スーツを着込んで、髪を整えて。
靴も磨いた。
歯も磨いた。
慣れない香水だって付けた。
内ポケットの膨らみを確認して、事務所を後にする。
道中花屋に寄って注文しておいた花束を受け取る。
108本の薔薇はずっしりと重い。
──これ、アイツ持てるのか?
そんな不安を覚えるほどの重さだ。
待ち合わせのヴリンスホテルのエントランスの前で立ち止まって深呼吸。
──落ち着け、落ち着け、大丈夫。
ロビーに進んでアイツを探す。
──いた。
ソファで足なんか組んで座ってやがる。
──何だよその、余裕〜って感じ。
俺はこんなにもテンパってるのに、と殺意を覚えたが、今日はダメだ、と心の中で拳を収める。
向こうも俺に気づいたらしく、軽く手を上げる。
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