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    ahuretagomibako

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    ahuretagomibako

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    カズキとQがスマブラをします。そこに曜くんとツキちゃんも参戦。

    トラナイ学パロ スマブラをする   ――トラナイ学園 XB部 体育倉庫。
     炭酸カルシウムの酸っぱい香りと、グラセンの土臭さが混ぜっ返された、なんとも言い表し難い青春の香りがする、このトタン屋根の下。
     ここにあるのは、どこのXB部にもよくあるグローブやバット、古びた二槽式洗濯機など、どこにでもあるものばかりだが、一つだけ例外があった。
     こんな体育倉庫に似つかわしくない、いくつものヒューズが繋がれた壊れたテレビと、Switchドッグが、何者かを待つように静かに鎮座していた。
    「何度見ても……これでよく動くものだ」
     Qが、ぐらつく動力パイプをつつきながら小さく頷く。
    「えのきちゃん、大井さんが川から拾ってきたテレビを直しちゃったんでしょ? 本当にすごいよね、彼女」
    「ああ。だが、大井は怒り狂っていたな……」
     僕とQは顔を見合わせ、笑う。この出来事は、最近のトラナイ学園においては、最も大規模な"事件"だった。
     正直に言えば、この学園はものすごく平和で、事件らしい事件は起きた試しがない。あるとすれば、百太郎くんが自転車で時速60キロを出しておまわりさんに叱られるぐらいだ。

     それに比べれば、今回の『えのきちゃんによるテレビ私物化事件』は、たしかに"事件"だった。
     とはいえ、それはあくまで、大井さんがボランティアの一環として処分する予定だった大量のゴミの中のひとつを、別のかたちで処分してしまったに過ぎない。
     当然、テレビの元の持ち主が知るはずもなく、実質的な"被害者"も存在しない。
     大井さんには申し訳ないが、これもまた、日常の中に埋もれて静かに忘れられていく出来事のひとつだろう。

     僕は、配線がむき出しのリモコンを手に取ると、電源ボタンらしき赤いタクトスイッチを押しながら言う。
    「まぁ、いいじゃないか。おかげで僕達もゲームができるんだ」
     Qも釣られて微笑む。
    「……そうだな。今日も楽しく」
    「プレイしよう!」

     僕達はSwitchのコントローラーを握りしめると、不敵に笑う。
     僕は私物のPROコンを、Qはあえて備え付けのJOYコンを両手持ちすると、Switchを起動した。
     タイトルは大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL、大人気の対戦型アクションゲームだ。色々なゲームのキャラクターが一堂に会し、殴る蹴る等の暴行により勝者を決めるゲームだ。
     僕らは、キャラ選択や戦闘開始を待ちながら、適当に雑談を続ける。
    「それにしても……ここにSwitchを置いてくれた小石くんには感謝しないとね」
    「ああ……なんでも、この素晴らしいゲームを広めたいと言っていたな」
    「Switchを5台持っているとも言っていたよ。彼のゲームに掛ける情熱には驚かされるよ」
    「だが、そこまで熱中できるものがあるというのは少し羨ましい」
    「ふふふ、言えてるね」
     そこまで言った時だった。炎のようなエフェクトが画面を覆い尽くし、戦闘開始の合図が現れる。

    『スリー、ツー、ワン、ゴー!』
     ゲームのナレーションがあたりに響き渡り、軽快なBGMが流れ出す。
     まず戦場に現れたのは、Qの選択したキャラクター……クラウドだ!
     クラウド・ストライフ。ファイナルファンタジー7に登場する、ソルジャー1stを名乗る謎の男。どことなくミステリアスな雰囲気を持つところや、気づけば釘バットを振り回していそうなところなど、なんとなく似ている気がする。
    「やっぱり、Qはクラウドが好きだね」
    「クラウドの力強い戦い方、遠距離にも対応できる必殺技……隙がなく性に合っている。だが――」
    「だが……?クラウドの気に入らない部分でもあるの?」

