名前 部屋を片付けている途中、壁の上をちいさな何かが動くのを見つけた。ナンバは手を止めて近づいた。
それは小さなハエトリグモだった。このごろ家でよく見かける個体だ。餌は豊富らしく、ころころと丸くなっている。そういえばこいつを見かけるようになってから、部屋の小さな羽虫が消えた気がする。
「よろしくな、ちゃんと食ってくれよ」
そう告げると、小さな同居人はぴょこりと手を動かした。案外、人の言葉も伝わるのかもしれない。おとぎ話のようなことを考えながら、ナンバは片付けに戻った。今日は来客の予定があるから、あまりのんびりはしていられない。
手を動かしながら物思いにふける。そうするうちに、前にこの小さなクモを見かけた時のことが頭に浮かんだ。そのときは一番もこの部屋に来ていて、ちょうどさっきと同じようにこいつに話しかけた。その時、一番に尋ねられた。
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