人間のほとんどは水でできてる……らしい。ってことは、
「水を操れるなら、人も操れるんじゃない? どうかな」
あったかいお昼。病院の庭でそう質問してみると、相手は嫌そうな顔をした。こんなにあったかくて平和で、花とか咲いちゃって、日当たりの良いベンチに座っているって言うのに。さらに、俺が横に座ってるって言うのに。
「知らないし、なんで僕がそれに答えると思うの?」
「だって真練さん、いろんな能力使えるじゃん。秘められし真の力……みたいなの詳しいかなって」
俺なりの褒め言葉というか、力を認めた言葉だったつもりなんだけど、真練さんの眉間の皺は更に増えた。
「僕の能力が劣化コピーなの分かっててそんなこと言うの、いい性格だね……」
「褒めたのに」
「どこが?」
苦虫のわんこそばって感じの顔だ。
「真練さん、入院してからずっと機嫌悪くない? そんなに痛いの、怪我」
「こんな状況でキミにニコニコしてるほうがおかしいでしょ」
「前はいつもニコニコしてたじゃん」
「信頼させて騙すためだよ……!」
「へえ、プロだね」
苦虫がどんどんおかわりされていく。眉間に皺寄せすぎるとハゲるって聞いたことあるけど、大丈夫なのかな。
「……だいたい、なんで人なんか操りたいの。キミには向いてないと思うけど」
思い切り俺の方を睨みながらも話を続けてくれるんだから、やっぱり機嫌が悪いのは怪我のせいだと思うんだけど、違うのかな。
「氷の剣を作れる能力で少しだけ時間を止められるとか……そういう話を聞いて。俺もそういう能力を覚醒させないと、真練さんの手数の多さには適わないかなって」
「あーあーはいはい、どうせ手数の多さだけだよ、キミが放水銃なら僕はスプリンクラー。同じ能力だけ使ったらとても適いません」
「いや、卑屈すぎ。俺のことボコボコにしたくせに」
「うるさいな……」
とうとう舌打ちまでされた。表情筋も弱っているんだろうか。リハビリが大変そうだ。
「だいたい水を操れたら人を操れるなんて意味がわからないし、さっきも言った通りキミには向いてないよ。空気を操れる、とかのほうがまだ現実的かな。僕は劣化コピーしかできないから分からないけど」
卑屈さを前面に押し出しながらも相談には乗ってくれる。もっと前みたいにニコニコしてたら言うことなしなんだけどな。
「空気か。確かに俺の能力なら水を作れるけど、同じような感じで空気を作れたりするかも。それを応用してなんか……こう……うまいことできるかも? 水中バトルとか」
しぼんだ浮き輪から出る、最後の一息みたいな音がした。真練さんのため息だ。
「水中バトルなんかしたら、電気の能力びりびり~でおしまいだよ。……それよりもさ、」
そこで初めて真練さんの体がが俺の方に向いた。ガーゼのついた腕が伸びてきて、俺の胸の心臓あたりをとん、と指す。
「相手の血管にたくさん空気を作ったり、肺の中にたくさん水をつくったりした方が効果的なんじゃない? 人体構造を学ぶ方が建設的かもね」
真練さんは笑ったけど、前のようなふんわりした笑みじゃなかった。口角をつり上げて目を細める、いじめっ子の目だ。
「……そんなのしないってば、怖すぎるし。悪役のやるやつじゃん?」
「あはは、僕、悪役だもん」
にんまりと笑って、真練さんは立ち上がる。
「はあ……ひまつぶし、おしまい。カミナリが来る前に、僕は部屋に戻るね」
「え、ちょっと、」
ばいばい、の一言すらなく、さっさと彼は立ち去ってしまった。もっと話をしたかったのに。
それに、こんなに良い天気なのに雷なんか落ちるわけない。ずいぶん適当な理由をつけて距離を取られたんだなあ、と頭を掻いていると、
「……あ、」
「――アイツ、どこ行った」
なるほど確かに、いつのまにか、雷が来ていた。