おかげさまで「〜♪」
鼻歌混じりにタヌキ姿で山道を歩く。
今日はマイキー君達と遊ぶ日。
少し前三途君と場地君とマイキー君が3人で一緒に居る所にたまたまオレが通りがかった時があって、でもオレはその時別件で用があってそれの移動中だったから少しだけ話をした時があった。
その時に「この前人里降りたらさァ、美味いモンが増えてんの!なぁタケミっちも一緒に食いに行こーぜ!」というマイキー君の一言で別日に集合が決まって今まさに合流するために待ち合わせ場所に向かう最中だったりする。
マイキー君達とは結構頻繁に会うし遊んでもらったりするけど今回は少し間が開いた気がするな〜、楽しみすぎて暇だったのも相まって1時間?2時間?ぐらい早めに来ちゃったし……でもやっぱ楽しみなんだよな〜!居なかったら近場で時間潰せばいいし!久々だなー!と内心ウキウキしながら歩いてる時だった。
「オイ」
唐突に呼び止められてビクつく。
こ、この声は……。
ぎこちなく後ろを振り返るとそこには……
「テメェツラ貸せ」
鬼の威圧感を発しながら鬼の形相で一切有無を言わす気がない鬼の三途君が見下ろしてきていた。
「ちょちょちょっ待って!降ろしてください!てか何で!!?」
あの後生命の危機を感じて反射的に逃げようとしたらクソデカ舌打ちの直後に地割れしたかと思うほどの音を立てて勢い良く地面を踏んだ音がしたせいで身体が硬直した。
そして本日2度目となるぎこちない振り返り確認をしてみたらオレの自慢のふっかふか尻尾のギリッッッッギリの所に恐らくあの音を立てながら踏み出したんであろう足があった。
ズダァンッ!!て音しましたけど……えっ……げ、下駄……えっ……?もしかしてオレの尾を踏み潰「チッ外した」 はずした。
心の中で思わず復唱してしまう。
……えっ外したって言った?何を。
震えてたらオレの身体をしっぶい表情でじっ……と見た後にまたクソデカ舌打ちしてきてビビり散らかす、何!?なんでこんな舌打ちしてくんの!?オレ何かした!?してなくない!?てか出来ねーよ!だって会って数秒みたいなモンですし!!
……に、逃げたい。
何とかならねぇかな……どうせ後で会うけど……今みたいにタイマンで会うより周りに誰かが居てくれた方がイイに決まってる。
逃げれるか……?いやでも今のオレは獣だし純粋な身体能力、つまり足の速さだけならオレの方に分があるはず。
刺激しないようにそっと、マジでそーっと、そろりと前足を前に踏み出したその瞬間、手が伸びてきてあっという間に浮遊感に襲われて「ギャーーーッ」と叫び声を上げたのがついさっき。
そして、今に、至る。
オレを抱えたまま全然降ろしてくれる気配は無いし暴れたら「叩き落とすぞ」とか言われるしそん時の目が据わってて明らかにガチだったのを見てつい萎縮した、そうですよね、ハイハイハイもー我ながら情けねぇよ……ッ!
一切何も言わないのが余計に恐怖心を煽る。
しかもこっち待ち合わせ場所とは方向が全然違うし……。
「で、でも……どこ行くのかとか……」
そんぐらい言ってくれたって良くね……?
腕の中で大人しく揺られるしか無ぇのかな。
しょんぼりしてきた。
本当にどこ行く気なんだろ……遅刻したらめちゃくちゃ怒られると思うけど……でもマイキー君との約束を反故にするような事を三途君は絶対にしないはず。
チラ見してみたら歩きながらいつの間にか見下ろしてきてたらしい視線と目が合ってちょっとビビって身体が強ばった。
「テメェその汚さでマイキーに会うつもりか?」
眉間に皺を寄せて嫌悪感を滲ませるような表情で言われて思わず「えっ」と声が出た。
き、汚い!!?
「汚いって!そっそんなワケない!だってオレ身だしなみにはそれなりに気を遣ってますし身体だってちゃんと洗ってますよ失礼な!」
ほらァ!と言いながら腕の中でフカフカ尻尾を抱き抱えてみたけどむしろ余計に表情が渋くなる、何でだよ。
「それで……?正気かテメェ。テメェの目ん玉についてんのは高性能な節穴か?全然だろ、つーか気を遣ってるだァ……?じゃあ具体的に何してんのか言え」
ぼ、ボロカス言う……!
具体的に……!?
