おやすみ繝医Λ繧、繝悶リ繧、繝ウ 前編 ――シナガワシティ、シナガワプリンスホテル XXXX号室。
皆が寝静まった、静かな夜。
この薄暗い部屋で、スマートフォンのバックライトだけが、周りをぼんやりと照らしている。
僕は、小石くんからのNINEを見ながら、小さくため息をついた。
「王次郎。やっぱり不眠の原因は精神的なものが多いみたいだよ。もう、心配しなくてもいいじゃないか。気にしたって仕方がないし……今は僕に、トラッシュトライブのメンバーがいる」
部屋の片隅に丸まっている毛布に、ぽんと手を置いて、言葉を続ける。
「君は一人じゃないんだ、王次郎」
「……そうだな」
白髪まじりのぼさぼさ頭が、ゆっくりと揺れた。
ネオトーキョー国の誰もが、この男を『鳳 王次郎』だとは思わないだろう――この僕を除いては。
幼馴染として、家族として……ずっと一緒だった自分だけが、この王次郎を知っている。大事な人が傷ついた姿をしているというのに、それは不思議と――悪い気分じゃなかった。
「カズキ……」
「何?」
「手を……握ってくれ」
わかったよ、と小さく呟き、毛布から伸びた手をそっと握る。少し骨ばっているが、ゆっくりと脈を感じる、温かな手だ。この2年間、毎日こうして過ごしてきた。もはや日課と言ってもいい。
王次郎の手を握り、そばに寄り添っているうちに、気がつけば朝が来ていた。そんな夜を、何度も繰り返してきた。
スマートフォンを閉じた瞬間、闇が僕たちを包み込む。
その静けさの中、窓の外からシナガワの夜景が、やわらかく差し込んできた。この前轟には「100万ドルの夜景なんていうけど、実際のところ残業している人たちの命のろうそくだよね」なんて毒づいてみせたけど、確かにこうしてみると、天の川が眼下に広がっているような、幻想的な光景だった。
少し身を乗り出して、窓を覗き込む。しかし、夜景以上に、目に飛び込んだ"あるもの"が、脳裏にこびりついて離れなかった。
それは、自分の顔だ。それも――幸せそうに微笑んでいた。
「そうか……僕は今、幸せなんだな」
今、僕達はゼロの脅威に晒されていて、明日にも殺されるかもしれない。そうじゃなくても、王次郎が鳳家として犯してきた悪事や、僕がミナトを踏み台にしてきた罪も消えはしない。
だけど――僕達には共通の敵と戦う仲間たちがいる。
"トラッシュトライブ"という居場所がある。
こんな非日常な日常が、ずっと続けばいいのに。
「おやすみ、王次郎」
僕は、ゆっくりと目を閉じた――。