白い孔雀の夢を見る その夢には音がなかった。
底のない闇の中で白いそれだけが光るように輪郭を浮かび上がらせている。もしくは黒の背景からその身を型抜いたのか。綿毛のように細い羽根を一本ずつ削り出すのはひどく難儀しそうだと。愚にも付かない考えが頭の中を堂々巡りするほどには、その空間には音ひとつ、色のひとつも何もなかった。せめて一声鳴いてくれればと思うのに、佇むそれは黒い眸で文次郎を見つめるのみだ。
こちらを責めるような目つきに喉が締まる。目覚めは決まって、鬱然としていた。
文次郎の夢に連日同じ孔雀が出るようになって一週間が経つ。なぜ同じと分かるか。実際にそれと対峙したことがあるからである。
例によって学園長に言いつけられたお使い事を済ませた帰り道のことだ。書状と土産物を届けた後で身軽だったのもあり、潮の香りに誘われるまま港へ立ち寄った。今しがた到着したらしき貿易船が水平線を塞いでいる。慌ただしく荷下ろしをする水夫の足音に紛れて名を呼ぶ声が届き、文次郎は振り返った。
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