とある令嬢の最期の祈り「お兄さま逃げて…私はもう駄目よ。わかってるくせに…頭がよくて優しくて格好いい、私の最高のお兄さまですもの」
「ね、逃げてね。そして私の分までしっかり生きてね」
「私の髪をあげるわ。生まれてから一度も切ってない、自慢の髪よ…お守り…きっとお兄さまを護ってくれるわ…いつだって一緒よ…」
「さぁ、いって…逃げてね…」
最期だってわかったから、私、頑張ってたくさん喋ったわ。
いつもだっておしゃべりだけど、叩かれた頭は痛いし、指先だってもう力が入らない。口を動かすのも、息をするのも大変なのよ。
でも滅多に泣かないお兄さまが、かしら。
お父さまとお母さまが恐ろしいひとたちに殺されてしまって、言われるまま逃げ惑ってたどり着いたスラム街。
お兄さまは今までやったこともないいろんなことを必死にこなして、私を生かそうとしてくれた。
優しいお兄さま。
お父さまとお母さまが死んでしまって悲しくて哀しくて仕方がなくて、私を唯一の拠り所にしていたのに、私まで逝ってしまったらお兄さまはどうなってしまうのかしら。
ああ、でもあの狼さん。
こんな私達にもやさしくしてくれた、優しい優しい狼さん。狼さんは私のことがきっと好きだったのね。悪いことをしてしまったわ。
狼さんは一途だというから、振り切れるといいのだけど…後追いなんて、お願いだからしないでくださいましね。あんまりおしゃべりは出来なかったけど、私も優しい狼さんは大好きよ。
この気持ちが風に乗って空を渡って、いつかの春に狼さんに届くといいわ。
お兄さまも狼さんのことが大好きだったわね。
再開できるように祈ってる。
ああ、もうそろそろ本当に駄目みたい。
あの足音、狼さんかしら。
ごめんなさいね、さようならは言えないの。
私の大切な大切な、大好きなひとたち。
きっとあなた達に、幸せが届きますように。
私はずっと、あなた達のそばにいるのだわ。