え、ええと……んん〜……。
「さっきも言いましたけど全身ちゃんと洗ってます!今日だって洗ってから来ましたし!」
で?と言わんばかりの顔をされてる。
め、めげねぇ……!
他……!他、ええと。
「あと寝癖!今は分かんねぇと思うけど……寝癖はちゃんときっちり直します!そんでいい感じになるようにしたりとか……」
まだ表情は変わらない。
嘘だろ全然ダメ?これでも?ダメ?
めげないと誓った傍から口を閉じたら溜め息を吐かれた後に「着いた」と言われて周りを見る。
「アレ、こんな所に拓けた場所あったんだ」
着いたのは結構広めに拓けた場所だった。
何なら座れそうな大きめな岩がある。
周りは静かで鳥とか木々の葉の音みたいな自然音ぐらいしか聞こえない。
何つーか……あーそうだ、秘密基地みたいかも。
キョロキョロ周りを見てたらその座れそうな大きめの岩の所に座り込んでから同じ方向を見るように正面を向かせた状態でオレを膝上に乗せた。
何されんのかな。
「何してやがる、さっさと人間になれ」
え?ここ(膝上)で?
無理無理無理と首を横に振ったら首裏に何かが触れて、次に1本ずつ、物凄くゆっくりと首に指が添えられていって一瞬で血の気が引いたオレは言われた通りに人間の姿に切り替えた。
耳と尻尾だけは残ってる人間の姿。
こ、怖すぎる、そんな脅し方どこで覚えてくんのこの鬼。
「っ?」
髪の毛を何かが梳いてる。
櫛だ。
え、オレ今毛並み整えられてる?
え?待って持ち歩いてるって事?櫛を?
困惑しながら前を見つめることしか出来ないで居たらやっと後ろから声が聞こえた。
「寝癖直すなんざ当たり前の事言ってんじゃねェ。毛質すら気にした事ねぇだろオマエ」
け、毛質?
何それ?確かにそんなん気にした事ない。
図星過ぎて何も言えないで居たら舌打ちが聞こえてまた萎縮した、他人の膝上で。
「毎度毎度思ってたがマイキーの隣歩くってのに信じられねぇ……何だこの……!今回こそ何とかしてくるかと思ったらいつも通り……!チッ」
マジトーンの文句と舌打ちが止まらない。
何か口挟もうモンなら殺されるんじゃないかと思うほどめちゃくちゃ言われてる。
……でも、梳いてくれる手とかは超優しくて何か丁寧にしてくれてて正直心地良い。
毛並みを整えるように梳いてくれる時間が少し流れてってその心地良さにうとうとしてきた辺りで梳く動きを止めて後ろで何かをし始めた。
ぽやぽやしながら何してんのかなって気になって後ろを振り返ってみたら自分の袖口から手を突っ込んで袂の所をゴソゴソしてる。
そこから取り出したのは小さい小瓶に入った……何だろうコレ、液体?
取り出した小瓶を開けて手のひらにそれを垂らしながら「前向いてろ」と言われて大人しくまた前を見た。
何だろうアレ。
言われた通りに前を向いてから少しした後に今度は髪を撫でる……というか何かを塗る?馴染ませる?ような感じで髪の毛に触られて目を閉じた。
多分さっきの液体?を塗られてる。
「何スかそれ」
目を閉じたまま聞いてみる。
「椿油。髪のツヤ出しとか保湿とか……油は他にもあるがコレが1番使い勝手がいい」
椿油か。
椿油自体は他にも使い方があるからオレはそっちで馴染み深いんだよな、髪にも使うんだ。
へーと思いながら黙って大人しくされるがままになってたその時。
「うあっ!?」
唐突な違和感。
えっ?えっ!
し、尻尾!
尻尾触られてんですけど……!?
そんなの聞いてないと慌てて尻尾を消そうとしたら根元ら辺を鷲掴みされて「余計な事しようとしたらその瞬間引っこ抜く」とか言われて背筋が冷えた。
ひ、引っこ抜くって何……?初めて言われた。
こくこく頷いたら思ってたよりまた優しく触られて困惑する。
「油。……残った。どうせならテメェのここに使ってやるっつってんだ、感謝しやがれ」
お、横暴過ぎじゃね……?
