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    shiiiin_wr

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    GLC2023にて発行予定のローコラ本書き下ろしパートのサンプルです
    本編は支部掲載作品『Es mi corazón que late tu corazón』となります
    (上記作品の2年後の二人のお話)

    『 my sun, my heart, my life 』 キッチンで一人、コーヒーでも飲もうかと湯を沸かしていたらジーンズのポケットに突っ込んでいたスマホが通知で震える。
    「?」
     首を傾げながら取り出すと、
    『ロー! ごめん、ドジって紙とペンを持ってくるのを忘れちまった。悪いんだけど、部屋に持って来てくれねェか』
     と、メッセージが入っていた。
    (コラさん、あんなに色々と部屋に持ち込んでたのに)
     にもかかわらず、忘れ物があったらしくて小さく笑う。ドジっ子のあの人らしい。言われたものと一緒にコーヒーも差し入れしてやろうと、手早くインスタントコーヒーを用意する。
     時刻は土曜の夕方だが、コラさんは休日返上で対応中だ。リモートで現場のフォローをしてやらなくちゃいけないらしい。一緒に昼食をとった後、リモートワーク用の部屋に対応案件の資料やら設計書やらを用意して、「休みの日なのに仕事持ち込んでごめんな」とおれに軽くキスしてから部屋に引きこもった。
     現地にはドレーク屋が入っているらしいが、中々に難しい案件らしく「作業終了は深夜までかかるかも」「だから、ローはおれのことは気にせず寝といてくれな」と言い含められていた。
    (つっても、おれも久しぶりに明日まで連休が取れてるしな。コラさんの仕事が終わるまで、おれも起きてて待つつもりだけど)
     あわよくば、そのまま仕事終わりのコラさんをベッドに引き込みたい。大学を無事に卒業して勤務医として働き始めてから、コラさんとの夜の時間がめっきり取れなくなった。おれがシフト勤務なせいでカレンダー通りの休日が取れず、コラさんも職場では管理職を務めているインフラ技術者らしく、休日出勤や徹夜作業などで忙しくしている。
    (おれが卒業したタイミングで、コラさんにルームシェアを持ちかけといて良かった)
     コラさんと共に暮らし始めてから、2年が経った。どちらかと言えばお互いの仕事のせいですれ違い気味な生活でもコラさんとの交際が順調なのは、一つ屋根の下に暮らしていることが大きい。朝や夜に僅かでも顔を合わせたりスキンシップをとったりするタイミングを作って、時間を共有する。僅かな時間でも大切な想い人と交わす何気ない会話やひと時は、充分に心を満たしてくれた。
    (若手のおれはまだまとまった休みが取りにくいし、スケジュールが流動的になりがちだし……、コラさんが自分の休暇を合わせてくれているのもでかいよな)
     コラさんだって要職に就いているだけあって、多忙ではある。連勤が続いて働きづめになったりして、その分、案件が落ち着いている時は仕事量をセーブして、家でおれのことを待ってくれている。
    『ロー』
    『おかえり』
     おれを出迎えてくれる声は、ハチミツを溶かしたミルクのような優しい温度で耳に響く。コラさんに甘やかされ、愛されている。
     恋人というよりは親が子を慈しむような愛され方だけど、親子じゃ絶対に許されない行為だっておれとコラさんは交わしている。たくさんの愛を、コラさんから受け取っていた。
     愛しいと思う気持ちは、あの人と生きる時間が増えれば増えるほど募るばかりだ。
    (コラさん)
     おれが社会人になってからは正直会えない時間も増えてしまっている。けど、お互いがお互いの心の一番近いところにいるのは間違いない。おれがコラさんの愛を信じられるように、あの人は努力を惜しまないでくれる。
     そうやって寂しさを埋める努力を続けなければ……コラさんがおれのことを優先してくれなければ、おれの方が先に音を上げて、コラさんとの関係を破綻させていただろう。
     コラさんへの執着は自分でも自覚している。
     あの人と共に生きたい。傍に居たい。それで、笑ってほしくて……もう苦しさも痛みもないところでずっと幸せでいたいのだ。
     おれが、コラさんを幸せにしてやらなくちゃならない。それはおれの義務であり責任だ。コラさんを沢山傷つけて、泣かせて、それでもおれを愛してると言ってくれたコラさんには、もうおれは、幸せ以外のものを渡したくはない。それが、今のおれの……――!