     Qは少し悩んだかと思うと、ため息混じりに言葉を吐き出した。
    「……声がジオウに似ている」
     Qの苦虫を噛み潰したような顔に、僕は思わず吹き出す。

     そんな事をしていると、次に現れたのは僕の選択したキャラクター――ブラックピットが現れた。
    「ほう、ブラピか」
    「うん。色々試してみたけど、ブラピくんが一番性に合うかな。癖のない挙動で、非常に守りが堅く扱いやすいし――何より彼が持つこの武器、なんだか親近感があってね」
     ブラピが武器を振り回す。
     神弓シルバーリップ。2つの短刀が合体し双刃刀になったかと思うと、次の瞬間には弓になっている、なんだか面白い武器だ。
    「ふふっ……確かにカズキらしい」
     そんなこんなで、乱闘が始まった。
     正直に言うと、僕らはお互いの手の内を知り尽くしている。そして、その勝率はほとんど拮抗している。
     今回も、火花を散らすような接戦だった。

    ****

     戦いも終盤、互いに潰しの効かない残り1スタック。戦いの終わりは刻一刻と迫り続けていた。
    「ここだ! 下投げ、小ジャン空上、からの空上!」
     矢による牽制によりガードを誘発させ、そこから掴みを通していく。
     攻撃からの攻撃、コンボからの追撃。
     ターンを渡さず、着実にダメージを増やしていく。このまま行けば、被弾なしの完全勝利もありえない話ではない。
     だが――Qのクラウドはそれだけで倒せる相手ではなかった。
    「くっ……かくなる上は」
     小気味よく刻み続けていたコンボが突然終わった。

     突如、クラウドの持つ鉄塊のような大剣がブラピに突き刺さる――そして、空高く舞い上がった!
     クライムハザード、クラウドの上必殺ワザだ。通常はステージへの復帰に使われる上昇のためのワザだが、発生の速さから、相手の攻撃に割り込んで使われる事もある。
    「なっ!? 空中での暴れにクライムハザードだって!?」
    「だけではないぞ――堕ちろッ!」
    「やっぱり……そう来るよね!」
     続けざまに放たれるもう一つのリミット技、ブレイバー。スマブラにおいてはクライムハザードの派生から出すことができる、急降下の一撃だ。

     ドシュッ!という、聞き慣れない打撃音が体育倉庫に響き渡る。
     メテオスマッシュ――そう呼ばれる、地面に向けて吹き飛ばす打撃攻撃が命中した。
     ブラピはまるでゴム毬のように地面を跳ね、無防備な姿を晒している。
    「ふふっ、今回は私の勝ちだな」
     勝ちを確信するQ。攻撃を構えるクラウド。もはや、終わりかと思われた。だが――

    「デンショッカー!」
     ブラピが勢いよく叫ぶ! すると、金色の箱のような物体を携えたブラピが、クラウドの攻撃を耐えながら突進する!
     そして、そのままアッパーカットを食らわし、クラウドを場外に叩き出した。
    「なっ――」
     すかさず飛び込み、追撃を食らわせようとするブラピ。
     お互いに場外、触れれば落ちるような二人。こうなってしまえば先に動いたほうが勝つ。勝敗の分水嶺はこの一瞬に託された!
    「負けるか!」
    「ここだ!」
     しかし――その瞬間、体育倉庫の扉が勢いよく開け放たれた。思わず、手が止まる。

     これが先生だったらまずい。このテレビの件は首謀者はえのきちゃんだとはいえ、僕らが見て見ぬふりをしているのがバレれば、最悪部活動が停止処分にもなりかねない。
     画面から目を離し、振り向く。
    「カズキさん!Qさん!探したよ。ここに居たんだな」
     白と黒にしっかり別れた特徴的な頭に、透き通るような碧眼……見間違うはずもない。うちのエースストライカーの曜くんだ。

     ――訪れたのが先生ではなかった、その事に安堵したのも束の間だった。
     一瞬の――ほんの一瞬の出来事だったが、勝敗が決まるには十分だった。画面から、また聞き慣れない打撃音が響き渡る。再びのメテオスマッシュだ。勝敗は、決まってしまったようだ――
     しかし、僕の想像とは裏腹に、隣からは意外な声が聞こえてきた。
    「あっ」
     Qはやってしまったという顔で画面を見ている。僕も慌てて画面に目を向けると、そこに写っていたのは確かにメテオスマッシュで叩き落されていくブラックピットがいたが――
     ほぼ同速度。ブレイバーで急降下していくクラウドもいた。

