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    koimari

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    ヘジェ。記憶喪失ジェハンさん22歳(ではない)

      記憶喪失のイジェハン刑事は警部補のことをヒョンと呼びたい!

    「警部補は命の恩人です!」
     今まで見たことのないほど目を輝かせて、ジェハンさんはヘヨンの両手を握りしめた。額を擦り付けるようにして何度目かもわからない感謝の言葉を述べる恋人に、ヘヨンは曖昧に頷いた。捜査中にうっかり階段を踏み外したジェハンを抱き止め、というか転がり落ちるのを止め、病院に連れてきたのは確かにヘヨンだ。それはチームなのだから当たり前のことで、恋人として心配こそすれ、それ以上のことは何もしていない。幸い骨折もなく、経過観察でいいというのが医者の見立てだ。ただ、それを説明すればするほど、ジェハンの中では謙虚な命の恩人の像が強化されてしまうらしく、ヘヨンは真面目に否定するのを諦めた。
    「ジェハンさん、今何年かわかります?」
    「一九八九年九月四日ですよね?」
     何を言っているんですか、とジェハンは軽快に笑った。体に異常はなかったものの、ジェハンの記憶は一部失われ、二十二歳頃に戻ってしまっているらしい。にわかには信じ難いが、五十歳のジェハンでは見たことのないような屈託のない笑顔でヘヨンに接してくるのだから信じるほかない。厳しい顔をして写真に写っていたような気もするが、こんな面もあったのかと新鮮な気持ちになる。目上には甘えるタイプなんですか、と少しの嫉妬を感じるのは気のせいだ。
    「何年といえば、警部補は何年生まれですか?」
    「八十九年です」
     ジェハンさんの思っている今日、生まれたんですけど。あまり否定をして不安にさせてもいけないので合わせていたが、うっかり事実をそのまま答えてしまった。ジェハンさんは考えこむと、にこっとあどけなく微笑んだ。またそんなかわいい顔をして。
    「俺は六十七年なので、俺が年下ですね!」
    「全然違います」
    「ヒョン、と呼んでもいいですか? それに、タメ口で話してくださいよ。遠慮なく」
     ほらジェハンと呼んでみてくださいという誘いは人生最初で最後かもしれず、少しだけ心をぐらつかせる。
    「どうしてそこまで馴れ馴れしくするんですか。命の恩人かもしれませんが、会ったばかりでしょう」
     ジェハンさんにとっては。もしくは誰に対してもこうだったんですか、とわずかに苛立ちが滲んだ。ジェハンさんはもじもじと指を遊ばせながら、小さな声で答えた。
    「警部補とは……初めて会った気がしなくて……」
    「それって」
    「おかしいですよね。でもなんだか信頼できる人だとわかるんです」
     無理やり頬を引き攣らせたような笑顔を作り、うろうろと目線を彷徨わせる。ぽぽぽと頬を染めるのは二十二歳の若者ではなく五十歳のアジョシであったが、ヘヨンの目にはたまらなくいじらしく映った。
     ヘヨンとの記憶は消えていても、積み上げた感情が残っていることだけで心がいっぱいになる。ここが病院の待合室であることも忘れ、愛らしい人に恋人であることまで伝えるかどうか悩んでいると、「ヘヨンヒョン!」と突如響いた大きな声に現実に引き戻された。
    「『階級が同じなら遠慮は無用』でしたっけ? 聞いてますよ」
     かっこいいじゃないですかと両手で拳を作りファイティングポーズをとるのは、精一杯の照れ隠しなのだろう。恋人に隠しておきたい黒歴史にしこたま尾鰭をつけて吹き込んだ人間の笑い声が聞こえてくるようで、ヘヨンはこめかみを揉んだ。
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