     思考が沈みかけたおれの耳に「ピィーッ」と湯を沸かしていたケトルが高温を鳴らした。
    「!? っ、と。コラさんに頼まれたもんと差し入れを持っていってやらねェと」
     危ない。物思いにふけりすぎて、昔の記憶に引き摺られていた。大きく息を吐き出しながら、大きめのマグカップに湯を注ぐ。コラさんが噴き出してしまわないように冷えた牛乳で温度調整をして、コラさんの部屋へと向かう。
    「コラさん」
     ノックしながら返事の前にそっとドアを開ければ「なーんか、イマイチ結合試験の結果が安定しねェな……。おい、なァ、ドレーク」とヘッドセット越しに何事か部下に指示を出している。
     会話の邪魔にならないようにデスクへそっと近づくと、おれの気配に近付いたコラさんがこちらを見上げて小さく笑った。
    「ロー」
     ありがと、と口パクで礼を言われる。頼まれていた白紙とペンを渡すと、すぐにドレーク屋へと話しかけていた。
    「わり、さっきの数値、もっかい読み上げてくんねェ? そう……ルータとサーバ間のコスト値と……あ、待て待て。クライアント側の接続ポートって作業前時点から変更が入ったんだっけ?……うん」
     向こうの状況を聞き取りしながら、白い紙の上にさらさらと黒のインクが走る。あまりいい状況ではないみてェだが、コラさんの声音は落ち着いていて迷いがなかった。
    (……しばらく立て込んでそうだな)
     ドジなコラさんがうっかり零してしまわないように、少し離れた場所にコーヒーの入ったカップを置く。おれの動きに気が付いたコラさんは、再度目線でおれに礼を送ってくれた。
     そのまま音を立てないように気配を殺して部屋を出る。二人揃った休みの日がコラさんの仕事で潰れてしまったのは残念だったが、
    (仕事してる時のコラさん、カッコいいんだよな)
     と、先ほどの恋人の姿にじわりと口元が緩む。仕事をしている姿はそう頻繁に見られないから、思いがけずに良いものを見られた。おれの前では大体は穏やかな表情のことの方が多いから、仕事の時の真剣な横顔を見られる機会は貴重なのだ。
     笑う顔も好きだけれど、仕事に赴く顔にも見惚れる。
     結局のところ、おれはコラさんを形作る全てが愛しい。


     その日、コラさんの仕事が終わったのは事前に告げられていた通り、日付けが変わる直前だった。ガチャ、とリビングのドアが開いて、僅かにげっそりした面持ちの恋人が顔を見せる。
    「ロー」
    「コラさん、お疲れ」
    「おー。ロー、さっきはコーヒーとか色々ありがとな」
    「別に、それ位は礼を言われるもんでもねェよ」
     言いながら、ソファに座っているおれの方へコラさんを呼びよせる。流石に籠もりっぱなしの対応で疲れたらしいコラさんは、のろのろとこちらに抱き着いてきた。
    「仕事、大変だったんだな。上手くいったか?」
    「一応な。途中でリスケも考えるところまで詰まっちまったけど、ドレークが上手く回避策を見つけてくれたから何とかなった、あー……けど……頭使いっぱなしで、疲れた……」
    「ん、コラさん」
     もう何も考えたくないと、愚痴るコラさんの身体を抱きとめ体勢を入れ替える。ソファに縫い留めるようにして上から見下ろすと、僅かに目を見開いた後、コラさんは目尻を下げながら軽く唇を上げてくれた。差し出されたコラさんの唇にそっと己のそれを触れされると、恋人の身体から余分な力が抜けていくのが伝わってくる。
     啄むキスを何度か交わした後、「コラさん」と想い人の名前を呼ぶ。
    「ベッド行く?」
    「……っ、行くけど、おれ、今日はまだシャワーも浴びてねェ」
     一日働いた後の汗や体臭を気にするコラさんに小さく笑って「おれはそっちの方が興奮する」と囁けば「エロガキ」と言い返される。
    「そういうの、変態くさいぞ」
    「コラさん限定だから問題ねェ」
     唇の上で言い返すと、コラさんがグッと黙り込む。それに、辛辣な言葉を吐きつつもコラさんの声には僅かな情欲が灯っていた。おれの気配に煽られて、この人だって結構乗り気だ。
    「あんたとヤるの、久しぶりだしな。これ以上の我慢は耐えらんねェよ」
