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    しど夢冒頭

    ##bll夢

    ギャラクシー☆ダイナマイト♂

    試合前に会場の様子を確認していた帝襟アンリは、ブルーロック側の物販を見ている女の子を見つけた。綺麗に切りそろえられた黒髪を揺らす、淑やかという言葉を体現したような少女だった。ブルーロックのロゴが入ったサッカーボールやブルーロックマを抱えて、選手のレプリカユニフォームを確認している。きょろきょろとして、きっと彼女を招待した人物のユニフォームを探していると予感した。残念ながら、ブルーロックの物販に並ぶひとはまばらで、どこか彼らの面影を感じるひとたちしかいない。選手たちが呼んだ家族だろう。少なくても、それでも応援してくれるひとがいるのはありがたいことだ。アンリは少女に声をかけた。「何かお探しですか?」彼女はきょと、とアンリを見て、首にかけたスタッフ証を確認して、それからホッとしたように息を吐いた。
    「あ、えと……」
    ちらりとユニフォームを見て、アンリに視線を戻した。瑠璃色の瞳が戸惑ったように伏せられる。長い睫毛が頬に影を作って、ほぅ、と溜息がこぼれた。
    「ブルーロックにいる友人が出場するはずなんですけど、……」
    「応援に来られたんですね! 選手の名前をお聞きしても?」
    今回のレプリカユニフォームは、ベンチメンバーの分を含めて作成されている。日本代表側ほど量産していなくても、きちんとそれぞれの選手たちのユニフォームはある。布に描かれた英字の名前は慣れていないとすぐに把握できないから、あまり試合を見る子ではないのかもしれない。そうであればポジションから背番号を推測することもしないだろうし。
    彼女は「友人がブルーロックにいる」と言った。アンリは香り立つ青春の気配にそわそわとしてしまう。わざわざ女の子を試合に呼ぶなんて、そんなの、「好き」じゃん……。誰が呼んだのだろう。レギュラーメンバーの中だと、潔選手、だろうか。普段は温厚な選手だし、彼女みたいに清楚な女の子が隣にいても違和感がない。少女漫画みたいだ。蜂楽選手も有り得る。溌剌として無邪気な彼の隣に、委員長タイプの彼女……有り得──
    「士道くんって子で……」
    「え?」
    「え?」
    アンリは素っ頓狂な声を出してしまった。彼女は瑠璃色の瞳を瞬いている。聞き間違いではなさそうだ。「……士道龍聖くん?」「あ、そうです」念の為にフルネームを確認しても、間違いではなかった。思わず、手に持っていたクリップボードで口元を隠してしまう。
    士道龍聖。
    ブルーロックから出る直前に入れられた懲罰室で拘束されていた姿を思い出す。あの暴力的な青年に、こんなか弱そうな知り合いがいたなんて。彼をブルーロックへ招集する前に、彼のデータや映像を確認した絵心が対暴動用電気ショックをスーツに埋め込むよう指示した過去が思い出された。
    首を傾げている無垢な女の子を前に、アンリはハッと正気に戻った。こほん、と咳払いをして、日本代表側の物販列を手で指し示す。
    「……えーっと、士道くんは、U20日本代表側で出場しますよ」
    「エッ」
    彼女がぐるりと振り返って、大量の人で溢れているスペースを見た。その動作で髪が靡いて、彼女の耳に大量に着けられたピアスがきらりと反射して見えた。
    「日本……代表…………?」
    あの男が……? という声が聞こえてきそうだった。

    試合後に、また彼女に出会った。「あ! おねぇさん!」パッと顔を輝かせてアンリの傍に駆け寄る。微笑ましい。淑やかに微笑んでいた彼女が、試合後の熱気にやられたのか頬を赤くしている。試合前と比べてテンションも高いように見えて、こちらの方が、断然、年相応に見えた。お手洗いに行った後に出口が分からなくなったという彼女に、案内をしながら、試合の感想を尋ねてみる。サッカーよく分かんないですけど、と前置きして、弾けるような笑顔を浮かべた。
    「なんかすんごい、アツい戦いって感じでした!」
    手をぱたぱたと動かしながら、ボールの動きについて話している。擬音の多いそれはアンリにはあまり理解できなかったが、興奮は十二分に伝わった。サッカーをよく知らない、友人に呼ばれて来てみただけの女の子をこんなに夢中にさせられた。アンリはプロジェクトの成功とも言える反応に目頭が熱くなる。
    「士道くんに会っていかれますか? 喜ぶと思いますよ」
    彼女はしばし沈黙して、選手の邪魔にならないのなら、と頷いた。

