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    Whitelily0114_1

    @Whitelily0114_1

    自創作を描きます
    小説とかはこっちに投げる予定です
    あんま来ないかも

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    Whitelily0114_1

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    カナタ目線のお話。彼女はあまり精神が安定していません

    赤紫の話今日は清々しい日和だ。
    外界ではもう殆ど見られないニホンタンポポがそこらじゅうに咲いている。
    現在午前10時。
    春眠暁を覚えず、先人はよく言ったものだ。麗らかな春の日はついうっかり余分に寝てしまう。
    伸びをして布団から出る。
    今日は特に外に出る用事はない。魔界で、定められた時間に出勤するなんて仕事をしているわけではないワタシの起床時間はバラバラだ。
    「朝飯を食うには微妙な時間だな。」
    1人ごちる。いつもこういう時迷う。朝餉を食べるにしては遅すぎ、昼餉を食べるにしては早すぎる。
    仕方がないので、ひと月ほど前に外界で買ってきたクッキーを食べる。

    それにしてものどかで、静かで、麗らかな日和だ。外界とは大違い。
    あの頃は、排気ガスと時間に追われた哀れな人間たちに囲まれて過ごしていた。
    通学のために鮨詰めの電車に乗り、一日中人目を気にしながら生きていく。
    何をするにも精神をすり減らしていた。
    楽しい時間がなかった、といえば嘘にはなる。しかし、楽しくない時間の方が多かったのは事実だ。
    女子特有の、クラスの中に暗黙のグループができるあの雰囲気、大嫌いだ。
    グループの中でも外でも、別の意味で気を使う。
    ワタシは別に特定のグループに所属しているわけでもなかったから、大抵の時間は1人だった。
    別に友達が誰1人いなかったわけじゃない。向こうがどう思っていたかはさておき、友達だと思っていた人はある程度いた。
    ペアを組んで、なんて言われた時に、特に困ったこともなかった。よく話す子たちがすでにペアを組んでいれば、それ以外の子と組めばいい。

    瞬間記憶というのは便利なものだ。あれから14年経った今でも、小学校から中学2年まで、クラスメイトや担任の顔と名前を覚えている。
    外界に行くことは今でも多々あるが、あの頃の友人たちと会おうなんてことは思わない。どうせ向こうはワタシの顔を見てもわからないだろう。一般人の記憶の薄れ方はよくわからないが、あの化け猫を見ていたら大体想像はつく。
    14年前の、ただ一時仲良くしていただけの人なぞ、普通は覚えていないだろう。ワタシが余程強烈な印象を与えていたなら話は別かもしれないが。

    過去を回想することは好きじゃない。芋蔓式で嫌な記憶が呼び起こされてくるからだ。

    瞬間記憶とは不便なものだ。「忘れる」ことができない。あの時かけられた嫌な言葉も、あの時やられた小さな嫌がらせも、全部鮮明に思い出せる。さっきあったことのように。例えばあの時やられたーーー