普通に触っていい?とか断りを入れてくれたらこっちから全然お願いしたのに。
いやでも……うーん……今更っちゃ今更ではある、のかな……この人こういう所あるんだよな〜……昔からだけどさぁ……。
……あと何か相変わらず丁寧に触ってくるその触り方が心地よくて……う……。
優しく毛を撫でられるせいでまたうとうとしてくる。
にしてもこんな手入れしてくれるなんて……これ毎日してんのかな……すげぇ……オレ絶対面倒くさくて途中でサボる気がする。
「ぅ、えっ」
呑気に色んな事を考えてたらまたぞわついて身体がびくついた。
し、しっぽ、付け根のとこ……!
そこを指先で優しく揉むような、なんというか擽るみたいに撫でられてる。
根本ら辺の毛並みにそって指の腹で擦るように撫でられたり、さわさわ指先で擽るみたいにされたり、う、尾の骨の付け根、こ、こりこりされ……ッ!何その触り方!?う、う……!
ぞわぞわしたりぞくぞくしたりして身体がびくつくし自然に少しずつ背が反れていく。
「や、ぅ、っん、ん」
へんな、こえ出そう、で……!!
止めて欲しくて首を横に振ってみるけどこっちを見てないのか気付いてないのか撫でる手は止まらない。
両手で弄られまくって、ぁ、あ、やばい、こえ、声出る、まずい。
ていうかなんかきもちいの何で……!?
心地良いがきもちいになんのはまずいだろ!
まっ待って、まって、待って待って待って……!なんっ……なん、か……っ!
「ゃ、やだ、さんっ……さん、ず、く」
変な声が出そうになるのを堪えながら何とか声を絞り出して言ってみたら割とあっさり手を離してくれた。
顔が熱い、やばい。
「どうした」
どうしたって言われても止めた理由なんか言えない。
気持ちよくてぞくぞくして変な声出そうだったとか死んでも言えるわけない。
俯きながら黙ってたら「終わりだ。さっさと退け」とか言われて、でも、動けない。
だ……だって……!
少し前のオレに伝えてやりたい。
その鬼の膝上で小さく震えながら羞恥心で死にそうになる羽目になるって。
「……気持ちよかったか?」
!!!
身体が強ばる。
なにも、いえない。
そんな中でさっさと降りろと催促されて目をきつく閉じる。
「う、動けないんですって!」
自分でも思ってたより声を張ってしまった。
でも仕方なくね?だって。
「降りれねェって事か?……、……まさかオマエ「言わないでッ!!」
言葉を被せるように静止をかける。
やめてください。
死にそう。
「なに、なにもッ……言わないで」
あまりの羞恥心で涙が滲むし情けないような、消え入るような震えた声で呟いて更に俯く。
すると背に温もりが来て密着されたんだと理解するのと同時に耳元で囁き声が聞こえた。
「手伝ってやろうか」
びくつく身体。
心臓がうるさい。
何でこんなタイミングでからかってくるんだこの鬼……!マジで性格悪いっつーか心まで鬼すぎるっつーか……!
じとっとした視線を向けるように振り返る。
「……からかうのやめてもらえます?オレが今割とマジで死にそうなの分かってますよね」
泣きたい。
男の膝上でこんな簡単に醜態晒す事になるなんて。
そんなオレと視線を合わせるようにして三途君が言った。
「……本当にからかってるか
試してみるか?」
心臓から、どっ、て音がした。
試っ……試、すって、えっ?
声が出ない。
どういう。
思考が出来ない。
というか、考えられない、という、か。
時が止まったというか。
目を見開いて喉を詰まらせたような声しか出せないでいたら唐突に落とすように降ろされて無様に地面を転がる羽目になった、はぁ???
ゆっくり起き上がって地面に座り込んで呆然としながら相手を見上げたらいつもみたいな涼しい、まさにしれっとした顔。
「バーカ。本気にしてんじゃねーよ」
は、はぁ……????
はっ?……えっ?殴っ……え?流石に殴っていいよな?殴んねぇけど。
だって力じゃオレ適わねぇし。
む、ムカつく……!!情けねぇオレにもこの鬼にも……ッ!
おかげで収まったけど!
立ち上がってここまで来た道をずんずん歩いていくと後ろから聞こえた声。
ちゃんと着いてきてるらしい。
「もう良いのか?」
声だけで分かる、絶対ちょっと笑ってる、何笑ってんだよ。
ムカつきにムカつきまくったせいで勢いよく振り返って睨みつけてから言ってやった。
『おかげさまで!』
マイキー君達が待つ合流場所を目指した。
同じ轍は踏まない、次は絶対に、ぜっっってえ抵抗してやる……!と、決意を新たに心に固く誓いながら。