旬が暇さえあれば卵を温めるようになった。いつでもというわけにはいかないので、離れるときは毛布なんかを巻く。
卵といっても、ニワトリなんかのやつとは全く違くて、ダチョウよりも大きい。小柄な旬がその卵を落としたりしないか、いつもヒヤヒヤして見守ることになった。
「お風呂なんかも一緒に入るんです。日によってはお湯が溢れて大変なんですよ」
はあ、そうなのか、と相槌をうつ。
「そもそもその卵ってなんなんだ? もしかして旬が産んでるのか? なんて……」
旬は俺をじろりと睨んで、
「そういうこと聞くの、デリカシーがありませんよ」
え、そうなんだ、ごめん……。
ユニットメンバーたちも特に違和感なく受け入れてるようで、頑張ってるよなーなんて明るく話しながら見守ってる。なんの卵なんだよ、あれ? でもデリカシーがないと嫌われたくないので、黙っておくしかない。仕事に支障が出ているわけでもないのだ。俺も見守ろう。
そしてある日、俺と旬が二人になったタイミングで、
「そろそろいいかな」
と旬がつぶやいて、ものさしで卵をコツコツと叩き出した。
おいおい、そういうのって自然に産まれるのを待つんじゃないのかよ、と止めようとしたが、気が付けば卵の表面にはたくさんのヒビが入っていて、旬はそこに指を差し込んでぺりぺりとめくっていく。躊躇せず、ぺりぺりと。
そして、
「ほら、火が通りました」
……出てきたのは、ヒヨコなんかじゃなくて、ゆで卵だった。火とか通してないんだけど、なにそれ?
「これ、花型に切って、お弁当に入れてあげますからね」
と俺に向かって言う。訳がわからずぽかんと口を開けていると、
「手作りお弁当作ってくれる子が好きって、言ってましたよね?」
照れながら目を逸らして、ああ、俺のためにここ最近卵を温めていたのか、可愛いところあるなあ、なんて思った。