クロウがシオンを看病するだけ 紅月夜シオンという男は常にヘラヘラとしている。
本人としては優雅な笑みを浮かべているつもりなのかもしれない。事実、この美しいかんばせで微笑んで見せればパッと見は優美なことこの上ないが、この男とある程度付き合ってしまえば、その微笑みは『へらへら』としか映らない。人を寄せ付けない調度品のような美しさは表面上だけで実際は人懐こい男だ。と、クロウはシオンという男をそう定義付けていた。
紅月夜シオンはヘラヘラとしている。しかし、今日はなにかが変だった。
おやつどきにフラリとリビングに現れた時から予兆はあったのだ。今日はオキタが評判の店で団子を買ってきていて、同居人たちは集まってわいわいと楽しそうにしていた。好物は串料理だなんて大まかすぎる区分で語る男は串に刺さってさえいれば何でも好きだったから、例に漏れず団子も気に入っている。そして、賑やかな場も好きだ。だからきっと喜ぶだろうと思ったのに、彼はなんだか気弱にへらりと笑って「ケイル君にあげる」とだけ言って、水道から直接水をコップに注ぎ、一気に煽った。
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