馬に蹴られて 近頃、兵太夫が、変だ。
加藤団蔵はとうに灯りを落とした自室の布団の上で考えに耽っていた。一尺と離れていない隣の寝床では、ひとつの部屋を分け合って使っている虎若が大口を開けて眠っている。ぐうぐうと寝息が聞こえてきそうなほど安らかな眠りはなんとも羨ましい限りだ。
時は子の刻に差し掛かろうとしていた。寝入りばなには賑やかだった秋虫も今は黙しており、静寂がいっそう喧しい。
夏季休暇を終えたばかりの忍たま長屋は、久方ぶりの喧噪の名残を孕んでか夜になっても上せたような心地がする。長月に入ったというのに寝苦しく、団蔵はそわそわと落ち着かない足を何度も交差させた。
眠れない時は横にならずいっそ起き上がっていた方がいいですよ。じっとしてりゃあ、いつかは眠くなります。いつだったか清八が教えてくれたのに倣って身を起こしているのに、待ちわびた眠気は一向に訪れない。それどころか、ますます目が冴える一方だった。
暗闇の中で物音を立てないようにしていると、団蔵の頭の中では安息とは程遠い懊悩の元凶が浮かんでは消えていく。それは見慣れた少年の形をしていた。
笹山兵太夫。
団蔵の属する一年は組で共に机を並べる級友の一人である。大人びた瓜実顔に栗色の髪をした少年は、一見すると神経が細そうなのにこちらが驚くほどの豪胆さを持っていた。上級生やくノ一相手にも臆することなく口を利くし、それがまた理屈が通っているものだから、反論の余地を許さない。
かといって冗談の通じない堅物というわけでもなく、心根は寧ろ大らかだった。誰に対しても態度を変えないから、誰にも侮られないし畏れられてもいない。それ故か、彼だけはは組と敵対しがちない組連中とも親交がある。つい先日も、一年長屋の廊下で伝七と話し込んでいた筈だ。
長身の公家顔という見た目に反して裏表のない、気っ風の良い少年。それが団蔵の抱く兵太夫のざっくりとした印象だった。ほんの三日前までは、の話だ。
近頃の兵太夫は、なんというか、名状しがたいというか、とにかく、妙なのである。
***
一昨日のことだ。
座学の授業中、1年は組の教室に一匹の蝶が舞い込んできた。予期せぬ来訪者に齢十の子供たちは沸き立つ。土井先生などは、さっきまで自分の授業を子守唄に枕代わりにした忍たまの友を涎で濡らしていた生徒が虫一匹には嬉々として目を覚ますのだからさぞ胃の痛い思いをしたことだろう。子供たちの羨慕と大人の失望を一身に受けながら、蝶は悠々と教室を旋回する。
「ヨロイチョウだ。珍しいねえ」
前の席から振り返りながら三治郎が言った。団蔵にしてみれば蝶などどれも大差なく見えるが、生物委員である彼には違うものが見えているらしい。珍しい、という言葉にきり丸が耳聡く反応する。
「珍しい、つまり……売れば銭になる……?」
「そういう意味じゃないよ、普通ヨロイチョウはこんな時期まで生きられないんだ」
冬を越さない種類だから、と隣席の虎若が続けた。当のヨロイチョウは素知らぬ顔で青みがかった紫色の翅をゆったりとはためかせている。特別羽化が遅かったのか、運よく生き永らえた果てに迷い込んだのか。いずれにせよ先のそう長くない命が舞うのをは組の面々は神妙な面持ちで見守った。
何度か大きく円を描いた蝶が吸い込まれるように高度を下げていく。
「あ~、兵太夫、いいなあ」
喜三太の言葉につられ、団蔵は通路向かいへ目を向けた。そこには指を差し出すように持ち上げる兵太夫の姿があった。細く白い人差し指の先で、件のヨロイチョウが翅を休めている。
