種蒔く手 ハン・ジュウォンは喧騒の只中にいた。
ピカピカだった愛車はマニャンを離れてから泥と砂ぼこりにまみれるばかりで、もうずいぶん前に手放してしまったから、電車を乗り継ぎソウルまでやってきた。
かつて暮らした街はしばらく来ぬうちに、まるで知らない顔をジュウォンに向けていた。どこから来た者も招き入れる寛容なこの街は、その実ただ無関心なだけで、よそ者に対してあの町のような拒絶すらもよこさないだけのことなのだ。寂しいところだ、と思った。自分も少し前まではこの街のように、人の営みに関心を寄せることなどなかった。己の痛みだけに囚われていたあの頃、そんなことは見えなかった。
地下鉄の出口を出た途端に押し寄せてきたものに竦み、うまく歩き出せなかったジュウォンはそれを取り繕おうとコートの前を掻き合わせた。そんなごまかしを見透かすようにジュウォンの背中を、ジャマなんだよと悪態をついた男が押しのけていく。ジュウォンはまだ、自分の変容に追いつけないでいた。
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