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    そまの創作垢

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    ナギの身辺整理

    ##CoC

    凪_ナギ_Nagi極道の狭間に身を起きながら、その実態はギャングであり背負う紋など存在もせず。
    しかし中枢にあるが故、そこらの三下よりよほど力を持つ、それが世に言う『調整屋』の実態である。
    そこに生きる者にとって戸籍上の名は符号に過ぎず、個を指し示すものと言えば、組織に与えられたコードネームとなる。

    Nagi.

    愛着を持たぬよう、名からは取らないことが多いのだという。親もまた、似たようなコードネームを持っていた。
    組織の中で、実の両親が育ての親となることもあれば、全くの他人が育てることもままあった。なんと言っても、子を育てられるだけまともな人間が指折り数える程度にしかいないような場所なのだ。
    ナギの両親は珍しく、双方揃って実の親であるらしかった。彼らはナギを身ごもった頃から第一線を離れ、同じく組織の誰かが拵えた、もしくはどこぞから拾われてきた子どもたちを育てるようになった。
    そうしてナギと一緒に育てられたのがナズナとカズキだ。彼らは親を持たぬ子どもたちだった。
    歩き回り言葉を話すようになれば、子どもたちは組織の訓練に投入される。
    戦闘、交渉、暗殺、その他様々な訓練を受け、適性を見て、齢10を超えた頃にそれぞれに合ったチームへと振り分けられる。
    チームは三つ。
    「creepy」「rubbish」「scum」。
    花街、中華街、埠頭を根城に表と裏の均衡を保つ。
    「creepy」は口が上手く陰湿で、
    「rubbish」は薬物知識に長け狡猾、
    「scum」は武力を誇り容赦がない。
    ナギが最初に振り分けられたのは「scum」だった。
    10の頃から下積みを積み、16で一人前になれるかと言う試験が課される。
    そこでナギは失敗したのだ。

    下積みの頃からともに育った少年がいた。
    少年の名はコウと言った。
    荒れると書いてコウ。荒事の多い「scum」にはぴったりだろうとよく胸を張っていた。
    彼とナギは頗る仲がよく、彼はナギを己の半身だと言い、ナギもまたそれに同意した。
    試験の日、ナギはとある港の倉庫にて、スパイを一人排除するよう命じられた。
    生死問わず、決してこちらの情報を相手方に渡されてはならない。受け取りに来ている相手方も纏めて始末するようにとのことだった。
    斯くしてナギは、見たこともないくらい眼光で以て己に銃口を向けるコウと対面することとなる。
    彼がスパイだったのか。
    いつから?
    最初から。
    向けられた言葉は?
    すべて偽り。
    それら全てを一瞬に理解する。
    ああ、己のなんと不甲斐ないことか。
    掛けられた信頼、信用、偽りに溺れて少年を信じた。
    そしてこうして銃口を向けられて、己は今尚戸惑いを感じている。
    殺せと頭が命じる。
    嫌だと心が拒む。
    甘い。
    この世界に生きる者として、
    積み上げられた砂糖よりも甘い。

    だから、ナギは失敗した。

    コウは撃った。
    銃撃は心臓にこそ当たらなかったが、しっかりと腹の柔らかい肉を貫き、臓腑を焼いた。

    ナギが撃った玉は当たらず、彼の頬を掠めたらしい。その後彼は控えていた組織の大人たちによって、結局は殺されてしまったのだそうだ。


    長い療養期間。
    その間に、社会見学と称してとある遊郭に連れて行かれた。この道に進むかもしれないだろうと、お前はどうせカタギになどなれないのだからと囁いたのは、今思えばいつもナギに怪しげな視線をよこしていたよく知らない組織の大人のひとりだった。
    連れてこられた遊郭で、ナギは男と出会う。
    男の名は塵芥。
    「あくたとお呼び」と笑った彼が、ナギが初めてその手で殺した人間だった。

    芥のもとにいたのは、数えればほんの数カ月のことだった。
    17の夏だ。
    彼の部屋は不思議な香りがして、彼の部屋にいるときは心が安らいだ。
    芥はナギに、色々なことを話して聞かせた。
    小さな子どもが好む物語から、しっとりとした色事、彼が吸う葉っぱのことまで。それをナギは寝物語のように聞き、時に手を惹かれるように覚えていった。
    芥は可哀想な人間だった。
    陥れられ、搾り取られて、もうこの世界から抜け出せない。
    裏には五万と蔓延る、可哀想な人間だった。

    「お前はこの世界を守るのさ」
    「このクズみたいな世界だけれど、とうにここでしか生きられないゴミカスが、この世にはゴマンといるんだよ」
    「かわいい子。お前も落ちておいでね」
    「そうすれば、怖くないからね」

    彼の言葉はときに支離滅裂で、狂っていた。
    けれど彼の言葉はそのとき、何よりもナギに優しかったのだろう。

    最期のとき、彼が何を言ったのかナギは覚えていない。
    しかし彼は一等きれいに笑っていて、そのきれいな指がナギを誘い、彼は息絶えた。
    綺麗だった。
    きれいだった。
    キレイだった。
    キレイダッタ___

    彼に吹き込まれた薬を抜いて、髪の色を抜き、爪を染めた。瞳の色を欺いて、前を向く。
    最期、彼が何を言っていたのかは覚えていないけれど、彼は繰り返しナギに言っていた。

    「この世界に染まりなさい」
    「この世界で咲くんだよ」

    果たしてナギは、あれに咲かされたのか。
    それともまだ、蕾のままなのか。

    その答えを、探している。
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