綺麗だ。何とはなしに視線を逆流させ、本人の顔を見やった。二人の視線がかち合う。瞬間、髪と同じで人よりも色素の薄い鳶色の瞳がすっと眇められた。
にこ、と音のなりそうなほどお手本のような微笑みを返され、団蔵は咄嗟に目を逸らす。見てはいけないものを見た気がする。今のは一体何だったんだろう。答えのとっかかりを掴むまでもなく、窓の外ばかり見ていることを土井先生に咎められ、団蔵の思考はそこで中断された。
そして昨日の夕刻。
その日の実技授業で扱ったのは遁法であった。敵から逃げ果せ、情報と共に命を持ち帰る為には欠かせない忍術の基本だ。だからこそ一年生とはいえ夏までには一通りを修了しているのが常だが、補習に次ぐ補習続きのは組では何度目か分からない実地訓練が今も繰り返されている。
わしが十数える間に隠れてみせよと言う山田先生の一声には組のよい子たちは散り散りになった。団蔵はひとまず手近な池に入る。しかし考えることは皆同じなのか、そこには同時に狐隠れの術を試みた級友が何人もいた。例外は、脚力を生かしていち早く木に登った乱太郎や出遅れたために道の真ん中で鶉隠れに興じるしんべヱ、真っ当に木の葉隠れを実施した庄左エ門くらいのものだ。
結果、込み入った水場では潜ることも叶わず、誰一人として及第点を貰うことはなかった。ずぶ濡れの頭巾を絞ると、隅々まで染みた水が滝のように流れ出る。濡れただけまるっきり損だ、そんな気持ちで横を見やると、やはり頭巾を外した兵太夫が恭しい手つきで髷を絞っているのが見えた。
女人が髪の手入れをするように根元から穂先に向けぎゅう、ぎゅう、と段々に下がっていく手から目が離せない。団蔵が見ているのだから、目が合うのは必然であった。そしてまた兵太夫があの顔で微笑む。今度は真正面から薄い唇がにい、と上がるのを見て、団蔵は水を切る振りをして頭を力強く振った。
川を渡り切った後の馬がするようにぶるぶると飛び散る飛沫をまともに受けた伊助が、何すんだよぉ、と不満を口にするのが遠くで聞こえた。
極めつけは今日の夜のことだ。
教師生徒共に共同生活を送る忍術学園では連立する長屋棟の端に風呂場がある。この大所帯ではのんびり湯浴みを楽しむということはほぼ不可能で、団蔵などは烏の行水のように汗を流し湯船に浸かり、頭の中だけで数え歌を終えるとすぐに一年長屋へと帰るのが日課だった。
洗い髪もそのままに道を進む。濡れた頭皮に通る秋風が少し肌寒い。こんな日はとっとと眠ってしまうに限ると、廊下を急ぐ団蔵に声をかけたのは兵太夫だった。
「わ、団蔵。なにその髪」
「!」
「ちゃんと乾かしなよ、風邪ひいちゃうよ」
白い小袖は忍たまの全員が、何なら今自分が身に着けているものと同じなのに兵太夫の姿はなぜか違って見える。それが、左前に垂らされた髪の新鮮さとそこから香る油によるものだと気付いたのは、彼が団蔵の目の前に近付いたからだった。
「出しすぎちゃった。団蔵にあげる」
蝶を乗せていた指がこちらに伸ばされる。頬を横をすり抜けた掌が団蔵の髪を柔く掴んだ。何度か手櫛を通し、掌に残っていた髪油を団蔵に押し付け終わった兵太夫は油気のなくなった手を見て満足げに「おやすみ」とだけ言い去っていった。障子戸に遮られた顔には、またしても例の笑い顔が張り付いている。
そして団蔵は、気の毒にも眠れぬ夜を過ごす羽目になった。眠ろうにも自らの髪からは、兵太夫と同じ上等らしき香油が仄かに香っている。これを嗅ぐとどうにも瞼の裏には、あの意味ありげな微笑みが浮かんでしまうのだった。
