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    koyubikitta

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    koyubikitta

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    朝起きたら十年後の鋭心に添い寝されてる俺 というP鋭

     朝起きると限りなく眉見鋭心に近い格好いい男に添い寝されていて彼は俺をいかにも愛おしそうな顔で見つめながら見守っていた。
    「夢ですか?」
     間抜けな声で間抜けな質問をすると、眉見鋭心らしき人は首を傾げた。
    「現実だ」
     すごい、声まで眉見鋭心に似てる……。
     しかし彼が眉見鋭心だと思えない理由は二つ。一つは質の良い寝巻きを着ながら俺に添い寝していること。もう一つは、どう見ても渋かっこいい大人で、高校生ではなさそうなところ。
    「なぜ? だれ?」
     バカみたいな顔してるんだろうな、と思いながら質問する。知らない人間がベッドに乗っているならもっと慌てるべきなのだ。通報したって良い。
     でもそうする気になれなかった。他人と断じるにはあまりにも彼が眉見鋭心に似ているから。
    「わからないのか? ……ん……なるほど」
     そこでようやく違和感に気付いたと言わんばかりの顔で、彼は頷いた。
    「お前は何歳だ」
     わけもわからないまま、答える。すると、彼はまたもや頷く。
    「となると……そうか、十年程度だな」
    「十年って、何が?」
     いいか、落ち着いて聞け、と。
    「ここは十年後の世界だ」
     なるほど。
    「夢ですね」
    「現実だ。俺が眉見鋭心以外の誰に見える?」
     ……それを言われると弱い。確かに俺の知っている彼よりずっと大人で、でも眉見鋭心にしか見えない。でも一応、苦し紛れに反論してみる。
    「ご親戚、とかかも」
    「レッスンで鍛えた体と声だ。これは先週表紙を飾った雑誌。これでも疑うか?」
     ベッドサイドに彼の手が伸びたと思うと、その手には異様にセクシーな眉見鋭心が写ったファッション誌が握られている。流石に項垂れた。こんな最高の雑誌、知らない。知らないのが悔しい……。
    「どうして十年後なんかに……? それに、鋭心はなんでそんな落ち着いてるんだ?」
    「まあ……十年後の世界では、社長が面白い道具を持っててな」
     それで納得させられるのはずるいと思うが、納得してしまった。社長なら仕方ないだろう……。
    「……じゃあ、なんで鋭心は俺のベッドで寝てるんだよ」
     鋭心は、十八歳の彼が絶対しないような得意げで悪戯な笑みを浮かべて、
    「同じベッドで寝る仲だから」
     と囁く。
    「は……は!? おま、おまえ……!」
     揶揄うにも冗談がすぎるぞ、と飛び退いて鋭心を見ると、少し困ったような笑みを浮かべていた。
     ……それで、わかってしまう。俺のどうしようもない恋心がこの世界では報われているらしいことに。
    「やっぱり都合のいい夢なんだろうな……」
     ため息をつきながらベッドに戻った。鋭心の横に寄り添うような形になるが、もう気にしないことにする。どうせ夢なら堪能してやる。ああ、夢みたいにいい匂いだ……。
    「夢なんかじゃない。昨日も俺とお前はたくさん会話をして、触れ合って、同じベッドで眠ったんだ」
    「夢だ…………………」
     大人な格好よさが増した眉見鋭心に同じベッドでこんなことを言われて、どうしたらいいんだろう? どうしようもないのかもしれない……。
    「……タイムパトロールに怒られそうな話をするが」
     タイムパトロール、いるの? マジで?
    「お前は俺と恋人になったばかりの頃も、ずっとそう言ってたよ。夢みたいだ、目が覚めないでほしい、と。俺は少しだけ拗ねた。ちゃんと現実に向き合って欲しかったから」
     知らない世界の話をされて、俺は戸惑うしかなかった。けれど、鋭心の声と瞳があまりに優しくて、嬉しいような悲しいような、未来の俺に嫉妬するような。
    「そりゃあだって、俺はずっと鋭心に……なんていえば良いんだろう、憧れていたんだよ。手の届かないものだと思ってた」
    「こんなに近いのに」
     苦笑いする彼が、寄り添いながら俺の髪を撫でる。くすぐったくて気持ちが良かった。
    「ちゃんと我慢できると思ってたのにな。俺、鋭心に告白しちゃったのか? 堪え性ないやつ……」
    「我慢できなかったのは俺の方だ」
     言われて、俺は目を剥く。そのまま彼は微笑んで続ける。
    「ずっと好きだったんだよ。お前のことが。本当に気づかないものなんだな」
    「そりゃあ、だって……鋭心が、俺を? なんて……。そんなわけないから」
    「はは。前もそう言われた」
     鋭心に握られる。覚えのない感触で、ドキドキするのに、その体温になぜかひどく安心した。
    「俺はずっとお前を愛しているよ。あの頃からずっと、お前が望んだ形と同じかはわからないが」
     俺も愛している、と言いたくなったが、気恥ずかしくて、安心のせいか瞼が重たくなって、俺の恋人でもない人に言うのはずるい気がして、とにかく口が開かなくていけなかった。
     瞼がどんどん重くなる。カーテンの向こうにあるのが朝日だと分かっているのに。
    「二度寝か、それもいいな」
     漫画や小説のお約束で考えれば、次に目を覚ましたら『正しい』自分の家に帰っているのかもしれない。
     その前に何か、彼と話したいことがある気がするのに。
     瞼が完全に閉じる。
    「おやすみ。また十年後に会おう」
     意識が、落ちた。






     ――今日は目覚めたら、恋人が十年前の姿になっていた。
     ――恋人が記憶を失う病になって、三年が経つ。回復はまだ少しだけ遠い。
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