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    dokozo_no_mikan

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    dokozo_no_mikan

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    ちょっとした練習の小説。こっちが初期段階原文。
    カクヨムには加筆修正したものが上がりますので、よろしければ。

    テーマは『運命の恋』
    一応この内容のもと書いてはいますが、原文まま且つ作者の好み盛り合わせなのでわかりにくい事この上ありません。頭のほんと片隅の片隅にでも置いておくとちょうど良いかもしれません。

    ##練習
    #短編
    short
    ##お題でつくる物語

    分岐点は遥か遠くに この日は珍しく、雪の降り積もる日だった。外を歩く人影もまばらな夕時に突然、大きな音が鳴り響く。夢うつつで窓の外を眺める男は、はっとしてそばにおいた携帯電話を手に取る。画面を覗くとそこには懐かしい名があった。今でこそ交流はないが、かつての親しい友人の名だ。ほんの少し浮わつく心を抑えながら、男は応答する。電話先から聞こえる声は記憶の中よりずっと大人びていて、友人かと疑う程、違って聞こえる。
    「もしもし。久しぶりだな、隼人。元気だったか?」
     そんな電話の常套句にさえ、反応が遅れる始末だ。何とか絞り出した声が変に聞こえていないかだけが不安だった。
    「うん、元気してるよ? そっちこそ忙しくてまともじゃないんじゃないの」
     せめてもの意地で軽口を叩いてみるが、反応が芳しくなかったらと不安がつきまとう。しかし、そんな考えを吹き飛ばすかのような至極明るい返事が返ってきた。
    「ははっ、ちゃんと知ってんだ? まあ色んなところ飛び回ってると疲れるし元気ないこともあるから間違ってないわ。……で、話は変わるんだけど、隼人さ、ウエディングプランナーになったって言ってたよな。だから依頼も兼ねて電話してみたんだけど――」
     ガツン、と頭を殴られたかのような衝撃を受けた。そう、電話先の彼が言うように、男の就いた職はウエディングプランナーである。もちろんウエディングプランナーになったからの夢の一つとして、いつか友人やら家族親族やら近しい存在のウエディングに携わることを掲げていたが、まさかこんな形でそのときが来てしまうとは予想もしてなかったのだ。かつての友人ではあるが、何人か挙げられる程の友人の中で一、二を争う親しい関係で学生時代の大半は彼と過ごしたといっても過言ではない。人生のうちで抱えることの少ない大きな悩みから、明日の小テストがどうだという小さな悩みまで多くのことを共有したことだってある。そして、ここまでのことがあってか、男はこのかつての友人に世間一般では認められにくい想いを抱いている。数多くのことを共有し、色鮮やかで、さらには人生の中で最も輝かしいとされる青春時代を共に過ごしている。その過程が男の秘める恋慕を生み出したのであろう。つまりはこの親しいかつての友人からの仕事の依頼への心持ちは穏やかでないのだ。
    「なぁ、聞いてる? どうした、お前ももしかして多忙なのかよ」
     そんな口ぶりから推察するにかなりの時間考え込んでしまったのだろう。少々慌てながら、とりあえずの返事をする。
    「あ、ごめん、ちょっと予定とか考えてた。今の時期からならそんなに抱えてないし、大丈夫だと思う」
     思っているよりも多弁な己の様子に苦笑しながらも、何とか依頼の了承を伝え、電話を切る。これ以上話し続けたら、いつかぼろが出てしまいそうで怖くなったのだ。
     それからと言うもの、男は思っている以上に傷ついた心に見て見ぬふりをして、仕事に没頭した。ただでさえ楽ではないプランニングを一人でいくつも抱え、その上で同僚の担当する顧客の式場スタッフにもなった。日に日に抱える仕事を増やす男に危機感を覚えた上司がたまらず休むように言っても男はただ一言、「平気です、やれます」と一点張りであった。結局、誰も男を止められず、残酷にも時が過ぎていった。