***
眠れなくとも朝は来る。丑三つ時を過ぎた頃にようやく気絶するように眠った団蔵は、遅刻寸前までの惰眠は許した後の虎若に叩き起こされて井戸へ来ていた。気を抜くと目が溶け落ちてしまいそうなほどに眠い。なのに良い油を塗った髪だけはつやつやと輝いて、落ちくぼんだ顔との対比が滑稽だ。
汲み立ての井戸水はきんと冷えていて、手を漬けただけでも目の覚める心地がする。覚悟を決めて掬った水で顔を漱ぐと、靄のかかっていた頭がやっと覚醒した。
それにしても昨夜のあれは何だったのだろう。いっそ夢と思いたいのに、濡れた輪郭に纏わりつく髪が未だかつてないほど指通りの良いところを見ると、認めたくはないが現にあったことだと信じざるを得ない。
「団蔵、おはよー」
「!!」
背後から声をかけられ、団蔵はぎくりと背を伸ばした。声の主はよりにもよって兵太夫その人である。
「お、っお、……おはよう、兵、太夫……」
落ち着け。何もおかしいことではない。ここは一年長屋に一番近い水場で、だから、同級生の彼がいたところで何も不自然ではない。
団蔵は振り返り、ぎこちなくも挨拶を返す。とうに浅葱色の忍び装束に着替えている兵太夫の髪が、朝の日の光を受けて艶々と輝いていた。その顔は予想外の反応にきょとんとしている。が、すぐに破顔してくすくすと笑い始めた。
「団蔵ったら、おっかしいの」
黒目がちの目が細められ、口元を覆って愉快げに笑う姿は年齢もあって少女と見紛うようだ。
「すごい隈だよ、潮江先輩みたい」
誰の所為で!
そう思ったが、とんだ八つ当たりだと分かっていたから団蔵は口を閉ざした。早くしないと遅刻しちゃうよ、と去っていく後ろ姿を見送っていると、朝の素振り練習を終えて手を洗いに寄った金吾がぽつりと言った。
「最近の兵太夫ってさ、なんか変わったよね」
戸部先生に付いて剣豪修行に勤しんでいる成果か、金吾は勘が鋭い。ここ数日の兵太夫は確かに『変わった』のである。同意を示したかったが、団蔵は口の中を噛んで耐えた。
だって、そんなのは、いけない気がしたのだ。
同級生を、たった十歳の少年を色めかしいなどと称してしまってはいよいよ戻れなくなってしまいそうで、団蔵はやはり無言を貫き続けた。これを認めてしまえば、そう至った原因に想いを馳せずにはいられないだろうことも含めて怖かったのだ。
しかし、団蔵の小さな願いとは関係なく答え合わせは存外早く訪れることとなる。
***
「潮江せんぱぁい、予算あげてくださーい」
「お願いします、米粉が必要なんです」
「は、ついでに砂糖もか? 二度とその手には乗らんぞ」
これは何なんだ。
団蔵は寝不足の頭で目の前の景色をぼんやりと見つめた。そして、否そんな場合ではないと慌てて手元の帳簿に視線を落とす。さっきからこの繰り返しばかりで、体育委員の雑費を計上している筈の計算用紙には何の答えも記されていない。自分で書いておいてなんだが、蚯蚓の這ったような字はどう頑張っても『特別臨時予算計:ちくわぶ』としか判読できなかった。左手の下にある算盤の珠は、意味もなく百の位を一増やしたり減らしたりするばかりだ。
後期の予算会議を控え、会計委員の仕事は大詰めを迎えていた。一年生の団蔵はまだ日の変わる前には長屋へ帰してもらえるが、四年の三木ヱ門の顔色を窺うに二日は眠っていないように見える。
長である文次郎の目の下には色濃い隈があったが、彼に至っては平素からそうなので団蔵には区別がつかなかった。あるいは、眠っていないせいで目に映る全てが幻なのかもしれない。そうであってくれ、とさえ願う。うつらうつらと舟を漕ぎそうになる団蔵の脇腹を左門が突いた。