    ***

    シャワーを浴びて、荷物をまとめて、インタビューがある奴はその準備もして。慌ただしく選手たちが動く日本代表の控え室に、そのノックは響いた。「士道くんのご友人がいらっしゃってますよ」ブルーロック側の帝襟アンリの声だった。ユニフォームを脱いで身軽になっていた奴らが怒涛の勢いで服を着る。フルチンだった奴には怒号が飛んだ。あんな美人の前で半裸にだってなれないのに全裸になんてもっとなれない。特に急ぎすぎた閃堂はパンツ(下着ではない)を引き上げるのが早すぎて勢いのまま横転していた。
    友人が来ていると言われた士道は上裸のまま扉を開ける。男たちの悲鳴が響く。アンリは苦笑して、後ろに隠れていた少女を士道に引き合わせた。真っ直ぐ伸ばした黒髪の、淑やかな少女だった。紅く染められた口唇が艶やかで、横転していた閃堂はぱかりと口を開けて放心した。あんな清楚で可愛い子があの悪魔の友人? 嘘だろ。
    「ルリチャ〜ン♡」
    後ろの惨状も気にせず、士道は腕を広げて少女に駆け寄った。彼は信じられないくらいご機嫌だったが、少女は無表情で手のひらを見せる。「待って」士道は意外にも素直にぴたりと動きを止めて、首を傾げた。片眉をひくりと上げて、少しだけ機嫌が降下したのを見たアンリだけが冷や冷やとさせられた。
    「汗臭いのはイヤ」
    控え室の男たちが一斉に自分の匂いを確認した。スン! とどこかしらを嗅ぐ音がユニゾンする。「めちゃめちゃシーブリーズ塗ったくったしィ!」「じゃイイヨ」男たちが汗ふきシートで体を擦っている間、士道は少女にべったりくっついて仕舞いこむようなハグをしていた。羨ましくて何人かが歯を食いしばる音がした。整えられた黒髪をくしゃくしゃと撫で回して旋毛に唇を落とす。チュッチュッチュッチュッッとリップノイズを鳴らされたところで、少女は微動だにしなかった。目の前にある士道の二の腕を掴んで、「なんか太くなってない?」と検分している。日本代表側はアウェーであるブルーロックのスタジアムに来て日が浅いが、トンデモプロジェクトであるだけあって施設は充実していた。サッカー馬鹿には堪らない環境だ。愛空が、もう少し遅れて生まれていたらと考えてしまうのも無理はないほどの。きっと、プロジェクト参加前から知っている友人から見れば、特にその成長は顕著なのだろう。
    「ちゃんとひとりで来れてえらいでちゅね〜♡ んまっ! マズ!」
    「お化粧してるからねー」
    勢いよく頬に吸い付いた唇が、シュボッ! と音を立てて離れた。日焼け止めやファンデーションや、その他いろいろな化粧品の味を感じて舌を出した士道が気を取り直して頭に頬擦りしている。が、少女はやはり何も気にしない。完全に慣れている様子が伺えた。愛空が半ば感心してふたりを見ていると、少女とばちりと目が合った。瑠璃色の美しい瞳に射抜かれて肩が跳ねる。
    「うちの士道がお世話になりました」
    「あ、ドモ……」
    愛空は、差し入れですと渡された紙袋をありがたく──反射的にとも言うが──受け取った。頭上で士道がごねている。元はブルーロック側にいると思って用意した物らしく、控え室にいる人数より幾分か量があった。いくつかはじゃんけんをするにしても十分な量の差し入れを頂いたので全員で礼を言う。圧のある男たちの揃った謝辞に、少女は士道の上半身に腕を回してひしっとしがみついた。士道は男たちに「ビビらせてんじゃねェぞ!」と威嚇して、少女に向き直り「怖かったでちゅね〜♡」と上機嫌にキスをしていた。不味いと言っていた割には頬に何度も。それでもって威嚇していた顔と猫なで声のときの顔が全然違う。怖。愛空はそっと離れてふたりを見守った。アンリは「あとは若いおふたりで……」という微笑みを向けて立ち去った。

