暮らすドメスティックガイズTrack4に寄せて「お前さん、ルークのアルバム本当に気に入ってるねぇ」
ルークの家に滞在し始めて十日、チェズレイがリビングのソファでアルバムをめくる姿はすっかり見慣れたものだった。
「リトルボスのスイートなお姿を目に焼き付けておこうと思いまして。モクマさんもご覧になります?」
「俺はいいや。ルークの思い出聴きながら見るのは楽しかったけどね」
ルークが作り置いてくれているコーヒーを淹れてチェズレイの隣にかける。大将がバカンスモードなので予定もなく、家主の出勤を見送った後にやることは決まっていなかった。
「しかし奴さんも往生際悪いよねぇ。感情なんてもん、ぜーんぶそこに写っちゃってるじゃない」
隣を見ながら呟くと気に入りの写真をなぞるチェズレイの指が不自然に止まった。
「モクマさん、あなたこういったものへの審美眼をお持ちで?」
「審美眼っちゅーか……、おじさんは撮られる側だから聞き齧りだけどさ」
モデルの経験が? チェズレイの言葉にニンジャジャンだよと返す。
「こどもたちがニンジャジャンと撮るのは記念写真だけど、そのアルバム、スナップ写真も多いじゃない?飛行船で同僚だったカメラマンがスナップ写真はその瞬間を撮りたいと思った人間がいることに第一の価値があるって話してて、おじさん人のアルバムなんて見る機会ないし聞き流してたけど、ルークの写真見て納得しちゃったんだよね」
眉を顰めたチェズレイの視線が何度が写真をなぞる。
「ピンとこない? たとえばそのドーナツを食べてる写真、ルークは特別な日じゃなかったって言ってたじゃない? その特別でも何でもない日に大好きなドーナツをキラキラの笑顔で食べるルークを写真に収めようとした人間がいなきゃ俺たちがその写真を見ることはなかったでしょ? そんでその写真、お前さんのお眼鏡に叶うくらいいい写真じゃない。多分、あのカメラマンの言ってた価値ってのはこう言うことだなって思ったんだよね。——ちなみにお前さんがルークの写真撮ったらそれもいい写真になるんじゃないかって思うよ」
「わたしが——リトルボスの写真を?」
「今のルークの写真ね」
「冗談ですよ。素敵な提案ですがどうせなら私も一緒の写真が欲しいです」
「じゃあおじさんが撮ったげようか。俺もお前さんの写真ならいいのが撮れるかも」
「私といるのに機械にかまけるおつもりですか?」
「それもそうか、でも後から見返せるのも嬉しいじゃない?」
様子を見るに写真を撮ること自体には乗り気だ。幼い頃のルークの写真はともかく、チェズレイならば写真を撮りたいし被写体にもなっていたいという我儘は自分で解決してしまう気がするのが可笑しかった。