     気がつけば、クラウドとブラピが、悔しそうな顔でお互いを健闘して、拍手をしている光景が目に入った。引き分け扱いのようだ。
     それを見た僕とQは思わず目を見合わせると、息ができなくなるぐらい笑った。

    ****

    「いやぁ、笑った笑った。それで曜くん、一体どうして僕達を探してたんだ?」
     僕がそう問うと、曜くんははにかみながら答えた。
    「小石から聞いたんだ。スマブラをやってるんだろ? 俺もスマブラは結構自信がある、ぜひ戦ってくれないか?」
    「それはいい。私も、ぜひ曜と一戦交えたい」
     Qも穏やかな表情で頷く。
    「さて、それじゃ早速……」
     曜は座布団に座り、自分のエナメルバッグから64コントローラーを取り出している。
     それを見ていると――、ふと、閃いた。

    「そうだ、Q。曜くんがどんなキャラを使うのか当ててみないか?」
     Qにそんな提案をしてみる。Qは意外そうにポケットに手を突っ込むと、うつむきながら呟いた。
    「ふむ……私はそういった事はあまり得意ではないが、一つ思い当たるキャラクターがいる。勇者ではないか?」
     勇者――ドラゴンクエストの主人公。カラーチェンジにより4の天空の勇者、3のロトの勇者などに変貌を遂げるキャラクターで、確かに勇者と呼ばれる曜くんによく似合っている。
     正直なところ、僕もそうではないかと考えていた。だけど、どうせ当てにいくなら同じキャラでは面白くない。僕は『もう一つの仮説』に言及することにした。
    「僕はロックマンじゃないかと思うんだ」
     ロックマン――ライト博士に造られたお手伝いロボットだったが、ひょんなことから洗脳された兄弟たちと戦うことになる、カプコンのアクションゲームだ。
    「それは何故だ?」
    「うん、それがね。曜くんのNINEのアイコン、あれはロックマンに登場するブルースらしいじゃないか。この前、小石くんが言ってたんだ」
     ブルースについて詳しくはないが、とあるナンバリングに存在する、ロックマンの試作品のようなキャラクターらしい。
    「なるほど……曜はロックマンを好んでいると」
     果たして――曜はどのキャラを選ぶのだろうか?僕達の期待の視線が曜くんに注がれる。

     少し困った顔の曜くんは、それに答えながらカーソルを動かした。
    「確かに俺はロックマンも好きだし、勇者だとか言われる事もあるけど……」
    「対戦ゲームっていうのは勝利に向かって努力するのが楽しいゲームだろ?俺はそういう私情でキャラは選ばないよ」
     曜くんは、まるでバッターボックスに立った時のような険しい顔つきに変わる。
    「よ、曜くん……?」
    「おかしなことは言ってないだろ?勝つためならばどんなキャラだって使う。それが大乱闘スマッシュブラザーズだ。」
     曜くんが決定ボタンを押した。それと同時に、キャラ選択の音声が響き渡る。

    『カズゥーヤ』

     確かに、そう聞こえた。曜くんのイメージとは何ら結びつかない、筋骨隆々で悪人面の中年男性が、確かに選択されている。
    「三島一八だって!?」
    「すまない、カズキ……あれはどういったキャラクターなんだ?」
    「ええと……僕もそれほど詳しいわけじゃないんだけどね」
     僕はポツポツとカズヤについて知っていることを話し始めた。
     三島一八。鉄拳シリーズのキャラクターで、主人公なのに悪人で御曹司、さらに世界全体に対して戦争を仕掛けるなど異常な人物である……のだが、やはり特筆すべきはその性能だ。
     鉄拳は超攻撃的なゲームだ。ちょこんと敵に触れるたが最後、空中に打ち上げられた相手はバスケットボールのようにドムドムと地面をバウンドしつづけ、凄まじいコンボダメージにより一瞬でゲームが終わってしまう。
     それがスマブラにもほぼそのまんま持ち込まれているので、大変に悪名高いキャラクターとなっている。

    「と、とりあえず、戦ってみるしかない」
    「どのような相手であれ、私は逃げたりしない」
     僕達は威勢よくそう言い放ち、コントローラを手に取る。三島流喧嘩空手との戦いが幕を上げたのであった――

