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    100nenmatteta

    カと賢者ちゃんが多い / 突然消す

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    100nenmatteta

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    寂しい夜のワン(ナイト)ライティングでした。
    書いていたらフォ学になったのでぼんやりフォ学の設定です。

    よもすがらのあいだがら 一人残らず地獄に真っ逆さまに堕ちていくんだ。
     否定したってよかったが、同意の気持ちのほうが優ったので頷いていた。それを見て一番不快そうな顔をしていたのは、地獄行きを嘲笑われた他人ではなく発言した本人だった。


     シーツに零れ落ちる髪は結ばれておらず、赤い川になって流れていく。束にして掬いとれば濃い赤色になるし、生白い掌に均等に乗せてやれば明るい陽の光に見えた。しかし部屋は夜の底。明かりはなく、月の光と街灯の灯りだけを頼りにすると、赤色は黒に近くなる。太陽の光であるならば髪を透かしたりしようものだが、月の光は外側から赤色を塗り込めるばかりで、男が好きな色にはならなかった。結局普段のような房にして、指に絡めては解く遊びを繰り返している。梳くほどに艶を増す髪は、柔らかく従順な生き物のようで好ましい。
     普段なら動画を見ていたりテレビを点けているのに、端末を弄りもせずに寝転んでいるのは珍しかった。
    「家にいるけど帰りたくなる時って、ないか?」
     髪を好きにさせたまま声に出す。うつ伏せに寝転んだ体勢から首だけ動かして背後を見るが、男は髪から視線を逸らさずにおざなりに返した。
    「意味わかんない。もう帰ってるだろ」
    「そうなんだけど」
     一度に多くの人数に会ったときとか落ち込んだ時とかにたまになる、と続ける。
    「可哀想なおまえは家じゃなくてどこに帰るの」
    「……キャンプとか行く?最近ベランダでミニキャンプする動画とかあるんだ」
    「全然何も解決してなくない」
     結局家だろ、それ。
    「キャンプ楽しいじゃん」
    「wi-fiもエアコンもないところに行く神経がわからない」
    「ブランケットに包まって焚き火でマシュマロ焼くと面白いぞ」
    「キッチンのコンロで焼けよ」
     それはそう。笑うからベッドが揺れる。肩から髪が滑り落ちていく。男はそれが気に入らないから髪を手前に引いた。痛てっ、という声がして首の後ろをさする。
    「本当は水のあるところに行きたいかも」
     川の流れ。月明かりを反射して風が岸に押し寄せるような風景だ。
     ナイトプールみたいな顔してるのにかと偏見の塊を言いそうになったが寸でのところで止まる。温水プールとかじゃなくて冷たい水がある場所がいい。夜中にプールって、オーエンは貸切にできる?できないことはない。水族館もいいな!青紫色してて綺麗だ。
    「でもさ。夜中にどこか遠くに行きたいとかって、言えないじゃないか」
    「それはおまえが良い子ぶってるからだろ」
    「じゃあオーエンは俺をどっかに連れて行ってくれる?」
     眠れないからと愚図るような口調に、男は口をへの字に曲げた。眠りのなかにいる心地なのは否定しない。
     男は深く座っていた椅子に座り直した。ベッド横に引き寄せていた椅子は安物だからクッションがへたっていて、軋む音を響かせるだけだ。
    「面倒くさい」
    「でも多分、俺が知っている中で夜中に知らないところに行こうなんて誘えるのはオーエンだけだよ」
    「その自信どこからくるの」
     他の人だと予定とか家のこととか配慮するし。
     だけど最近連絡先を交換した不良校の奴らなんかは誘っても大丈夫なのか?と首を傾げる。
    「僕の予定は無視していいってこと?」
    「そんなこと言ってない」
     ようやくベッドから起き上がり、寝巻き代わりのTシャツの襟元を仰ぎながら続ける。暑かったのか肌はしっとりと濡れていた。
    「夜に、綺麗な場所を知ってそうだから?」
     なんでこいつは無条件に信じているような口調をしているのかと呆れる。男からすれば手慰みにしている髪のほうが好ましかったし、こちらを真っ直ぐ見つめてくる金色の瞳の方が月明かりに煌めく湖面よりも余程綺麗だと感じていたが、意地でも口にしてやるつもりはなかった。
    「綺麗ってどんなの。蛇の抜け殻とか?」
    「最悪」
    「いいね」
    「なんで俺に悪態吐かれると嬉しそうなんだおまえ」
    「脱皮した蛇は綺麗だろ」
    「やだよ」
     足元で丸まっていた掛け布団を引き寄せて再びベッドに横になる。男の手元にあった赤い髪もそちらに引き込まれてしまった。
     そうなると椅子に座っている理由も無くなるので、男もベッドに寝転ぶ体を蹴り飛ばしながら寝そべる。背を向けているから簡単に髪は手に戻ってきた。
    「おまえ、僕に隠し事してるだろ」
    「明日の二十時に新曲をプレミア公開する」
    「はあ?聞いてないんだけど?」
     今初めて言ったから!と笑い体をこちらに向けた。
    「それで?まだどこかに行きたいの?」
    「……別にいいか」
     愚図る子供の機嫌は直ったようだった。
     眠りの中にいる心地を抜け出して、本当の眠りにつく。



    よもすがらのあいだがら・了


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