コンビニでの買出し中で__皆で映画鑑賞をしたい。
唐突に、共同スペースの一室で声が響き渡った。
このような提案はユネやアカマルがすることが多いのだが今回は珍しく、ハルナが提案した。
その瞬間、皆の頭の中で三回ほど木魚が音を響かせただろう。
「ハルにしては珍しい提案だな、何かキッカケとかはあるのか?」
ハル、といつものように名前を略して呼ぶ幼馴染のアオトの声が三秒間続いた沈黙を破った、幼い頃からいつもハルナと一緒に過ごしていたアオトも珍しい事には変わり無かったようだ。
それにすぐに答えるようにハルナは口を開く。
「キッカケとかは無いんだけど、前々から思ってたのやってみたいなって!」
ハルナは声を弾ませながら返答した、ぱっちりとした目を輝かせながら。
どうやら単純な意欲だったようだ、でもその意欲はここに居る全員の共通になった。
映画鑑賞、映画は映画館で見るものだがハルナが言ってる映画鑑賞は部屋にあるテレビをCDプレイヤーを通して映像を見つつ、その場にあるコーラやスナックを手元に置いて楽しむ物だろう。
「でも今八時過ぎてるし、映画館まで行くのにはちょっと遠くない?」
世間知らずが居た、手を挙げて疑問を述べたユネはきょとんとしながらみんなの顔色を伺っている。
「あのな、ハルナが言ってる映画鑑賞は映画館で見るんじゃなくて室内テレビを前にお菓子とかつまみながら見るやつだと思うぞ」
ユネはアカマルの簡易的な説明でなるほどとうなづいた、多分一ミリくらいしか理解していないだろう。
「まぁ楽しそうだし皆意見一致って事で役割分担しようぜ、俺映画レンタルしてくる」
「切り替えるのが早いなアカマルは」
※※※
その後、何やかんやプランを立ててユネとフナミはコンビニにて買い出しを行う事になった。
「それにしても突然ね、いきなり映画鑑賞なんて」
いきなり呼び出されて、いきなり買い出しを頼まれたフナミはため息のように独り言を呟いた。
自室でくつろぎながら読書を嗜んでいたフナミだったがノックせずにユネがドアを開け、買い出しに行こう!と、大きい声で迫られた時は面倒くさいことが起きる前兆なのだと悟った。
だがここまで来たからには買い出しを務めなければいけない、引き返したらここまで来るのに用いた時間は無駄になるだろう。
でも買って欲しいと頼まれたものを記憶することもこれはまた、フナミにとっては面倒くさい事であった。
(それにしても、皆欲しいものが偏りすぎてるんじゃないかしら)
もっとメジャーな、ポップコーンとかコーラを注文してくるかと思っていた。
だが実際はアイスキャンデー、サンドイッチ、チョコ系統の菓子などを要求された。
最後は分かる、だがアイスキャンデーとサンドイッチはないんじゃないか?と、思ってしまった。
とりあえずコンビニの小さな買い物かごに入れつつも、偏ったあまりこれで合ってるのかと疑ってしまう。
とりあえず缶コーラと袋詰めされたポップコーンをかごに詰めて置いた、いらないと言われたら自分で食することにしよう、とフナミは心に決めた。
さて、先程アイスキャンデーとサンドイッチをかごに入れた訳だが、まだチョコ系統の菓子を詰めていないので一通りあるチョコ菓子に目を通す。
板チョコ、チョコクッキー
ブラッ●サンダー、たけの●の里、きの●の山、ポッ●ー……これ以上は危うくなるので伏せておく
さて、このようにしてたくさんのチョコ菓子やらがある訳だがどの菓子にするべきか分からない。
それを言ったらアイスやサンドイッチもたくさんの種類があるのだが注文してきたアオトとハルナのいつも好んで食べている種類が決まっていたのですぐに決まった。
問題なのはアカマルの頼んだチョコ菓子だ、何のチョコ菓子好んで食べているのか知らない、多分アカマルはただ単に適当なチョコ菓子を食べたかっただけだろう。
駄菓子菓子、万が一好きではないメーカーだったりするのであればアカマルはそこそこ損するだろう、多分。
フナミは菓子が並ばれた棚をじっくり見つめる、チョコ菓子は物によってはチョコが熔けて手に付いたりする事がある、ならばその部類は省いてもいい対象である。
だがそれを除いても、菓子の種類はまだ沢山ある。
正直、ここまで考えるのがちょっと面倒くさくなった頃合である
(今日のおかずを子供に聞いて適当な回答を返された母親の気持ちがわかる気がするわ……)
唯一、フナミが母に同情した瞬間であった
※※※
「え?まだ、買ってなかったの?」
ユネは少しばかり大袈裟に驚いた顔をしてみせる。正直フナミは何も言い返せなかった、そう言われても仕方ないから。
「……アオトとハルナは明確な好みが分かってるのはともかく、アカマルは何が好きかとかよく分かんないのよ」
言い訳する余裕はあったようだ、でもユネは驚きのある表情が、困惑に支配されてゆく
そこまでおかしい事ではないと思いつつあった、何せ共同スペースで何かを食べる様子をフナミは見たことなかった。
なぜ、ユネは困惑しているのかフナミは理解できなかった。
「あのさ、アカマルっていつもあれ食べてるじゃん」
「あれって何?」
「チョコ味のカ●リーメイト」
……本気で言っているのだろうか、あれはあくまでバランス栄養食であるはずだ、チョコ菓子の内に入るのだろうか
「これって……常識内の菓子の部類には入らないと思うのだけど」
「あのねフナミ、お菓子の部類には入らないと思うけどアカマルはあれいつもおやつの時間に食べてるじゃん」
言われてみればそうだ、だが詳しい時間帯までは知らなかった。
「確かに……言われてみたらそうね、昼過ぎによく食べてた」
「でしょ、コンビニ行く時には絶対買ってるの!」
そんなにあのバランス栄養食が好きだったのか、と少しフナミは驚いた。そんなに美味しいのだろうか。
「というか、何であんなに迷ってたのさ、アカマル好き嫌い無いし適当に選べば良かったじゃん」
それもそうだ、アオトみたいにピーマンやグリンピースを残すような子供では無い、恐らくフナミがここで数分、数時間かけて菓子を選んだとしても、アカマルはチョコ菓子であればどれでも良かっただろう、それは最初から知っていた。
「……万が一、嫌いなメーカーの菓子だったらアカマルも嫌でしょ」
返答に迷いつつ質問を返す、するとユネはぽかんとした表情を顔に出したあとゆっくりニヤけた表情に変わってゆく、気持ち悪くは無いが、気味が悪かった。
数秒たったあとへぇ、ふぅんと、声を弾ませてこちらをジロジロと見てきた。
「何でニヤけてるわけ……?」
フナミは謎の空気に耐えきれず理由を聞いた
するとユネは表情を変えず、口を開く。
「いや、アオトとハルナの分はちゃちゃっと選んでた割にはアカマルの分はじっくりアカマルのために考えてたんだなぁって……」
数秒後、フナミは顔を赤面させて大いに否定した。