     待ちきれない、と言葉にせずに態度で示せば、コラさんのルビーの瞳の奥でもちらりと欲が動く。この人だって、おれと同じくらいには欲求を抱えている。それが分かって、自然と口の端が吊り上がった。
    「ロー、頼むからあんまりがっつかないでくれよ」
    「……善処する」
     無理をさせたくはない。受け手の負担を一方的にコラさんに押し付けているのはおれだ。だが、いい加減、コラさんが不足していておれの中の獣が唸ってる。正直あまり、自分の理性に自信が持てない。
    「抱きつぶしちまったらごめんな」
    「ロー」
     咎める囁きを聞かなかったことにして、コラさんの腕を引いて上体を起こさせる。
    そのままベッドルームへと連れて行って、久しぶりに恋人との逢瀬を思う存分味わうつもりだったのだ、おれは。おれだけが許される場所に触れて、身体を開いて、おれにしか見せない恋人の顔を引きずり出してやろう、って。
     だけど、ベッドにコラさんの長身をベッドに寝かせたら、疲労が限界だったのか零れる吐息はすぐに寝息へと変わってしまった。
    「コラさん……?」
     名前を呼んで直接肌に触れて軽く身体を強請っても、帰ってくるのは穏やかな息遣いばかりだった。
    「寝落ちって……おい、おれはもうその気だったのに……!」
     ぼやきながらも、疲労の色がうっすらと浮かんでいるコラさんを無理に起こすのは忍びない。眠る恋人に、無体を働く趣味もない。
     ハァ、とため息を吐いつつ乱してしまった衣服を整え、先に眠りの世界に足を踏み入れた恋人の横に寝転がる。やんわりコラさんの身体を抱き寄せれば、無意識だろうにおれの方に身を寄せてくれるのは嬉しい。だけど、お預けが続いているのはちょっと辛い。
    (疲れてるよなァ、コラさん。最近、今日みたいな休日対応も残業も多いし)
     だからなかなか、噛み合わない。キス以上のことをする時間が取れなくてもどかしい。それに、少しだけ。……ほんのわずかな違和感もある。コラさんと過ごす時間が長くなり、気付けるようになった恋人の異変。
    (最近のコラさん、何かおれに隠しごとをしている気がする……)
     何故だろうか。明確な確信があるわけではない。だがずっと、コラさんを見続けていたから感じてしまう。嘘に長けているこの人が、おれに見せないようにしている何かがあるんじゃないかと。
     コラさんの〝愛〟を疑ったことはねェけど、それと同じくらい確信していることがある。
     自分の為じゃない。だれかの為……おれのために必要だと思ったら、コラさんはいくらでも本心を隠して振る舞ってみせる。
    『おい、ロー』
    『愛してるぜ!!』
     あの日宝箱におれを隠した恩人の声が耳に蘇って、知らずに唇をかみしめていた。
     もうおれは、コラさんの嘘を見逃したくない。一人で何かを抱え込ませるのはごめんだ。雪の中で独り死なせてしまった前世と違って、今世では傍に居てやれる。一緒に生きていける。近くに居られるようになった分、おれは直接あんたに報いたい。コラさんには何の憂いもなく、幸せで居てほしいんだ。
     傍らで眠る恋人の前髪を軽く梳いて、おれの手すさびにふにゃりと口元を緩めてみせた寝顔を見つめながら、胸に刻んだ誓いを新たにする。
     おれはもう、コラさんの何もかもを見逃さねェ。


    『で、だからってなんでおれに電話を掛けてくるんだ』
     おいロー、と電話の向こうでコラさんの兄が不機嫌そうな声を出す。おれのことを面倒がっているのが丸わかりで(こっちだって好き好んでお前に頭を下げたいわけねェだろ……!)と心中で毒づく。
     ドフラミンゴの手は極力借りたくない。この男に対して嫌悪の感情だけを抱いているわけではないが、コラさんとの付き合いにおいて目の上のたんこぶであることも事実だ。何かにつけてちょっかいを出してくるし、偶にコラさんのスケジュールを抑えておれとの予定の邪魔をする。
     けれど、コラさんの異変を見逃さないために。その為には、この男に助力を頼むことも、時には必要だった。
    (腹は立つが。でもそれは、お前にとってもお互い様だろ……?)
