Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    koimari

    @koimari
    🐻さんを右に、短いものばかり
    時々rpsの架空のはなし

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 ♨
    POIPOI 67

    koimari

    ☆quiet follow

    ヘジェ?ジェハンさんのアルバイト

     真夏の強い日差しが、ガラス越しのヘヨンの腕をじりじりと焼く。冷房の効きの悪い署の車ではなく、自家用車を出したほうがいくらかましだったのかもしれないと後悔しても遅い。窓の隙間から入る空気もぬるく、ヘヨンは浮いた汗を拭った。過去の事件の手掛かりになればと、片道3時間もかけてやってきたのに空振りで、空腹を感じても閑散とした山道には飯屋もなく、挙げ句の果てにはフロントガラスのど真ん中に鳥のフンがべっとりとついてしまった。そのまま帰ってしまってもよかったが、運転するにも注意力が削がれる場所であるし、手ぶらな上に鳥のフンまで付けて帰った後に、げらげらと笑いそうな同僚の姿が目に浮かんだ。そんな時、砂漠のオアシスよろしく燦然と輝く泡だらけの車のマークが見えた。洗車ができる店だと直感したヘヨンは、辺りをよく見ることもなく飛び込んでしまったのだった。
     洗車してもらっている間に、併設のカフェで軽食も取れると聞き、ヘヨンはオムライスを注文した。氷の入った水を飲み干し、長時間の運転で凝り固まった体を伸ばす。
     それにしても、変わった店だ。手洗いが売りの店で、通常の洗車の三倍の値段に、ヘヨンは料金表を二度見した。一刻も早く汚れを落としたいのだから、それはもう仕方がないとヘヨンは割り切った。しかし、スタッフは背の高いアジョシばかりで、条件は身長180cm以上であることだという。手洗いで、隅々まで洗車するためには必須らしい。動きやすく、濡れてもいいようにと、制服はへそが見える丈の白いTシャツに、濃淡さまざまな色のデニムのホットパンツ、足元はサンダルであったりゴム長靴であったり、指定はないようだ。壁一面に大きく取られたガラス越しに、洗車に勤しむアジョシたちが見える。ホットパンツからぷりぷりとした尻やお腹が見えそうなほど動きまわりながらにこにこと洗車する人や、水飛沫というより自らの汗で白いTシャツをぺったりと張り付かせている人、ゴム長靴が大きいのかどちどちと音を立てて忙しく働く人。中にはホットパンツのウエストから下着のウエストゴムや腰に食い込む紐が見えている人もいて、本当にただの洗車専門店なのか疑わしい。しかし、長い手足を使って悠々と洗い上げられる仕事ぶりはいっそ見事で、そのための制服や三倍の値段設定さえも妥当な物に思えてくる……かもしれない。
     その中に見間違いようのない人物の面影を見つけて、ヘヨンは目を止めた。サンダルからすらりと伸びた脚はアジョシたちの中でも殊更細く頼りなく見える。ホットパンツもサイズが大きいのか、太腿周りに空間を作ってしまっているし、ウエストはベルトで締め上げ、Tシャツとの隙間からやわらかなお腹の肉が窮屈そうに覗いていた。水をかぶったように髪の毛から白いシャツまで濡れ、肌の色が透けて見える。殊更真剣にヘヨンの車を洗車してくれている横顔は、先日病院で出会ったイ・ジェハン元刑事そのものだった。
     一度は命を狙われたジェハンの身を案じて連絡先を交換したものの、そう連絡を取る機会もない。高齢の父親の脛を齧るわけにもいかないが、ジェハン自身も50歳手前であることや隠遁生活により途絶えた職歴を加味すると、なかなか仕事を得るのも難しいのだろう。刑事とはまったく違う職業でも、同じように真剣に取り組む姿に、ヘヨンの胸は締め付けられた。
     ヘヨンが見つめていることも気にもとめず、黙々と手を動かすジェハンに同僚から声がかけられる。相手のほうを見るために顔を上げると、汗と水を含んで巻いた髪が頭の動きに合わせて跳ねる。ジェハンのまわりでは水飛沫の一粒一粒がきらきらと輝き、ホースの先から流れる水は虹の橋をかけた。どこかへと去っていったことに、ヘヨンは溜息をこぼした。会う理由も見つけられないのだから、せめてもっと見ていたかったのに。
    「お待たせしました。オムライスになりま……どうしてここに……」
     机の上に、出来たてのオムライスがおかれる。均一に焼かれた薄い卵がケチャップライスを覆い、紡錘形に整えられたオムライス。ケチャップはなしだ。ふわふわの清潔そうなタオルを首に掛けたジェハンさんは首を傾げた。簡単に拭っただけの髪は四方八方に跳ねているし、ホットパンツから伸びる長い脚には採れたての果物よろしく瑞々しい水滴が付いたままだ。こんなところでアルバイトしていたんですねだとか、元気にしていましたかだとか、服装についても気になるところはあったが、疲労困憊のヘヨンの口をついて出たのはまったく違う言葉だった。メニューの正式名称は『お絵かきオムライス』なのだから。
    「ハートを書いてもらうことはできますか?」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🌋❤🍦😎🎊🎀⛅⛱㊗😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works