    ****

     はっきり言って、その後の戦いは地獄だった。ゼロ校長先生の長過ぎる朝礼よりも一分一秒が長く感じられたかもしれない。

     僕達は代わる代わる曜くんの駆るカズヤ相手に立ち向かったが、結果はいつも同じだった。
     まず、戦闘開始と共にカズヤに近づくと、カズヤは妙なステップとともにショートアッパーを繰り出してくる。『ドゥリャ』というカズヤの声があたりに響いたかと思うと、操作不能の状態で空中に舞い上がる。悪名高き「最速風神拳」だ。
     続けざまに変幻自在の打撃をいくつも叩き込まれたかと思うと、空中に勢いよく吹き飛ばされてストックを一つ持っていかれてしまう。

     もちろん、こちらが先制を取れることもあった。
     幸いカズヤのボディは大きく、どんなコンボでもきれいに命中し、大ダメージを与えることができる。しかし、こちらが場外にまで押し出してしまうと非常によくない状況になる。
     カズヤは空中でこちらのキャラクターのこめかみをがっしりと掴み上げたかと思うと、そのまま崖の下まで真っ逆さまに落ちていくのだ。下必殺技、ヘブンズドアー。カズヤが持つ協力な撃墜手段の一つだ。
     空中投げからの道連れ、今までクッパにしか許されていなかった攻撃まで搭載されているとなると、どんな方法を使っても勝てる気がしなかった。
    「……強いな」
     Qが深刻な表情で呟く。もう、何をやっても曜くんのカズヤには勝てないかもしれない――

     その時だった、そんな重い空気を吹き飛ばすかのように、体育倉庫の扉が開かれた!
    「あ、曜ったら! こんなところにいた! もう、今日は私と帰るって約束したじゃん!」
     はつらつとした声に、揺れる金髪のツインテール。間違いない、彩葉ツキちゃんだ。彗くんとバッテリーを組む、XB部 一年期待のピッチャーだ。
    「ツ、ツキ!今、ちょっと忙しいんだよ。次の戦いが終わったら帰るから――」
    「あー!曜ったらスマブラやってるんだ! せっかくだから私もやろうかなー。カズキさん、Qさん! よかったら私も1回戦ってもいいかな?」
    「ああ、もちろんだ。だが、曜は強いぞ」
    「ちょっとまてツキ、それならキャラクター変えるからちょっとま――」
    「はいはい、早く一戦やったら帰るよ!」
     ツキちゃんは強引に戦闘を開始した。何故か曜くんは焦った顔でコントローラーを握り続けている。あの練度のカズヤなら、どんな相手にも負けないと思うけど……

    ****

     そして戦いが始まった。
    「よおっし!やるぞー!」
     ツキちゃんが選択したのは……かわいらしい球体のキャラクター、カービィだ!本来は桃色のキャラクターだが、黄色になっている。
    「へぇ、色も変えたんだ。ツキちゃんらしいね」
    「しかし……相手はあのカズヤだ。勝てるのか?」
    「だいじょーぶ!普段曜と戦う時は結構勝ててるんだから!」
     自慢げに語るツキちゃん。僕とQは顔を見合わせると、言葉こそ発さないものの、正直に言って信じられないという表情をあらわにした。
     それもそうだ、カービィは火力が高く、ふわふわと高く飛べるキャラクターでこそあるものの、とても吹っ飛びやすいし、とりわけ極力なキャラクターと言われることもない。
     しかし……何故か曜くんの顔は変わらず暗いままだ。
     今までの勝利のためにどんな手段でも選ぶような貪欲さのある顔とは打って変わって、余裕のない表情を見せている。
    「戦って勝つ、それだけだ!」
     曜くんのカズヤが地を縫うようなステップでカービィに近づくと、『ドゥリャ』という声が響く。
     思わず目を伏せる。もう、この先はもう何度も見たからだ。異常な火力でのコンボを叩き込まれ、一撃で勝負を決められる。その繰り返しだ――