「団蔵、寝るな!」
小声で咎められ、姿勢を持ち直す。だが、眼前の異常な光景はひとつも変わりはしないのだった。
予算会議前の会計委員には特別に一室を占有しての使用許可が出る。文次郎の文机を前に、向かって左に三木ヱ門が、正面には左門、団蔵、左吉が並ぶのがお決まりの位置だった。だから、団蔵には文次郎の姿がよく見える。見たくなくても、嫌でも目に入ってしまうのだ。
文机に積んだ書類を前に胡坐を組んだ潮江文次郎の両膝には、兵太夫と伝七がそれぞれちょこんと乗っている。ふたりともいとけない顔をたった五つしか離れていないとは思えない輪郭に寄せ、両側から予算のおねだりを続けていた。
それだけでも悪夢のようなのに、算盤を弾く左手に纏わりつくように喜八郎が、右後ろに控える形で、藤内が湯呑と南蛮菓子を乗せた盆を携えて座っている。
そしておそらくは元凶であろう作法委員の長――立花仙蔵は、文次郎の首に手を回して耳元で何かを囁いているのだった。
「なあ、文次郎、可愛い後輩の頼みを聞けないのか。見ろ、お前の組んだ予算だと来月にはもう素寒貧になってしまう。これでは活動が出来んではないか」
「聞けるか……どうせまたしんこ餅だのに流用して無駄使いをしとるんだろう」
「そんなことしてませーん」
左手にしな垂れかかる、というよりもぶら下がる勢いで喜八郎が気だるげに言う。いつもとは違う結われ方をした髪がふさりと揺れる。作法委員会の面々は皆、布を髪に編み込んで先をちょうちょのような形で結んでいた。
背から覆いかぶさる仙蔵が長い睫を瞬かせ、細めた目で文次郎と視線を合わせる。それを見て、団蔵は近頃身の回りで起こった不可解な現象の原因に思い至るのだった。
最近の兵太夫はおそらく、今日のために仙蔵の所作を真似ている。それが委員長直々の指示だったのか、末席とはいえ会計委員を務める自分を狙ってしたものなのか、団蔵には知る由もない。知りたくないと、そう思った。
よくよく見れば兵太夫の髪も、町娘のように左前に垂らされて三つ編みにされている。伝七は高い位置で髪を左右に分け、それぞれを編んでいた。互いに髪の先には装束と同じ色の布が結ばれて、文次郎の織部色の布を甘えるように擦る。
なんなんだ、これは。
団蔵は酷使による乾燥で痛む瞼を閉じ、目頭を押さえた。どうか目の前の光景がきれいさっぱり消えてくれますように願ったのに、何度瞬きをしてもそこに映るものは変わらない。
我らが会計委員長潮江文次郎の四肢を抑え込むように、作法委員会が総出で接待のようなことを繰り広げている。接待、という言葉を思い浮かべてから、団蔵はすぐにそれを否定したくなった。賄賂よろしく菓子を持っている藤内はともかく、他の四人は嫌がらせをしているようにしか見えない。しかし、殊に国語の苦手な団蔵には他にこの状況を言い表す語彙を持ち合わせていなかった。
尤も、忍術学園でも屈指の綺麗どころを集めたと評判の作法委員が勢ぞろいしている様はそれなりに壮観である。しかし文次郎の視線は帳簿から離れない。流石に遠慮されているのか、邪魔されない右手は常に何かを書きつけていたし、喜八郎の妨害をものともせずに算盤を弾き続けている。
チッ、と舌打ちが聞こえ仙蔵が立ち上がった。
「お前はつまらん男だなあ、潮江文次郎。」
下級生の間にもその名高さの轟く黒絹は、今は束ねられていて払えない。それでも、その艶やかさな一片も失われてはいなかった。
いつもの癖で髪を跳ね上げようとした手の行き場をなくしたのか、仙蔵はそれを翻し、文次郎の頬を甲で撫でた。
