時計が夜の9時をまわった頃、玄関の扉を遠慮がちに叩く音が聞こえた。
その音で先日壊れたイン夕ーフォンをそのままにしていたことを蘭丸は思い出す。
ちょうど今はベースの練習もしておらず音の鳴る機器もつけてなかった。場合によっては居留守を使おうと動きを止め、外の物音に聞き耳を立てる。
アイドルという肩書きの身分としてはいささかセキュリティーに難のある部屋に住んでいるため、静かにしていると外の物音がよく聞こえるのだ。それはもちろん反対に外からも聞こえるということだ。身じろぎせずに外の気配を探っている間も、コンコンという音は少し間を開けながら続いている。そして周囲を気にしてトーンを下げているのか、かすかだが人の声も聞こえた。
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