     しかし、再び顔を見上げると、信じられない光景が広がっていた!
     カービィはダメージを受けていない。それどころか、攻撃を受けてすらいないようだ。なんと、カービィがマンホールの蓋にでもなってしまったかのような形状で地面にぺったりと張り付いている……。
    「そうか! カービィのしゃがみ姿勢はものすごく低い。風神拳が当たらないんだ!」
    「いっくよー!」
    ツキちゃんのカービィがそのまま下強攻撃を叩き込む。その低すぎる姿勢のままにゅるりと足を伸ばしたかと思うと、カズヤに足払いを仕掛ける。
    「くッ……!」
     カズヤはそのまま転倒し、カービィの追撃が始まる。その球体からは想像もつかないような鋭い体技が次々と繰り出され、あっという間にカズヤのダメージはみるみる溜まっていく。
     たった1回のターンで80%強。カズヤは一度も反撃ができないまま、撃墜圏内に入った。
    「こ、これは!本当に勝てるんじゃないか!?」
     僕は思わずそう呟いた。しかし――
    「まだ、終わりじゃない!」
     曜くんがそう言い放つ。すると、カービィのこめかみ(全身?)を掴むと、地面に叩き落さんとする。
    「ヘ、ヘブンズドアー!?」
     これで道連れにされてしまえば、現状のダメージ差によるカービィの有利は露と消える。
     奇跡はそう何度も続かない。
     カービィがしゃがむとわかっていれば、曜くんはそれを前提とした行動に切り替えていくだろう。そうなってしまえば、ツキちゃんの勝利は望むべくもない……

     カズヤが崖外へ落ちていき、撃墜音が響く。
    「終わった……」
     僕は思わずそう呟いた。
     曜くんと対戦慣れしているからだろうか? 天真爛漫としたツキちゃんとは思えないほど実戦的な動きをしたカービィだったが、この攻撃ばかりはひとたまりもない。
    「待て、カズキ……!」
     Qが驚いた顔で画面を指差す。すると、ふわふわと黄色い玉が画面下から登ってきた!
    「ど、どういうことなんだ?」
    「わからん……もしかすれば、カービィの復帰力の高さが影響しているのかもしれんな」
     最後に上必殺技で崖を掴むと、ツキが額から汗を拭って言う。
    「もう!曜ってば、いっつもそれなんだからー!」
     曜くんは絶望の表情でコントローラーを握り続けていたが、それに反論することは最後まで無かった。

    ****

     1ストックの差は大きいものだが、勝敗を決した理由はそれだけではなかった。
     その後の戦いは、はっきり言って戦いというより、蹂躙と言ったほうが正確だったからだ。
     カービィがカズヤを吸い込むと、目からビームを垂れ流す悪夢のような存在へと変貌。カズヤは空中をふわふわと動き回る縦横無尽の固定砲台になすすべなく、まるで古い怪獣映画のように逃げ惑っていた。
    「これは……」
     思わず言葉を失う。悪逆非道のカズヤとはいえ、こうなってしまうと少しかわいそうにすら思える。
     そんな事を考えていると、Qは僕の服の袖口を軽く引っ張ると、耳元で囁く。
    「カズキ……少しいいか?」
    「いいけど……どうしたの?」
     曜くんの漏れる苦悶の声をBGMに、Qはつらつらと語り始めた。
    「私は……最強のXBプレイヤーを目指していた」
    「う、うん……。唐突だね?」
     後ろではカズヤの情けない悲鳴が聞こえてくる。そんなもの聞こえないかのように、Qは続ける。
    「無論、XBは一人でできるスポーツではない。最強というものは、優秀なチームメイトに支えられて、初めて成るものだ……それを改めて実感させられた」
    「え? このスマブラで?」
    「ああ。曜のカズヤは最強と言っても差し支えのない動きだった。しかし、ツキのカービィとはあまりにも相性が悪すぎる」
    「これはスマブラだから、このような形で相性差が表に出る。きっと、XBでもそういった相性差が存在するはずだ。だが、XBはスマブラとは違う。私達は背中を合わせ、戦い、お互いを補い合うことができる」
     びーっ!というカービィの声がこれでもかというほど響いているが、Qは確信に満ちた瞳でまっすぐとこちらを見据えている。
    「Q、君の言う通りかもしれない」
     スマブラは、ただのゲームだ。これはただの暇つぶしで、仲間とワイワイすることが目的だし、それ以上のことはなにもない――そう思っていた。
     だけど、こんなありきたりで平和な日常こそが、今の僕達を――トラナイ学園 XB部を形作っている。

     僕は、たまに騒がしいと思うこともあるけれど、そんなXB部が、どうしようもなく気に入ってるみたいだ。
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