある、ひとつの雲のようだった。
誰に指を刺されても、この家族さえいればいいと思っていた。幸せだった。
だがある日、母が人間によって殺された。遺体は見ることが出来なかった。父が私達に見せないまま埋葬してしまったから。いや、見せたくなかったのだろう。母が母でないような、目も当てられない"物"と化してしまった事実を、父も受け止めたくなかったのだ。
それを境に、父はゆっくりと形を変えていった。
父が夜遅くに出かけ、残るのは酒の瓶と煙った臭い。閉まる扉の音を合図に、シアラとリビングへ向かう。こうでもしないと、物音1つで花瓶が飛んできてしまうのだ。コンロに火をかけ、母の遺したレシピ通りに、不慣れながらも手を動かす。懐かしい匂いが線となり、母の影をなぞり、輪郭を作っていく。その輪郭はやがてぼやけ、儚く消えていく。
2321