    「ねね、どだった〜? 俺の生命活動サッカー♡」
    「負けてたね〜」
    「あ?」
    声のトーンが一気に二段階ほど下がって、周囲の空気が凍る。ふたりの近くにいた選手たちがさっと距離を取る。対して、愛空や閃堂は、士道が暴挙に出た際にどうにかするために、ふたりにそっと近寄った。愛空はともかく、閃堂はどうにかできる自信はなかったが、女の子を殴るのは違うだろ、とは思っていたから。日本代表側が負けたのは事実だったし。
    少女は冷えた空気などものともせずに、士道にぎゅっとしがみついた。士道が上裸なのも気にしていない。褐色の胸から士道の顔を見上げ、口元を綻ばせた。
    「でも今までで一番楽しそうだった!」
    士道の口元がにんまりと弧を描く。「わかる?」と問いかけると、少女もにっこり笑った。「めちゃめちゃボバババって感じだった〜」士道は再度、「わかるゥ?」と上機嫌に返事をして、少女を抱き上げた。抱えたままくるくると回って、まるでこちらが勝利したかのような雰囲気を作り上げる。一通り満喫したのか、士道が回転を止める。それでも少女は抱えられたままなので、今は彼女が士道を見下ろしていた。
    「てか聞き間違えじゃなきゃ孕めってってなかった?」
    った」
    「コンプラ〜」
    数人が飲み物で噎せた。女の子に聞かせていい台詞じゃない。フィールドの上での口撃は公共の電波に乗らないとはいえ、士道はメディア向けの選手ではない。今回でよく分かった。確実に年齢制限がかかる。士道にゆっくり降ろされながらけらけらと笑う少女に、周囲の力が抜けていった。当初は、こんなに大人しそうな子が悪魔の友人だなんて、脅されている可能性もあると思ったくらいだったのに。伊達に友人をしていないらしい。士道の言動を愉快そうに笑っている少女は、見た目ほど大人しいではなかった。

    「あ、サインちょうだい。背中ね、番号と名前のとこに。よろしく」
    「ルリチャンへ♡ って書いたげるからね♡」
    「え、いらん」
    「は?」

    「将来お宝鑑定団で高く売れなくなる」
    「めちゃくちゃでェっかく宛名書いたげるネ♡」
    「あ〜ん」

    「あれどっちがサイン?」

    「え、てかブルーロックのグッズも買ったん?」
    「そぉ」

    「見て〜♡ バチラ選手のユニ♡」
    「は? なに? ああいうの好みだっけ?」
    「なんかぁ、ドリブル? ってやつすごかったから〜」

    「センドー選手のもあるよ」
    「は? なんで?」
    「なんかおもしろいこと叫んでなかった?」
    「イラネーって。捨てな〜?」
    「ヤダぁ」

    「俺も見て見てしよ。ほら、これ冴ちゃん♡ 将来俺らとシェアハウスするから♡」
    「冴ェ? 誰よその女ァ!」
    「………………………ハァ……」
    「なんだ男か。ならいいよ」
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    morp_apl

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    いとしのいとこ「おい」
    「今おいってった?」
    凛の鋭い呼びかけに、女は作業の手を止め、ぐるりと振り向いて即座に問いかける。凛のすっと伸びた背筋がより一層ピンとして、らしくもなく顎を引いて口ごもった。「…………はろちゃん……」ばつの悪そうな凛の表情と柔らかく言い直された呼びかけに首を傾げて、「なあに?」柔らかい声で嘉会かあい玻璐はろは返事をした。それでいい、と言いたげに。
    「麦茶出なくなった」
    「なくなったのかな、追加するねー」
    「ん……」
    弱々しい凛の様子に向けられた視線は二分化される。信じられないものを見たという視線と、哀れむような視線。前者は、普段「チッ」「ぬりぃ」「うぜぇ」時々「タコ」しか言わないような凛がしょんもりとした背中をしていることに対する、えッぐいホラーを見てしまったな……という視線だ。後者は、監獄の外にいる家族の中に、という生き物が含まれている男たちからの、同情の視線である。彼らは姉から「ねえ」と呼びかけられただけで即座に「すみません」と返す生態をしている。覚えがなくても先手を打って謝ることで、のちに訪れる悲劇を矮小化させるためだ。たとえ呼びかけの内容が昼食のメニューの相談だったとしても、先手は欠かせない。
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