140字 鉢竹詰めどうでもいいよ、そんなこと
「だからさ、何度も言ってるだろ! やめておいた方がいいって」
どれだけ強く振っても離れない手に声が焦る。距離をとりたいのに、あちらは一歩も許さぬというように落とす影を濃くするばかり。
「男だし、他の奴らみたいに優秀じゃないし、美人でもねえし、髪ボサボサだし」
喚くうちに綴る言葉がなくなって、それでもああだこうだと捲し立てれば落ち着く頃を見計らって影が口を開いた。
「それを気にして私が退くと思っているのか」
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待て、は得意じゃない、
想いが通じて早数日。長く拗らせた片恋を思い出にして、さてこれからどうやってより深い仲になっていくかと心踊らせるのが近頃の楽しみであった。二人きりで町に行くのも、あいつの好きな裏山の川辺で二人蛍を眺めて睦むのもよい。就寝前に明日の休みの過ごし方を尋ねようと引戸に手を掛けた三郎の背は、いまや雑に敷かれた布団の上であった。
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