「私たちがこうやって侍ってやっているのに。少しくらい絆されたらどうなんだ」
潜めた声はぞっとするほど婀娜っぽい。傲慢と懇願が入り混じった声に、団蔵は兵太夫の微笑みを見た時よりもよほど出会ってはいけないものに対峙したような気がして目を伏せた。しかし、返る言葉は見逃しがたく恐る恐る目線だけを上げる。
「ばかたれぇ」
やはり寝ていないのか、文次郎にしては覇気のない声だ。掠れがちな語尾が甘ったるく尾をひいている。
「なぜ俺がお前以外になびかにゃならん」
文次郎が頬を擦っていた仙蔵の手を取り、秘密を吐露するように掌へ口づけているのが見えた。ああ、これはきっと、五日は寝ていない。臨時会計委員室の筈の個室に、むず痒い空気が広がる。沈黙を破ったのは喜八郎であった。
「はい、終わり終わり。馬に蹴られる前にかいさーん」
間延びした声に促され、どこかほっとした顔の伝七が文次郎から飛びのいた。勝気な性格の割に擦れていないというか、肝の小さい所があるから地獄の会計委員長の膝などに乗っているのは気が気でなかったのだろう。
対する兵太夫はよいしょ、と声までかけて立ち上がっていた。先ほどまでの剣呑な雰囲気はどこへやら、元より自立心の強い作法委員は目的を失って全員が散り散りに部屋を去っていく。
団蔵は未だ混乱の最中にいた。ぼくは何を見せられたんだろう。助けを求めるように右側の左吉を見る。あちらはあちらで現状を把握しないようで、かろうじて表情には出さないものの、手元の帳簿にはい組らしからぬ乱れた筆跡で『がんもどき』としたためられていた。
続いて左手を見るも左門は変わらず懸命に計算を続けている。その頭を通り越して、団蔵は三木ヱ門に視線を送った。疲れの滲む顔が諦めたように口をぱくぱくと動かし、形だけで言葉を伝える。
(私たちも休憩にしよう)
かくして、会計委員はつかの間の休息を手に入れたのだった。人騒がせな委員長を置き去りに部屋を出ていく。このツケは近々払うことになると思うと恐ろしかった。が、今はとにかく現実を忘れたい。
「団蔵! 委員会終わったの?」
先に部屋を出ていた兵太夫が声をかける。
「ううん……ちょっとだけ休憩だってさ」
「へえ、相変わらず大変だねー」
他人事のように言う兵太夫を見て、団蔵はそっちだって大概じゃないかと思ったが、これも声には出さなかった。
「そうだ、これあげるよ」
兵太夫が差し出す掌には、藤内が持っていたのであろう南蛮菓子が置かれている。
「立花先輩には内緒」
そう小声で伝える兵太夫の顔には、もうあの笑みはなかった。ししし、と整った歯を剥き出しに笑う顔は年相応で、団蔵はそのことにひどく安心する。
もらった菓子を片手に、団蔵は出来るだけこの一帯から離れようと縁側を降りた。それにしても、と思い返す。
『人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえってなァ!』
加藤村の男衆のする酒の席で聞いた言葉が蘇った。馬借という仕事の特性上、津々浦々を巡る彼らは先々で最新の文化や情報を仕入れてはそれを披露し合うのを好んだ。
土井先生お墨付きで読解力に難のある団蔵は、今の今までその言葉の本質を理解することはなかったが、今ならわかる。つまり、野暮なことはするなってことだ。
こんなことは慣れているのか、そそくさと長屋を後にする三木ヱ門に続きながら、団蔵は考える。
馬に蹴られてだって?冗談!馬だって、蹴りたいものくらい選ぶに違いないさ。