     おれとドフラミンゴの関係は、コラさんを挟んで中立・停戦というのが良いところだろう。おれもあいつも、お互いの存在が面白くない。根本にあるものは異なっているが、コラさんに対する独占欲は似たり寄ったりだ。
     儘ならねェと思いながらも、とりあえず今の気がかりはコラさんのことだ。何か知っていることはないかと、電話先のドフラミンゴに尋ねる。
    「おい、お前が何かを企んでいるんだったら、さっさと吐け。分かってんだろうな。もしもコラさんを困らせたり煩わせていたりしたら、ただじゃおかねェ……!」
    『フッフ、お前はそろそろ目上への口のきき方を覚えろ』
     そんなんで医局で浮いてないか、という揶揄は余計なお世話だ。ドフラミンゴに心配されなくとも、必要な処世術は備わっている。お前相手に披露する意味を見出せないから、素の態度で接しているだけのことだ。
    「この前も、二人でメシに行ってたんだろ? おれが夜勤に入ってた日だ。その時、コラさんがなんか愚痴ったり、いつもと違う様子じゃなかったか?」
    『あー? 兄弟間のプライベートな話を、わざわざお前に打ち明けてやる筋合いはねェよ。さっさと出直せ』
     近況の報告も雑談も一切合切を無視して切り込むおれに、ドフラミンゴはのらりくらりと会話の矛先を逸らす。ドフラミンゴが真意を誤魔化しはぐらかすのはいつものことだ。だけど、普段と変わらぬ態度のその裏に、やはり潜めている何かがあるような気がして、おれの直感に引っ掛かった。
    (……コラさんの秘密、ドフラミンゴも何かに関わってる気がする)
     年上の恋人は、あまりおれに寄りかかってくれない。元々自立心に長けた人だし、恋人関係に落ち着いた今でも、コラさんの中にはガキでか弱かった頃のおれが居着いている。あれはもう、コラさんが死ぬまで消えないであろう、無意識下でのおれに対する庇護欲だ。
     もどかしいけど、コラさんの優しさと心の一部であるから咎める気はない。ないけど、そのせいで、愚痴や悩みの吐き出し先が兄に向かうのは、面白くなかった。
     グルグルと腹ン中で渦巻く苛立ちを抑え込みながら「なァ」ともう一度ドフラミンゴに問いかける。
    「何か、お前に心当たりはねェのかよ」
    『あ?』
    「最近のコラさん、おれに何か隠し事がある気がするんだ」
     直感で辿り着いた結論について、ドフラミンゴへ訴えかける。おれとは別のベクトルでコラさんのことをよく見ているお前なら、おれが気付けていない何かを知っているかもしれない。それに、おれには無理でも兄相手なら、コラさんは何かを打ち明けている可能性がある。その一心で、小さな声が零れていた。
    「頼む」
    『…………』
     教えてくれ。告げた台詞は、自分で思うよりも弱弱しかった。ドフラミンゴ相手に揺らいだ姿を見せるのは得策じゃないが、取り繕っていられなかった。
     おれはもう、コラさんを泣かせたくない。
     現代でもおれは、一度失敗している。泣かせて、傷つけて、追い詰めてしまった。大事なあの人に、同じ失敗を二度も繰り返すわけにはいかない。過ちを回避するためなら、持てる伝手は全て使う。
     珍しくドフラミンゴを頼ったおれの態度に思うことがあったのか、電話口の相手の雰囲気が僅かに変わる。
    『へェ……?』
     小さな相槌と、その後に続くいつもの特徴的な笑い声。ドフラミンゴの返事を待てば、先ほどよりもどこか和らいだ声音で『ロー』と呼ばれる。
    『変われば変わるもんだなァ。お前がおれに、そこまで素直に頼みごとをするとは』
    「うるせェな。良いから、何か心当たりがあるならさっさと教えろ」
     促すおれにふっふと笑い声を掛けた後、『ロシーのことを見逃さなかったのは褒めてやる。少しはお前も、ロシナンテを見る目を養ったか?』とおれの疑念への遠回しな肯定をくれた。
    「……! コラさんはやっぱり……」
     なんだ。何がある。おれに見せてくれない何かを知りたくて前のめりになると『フフッ、少しは落ち着け、ロー』と窘められる。
    『盲目でなくなったのはマシになったが、お前の察しの悪さは変わらねェなァ』
    「あァ?! どういう意味だ!」
    『そのままの意味だよ……ったく、ロシーのことは、お前が口出しするようなことじゃねェ。余計なことに気を揉んでないで、お前はちゃんとロシーの傍に居てやりゃ、それでいいんだ』
    「はァ!?」
     少しはまともな情報をくれるかと思ったのに、結局ドフラミンゴは口を割らなかった。あいつはどうもコラさんの秘密を知っているようなのに、何も教えてくれず、こちらを小馬鹿にする態度に終始しておれの感情を逆なでる。
    (ふざけんな……! 何もしなくて良いって、お前のそんな台詞が信用できるわけねェだろうが……!!)
     今までの所業について、胸に手を当てて考えてみろ。信じるに足る要素がどこにある。一方的に切られたスマホの通話画面を睨みつけながら、取るべき次の手を考える。
     少なくともドフラミンゴは、おれの疑念を肯定した。どうやらコラさんには、何か隠していることがある。それはコラさんの身に差し迫るような危うさでないらしいが、とはいえ、何がどう転ぶかも分からない。
    (ドフラミンゴには任せておけねェ)
     幸い、コラさんのことを探るための伝手に関して、おれにはまだいくつかの手段が残されているのだ。
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