     朝早くから打ち合わせの準備をし、食事も惜しんで打ち合わせをする。夕暮れまで顧客と相談して、それが終われば夜の披露宴のサポートに入り、終業時間が過ぎても会場片付けや翌日の準備の手伝いをする。そんな多忙すぎる日々を淡々と繰り返す中に救いとも呼べる終着のきっかけが訪れる。ちょうど桜の舞う麗らかな日のことだ。
    「最近忙しいって聞いたけどどうなのよ。アンタの大事なご友人から心配の連絡受けるこっちの身にもなってみなさい?」
     男の友人とも関わりのある共通の知人は開口一番そんなことを言った。多忙にもまれた男の心にこの軽口は優しく響く。少し冷たいようで言葉の奥に透けて見える想いの暖かさに触れて仕舞えば心が溶けていくことくらい分かっていたのに。男の目には悔しさの雫が浮かんでいた。
    「ねぇ、奈那ちゃん。俺どうすればいいと思う? 俺、あいつが結婚するって聞いておめでとうってすぐ言えなかったんだ。そんな奴がウエディングプランナーなんて笑っちまうよな……」
     今まで堪えていた感情が結果して溢れていく。ただひたすらに泣き喚き子どものように思いを露わにする。きっと男の時間がいくら過ぎれど、男の抱えた大きな感情はあの頃に留まったままであったのだ。
     電話の先からは昔と変わらぬ声が聞こえてくる。男の想いを全て受け止め頷き、ただ「そうだよね」と返事をする。その事実は確かに男の支えとなっていく。
     しかし、その支えとなった知人が男に電話をかけた目的は男をなぐさめるためだけではなかったのだ。
    「アンタのことだから、そんなことだろうとは思ってた。でも、私が電話したのはアイツに伝言を頼まれたからなのよ。酷なことだから、覚悟して聞いてくれる? 実はね――」
     それから告げられた話は男にまつわる大事なことについてであった。彼は昔、監修の根づく土地に居たこと。そしてその地で決められた許嫁が居り、その許嫁との結婚の時が訪れ、その依頼をウエディングプランナーをする男にしたこと。そしてこれらのことを全て隠していたということへの謝罪もあった。知人からも、「本人からの言葉じゃなくて伝言じゃ、伝わんないわよね。ごめんなさい。」
    なんて言われる始末であった。男には言いたいことが山程あったが、当の本人を前にしたとき、悪態の一つすらつけやしない自覚があるのだ。きっと口を開けば「そっか」と頷くことしかできないと分かっている。だから目一杯、この知人の前で泣くことにした。抑えきれない想いごと流れてしまえばいいと願いながら。
     そしてこれをきっかけに男は人が変わったと思われるくらいに吹っきれた。日々の仕事にちゃんと限度をもうけて適度な労働をし始め、朝早く来るのは変わらずとも、度を過ぎた残業をやめ、休憩をとり、誰もが目を疑うような規則正しい生活を送るようになった。受け持った友人のプランニングも順調に進めていき、ついに当日を迎えることとなる。
     丁寧に積み重ねてきた打ち合わせも功を奏し、晴れやかな夏の青空の下、式が進む。
     その最中に見えた友人の顔はよく知る友人ではなく、大切な許嫁の横に立つ新郎としての顔であった。楽しそうに笑い、誓いの口づけを交わす二人は今まで見てきた中で一番眩しく見えた。
     徐々に四季は進み、気付いたときにはもう披露宴さえも終盤になってきた。先程まで走り回りプラン通りに進んで何事もなく終わるよう尽力していた男も静かに敷き全体を見ている。楽しそうに歓談する会場も司会の言葉によって静まり返った。ついに新郎の謝辞を聞くところまできたのだと実感する。マイクを持って話す新郎の姿を眺めつつ耳を傾けた。長すぎない話の最後、彼はこう締めくくる。
    「――彼女との出会いが私をここまで成長させてくれました。私はこれを運命の恋だと思っています。彼女とのこの先を大切に生きていくことをここに誓い、謝辞とさせていただきます」
     男は己との出会いが運命であればよかったと思わずにいられなかったのだった。
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