    「やっほー、ツギハギ。って、あらまあ。また昔を想起してたの?どうなるかなんて自分でわかってるでしょう?馬鹿なのかしら。」

    部屋の窓から信号機の配色をした化け猫が話しかける。
    こいつも過去がフラッシュバックするトリガーとなりうるので、極力会いたくはないのだが。
    「ねえ、聞こえてる?おーい。…ついに頭までダメになったかしら。」
    「失礼だな。頭はダメになってねぇよ。いっそダメになってくれたら楽になれるんだがな。」
    かろうじて正気を保つ。もう何十回、こいつの言葉で正気を取り戻しているだろうか。なぜか、示し合わせたかのように、ワタシが正気を失いかけた時はすぐにこいつが来る。
    「あっそ、それより、今日はヒビキくんはいないのね。学校?」
    化け猫が勝手に窓から家に上がる。普通に不法侵入だ。
    「友達と遊びに行くんだってさ。まだ春休み中だ。」
    誇れるワタシの弟ことヒビキは、今日は学校の友人と外に遊びに行くんだそうな。楽しそうで何よりだ。課題はまだ終わっていないようだが、別に止めはしない。こういう時間は大切だということはワタシもわかっている。
    「ふーん、外界の学校はこっちとは違うのね。こっちはもう学校は始まってる時期よ。」
    「へえ、そう。」
    「死ぬほど興味なさそうね。」
    「死ぬほど興味ないからな。」
    脊髄反射で会話をする。たまにはこういう時もあっていい。
    不本意だが、こいつと話している時は気を遣わなくて済むから楽だ。お互いが出会う前の過去の話はまずしないが、なぜか、会話が楽にできる。
    「ねえ、カップ麺ない?」
    「ない。」
    「えーーなんでよ。せっかくこの前外界に行ったんだから買ってきなさいよ。」
    「ゴミの処理が面倒。」
    魔霊輝にプラスチックや発泡スチロールはない。他の地方に行けばもしかしたらあるかもしれないが、多分ないんじゃないかと思う。
    ここの技術は、近世と近代の中間程度だ。石油製品なんてものはない。そんな中で外界のゴミなぞをそのまま出せるわけがない。
    外界のものを捨てるときはいつも、外界用にゴミ袋を作り、実家から捨てる。
    「魔霊輝で『外界のゴミは外界で捨てなければならない』なんて法律あったかしら。聞いたことないけど。」
    「ない。」
    「へえ?断言できるってことは、読んだの?法律書。」
    「読んだに決まってんだろ。外界の法律だって、今法改正されてたらわからんが、大体は頭に入ってる。」
    とんとん、と自分の頭を指で突きながら言う。
    魔霊輝の法律では、『外界のゴミは魔霊輝で捨ててなはらない』なんてものはない。
    そもそも外界に行くことができる者が数少ない、また外界から何かを持ち帰ってくる者はごく僅かであるため、法律を制定するまでもないのだ。
    一応魔霊輝の法律も、外界の日本の法律も、憲法も、全部一言一句暗唱できる。瞬間記憶の便利なところだ。
    「というかなんでいきなりカップ麺なんだよ。」
    「いや?なんとなく。塩分が欲しくなっただけ。」
    「じゃあ塩でも食っとけ。ついでに成仏でもしてくれ。」
    「私のことナメクジか幽霊だと思ってる?」
    「さあな。」
    軽口を叩ける仲というのはいいものだ。…こいつがそれなのは気に入らないが。
    気の置けない仲の人が、昔にもいたらよかったのに。そうしたら、ワタシがあんなに苦しむこともなかったはず。
    「またぼーっとしてる。目の前に可愛い可愛いエレンちゃんがいるんだから、忘れないでもらいたいわ。」
    「うげっなんだそれ気持ち悪い」
    「ひっど。少なくとも相棒に向かって放つ言葉じゃないわよ。」
    「誰が相棒だ。」
    願い下げだ。こいつと相棒なんて。そもそもコンビを組んだのだって自分たちからじゃない。
    穂乃香の野郎に勝手に組まされただけだ。どっちも拒否したから、諦めてくれればよかったのに。無理やり組ませやがった。何が『その方が管理が楽だから』だよ。こんな奴と組まされる私の身にもなってくれ。

    暖かな春風が家中を駆け抜ける。やはり魔界と外界では全く匂いが違う。こっちの方がワタシにはあっている。
    「あんたが正気を失った時は、私が殺すから大丈夫よ。」
    「どうしたんだ急に。」
    化け猫が尻尾を揺らしながら物騒なことを言いやがる。まあでも、その方が助かる。
    「いや別に?今日のあんたはよく回想をするからさ。いいかげんその癖やめたら?服と布団が汚れちゃうわ。」
    手元を見る。左手の甲が引っ掻き傷で覆われていた。どうやら過去を思い出す時に、無意識に引っ掻いていたようだ。爪が鋭いため、傷が割と深い。
    「気づかなかった。無意識か。」
    「呆れちゃう。固有能力は本来有効活用するものなのに、能力に振り回されてちゃあね。」
    何も言い返せない。生まれつき持っているものだからどうしようもない、と言って仕舞えばそれまで。しかしもう28年の付き合いだ。いまだに手綱を握られていてどうする。
    精神安定のさせ方をいいかげん学ばなければならない。
    「ま、何はともあれ、あんたを殺すのは絶対に私だから大丈夫よ。」
    「へっ、そっくりそのままお返しするぜ。」
    まあ、このくだりももう74回目だが。何回言っても減るもんじゃないから別にいい。
    「何があったとしても、今まで通り私たちは殺し合いも仕事も続けるからさあ。」
    あんたや私が拒否してもあの子が許さないだろうからね、とエレンは続けた。

    『彼女』が何を考えてワタシたちにコンビを組ませたのかはわからない。しかし今、まあまあ上手くやれているから、あれの判断は正しかったのだと思う。本当によくわからないやつだ。先見の明、とでも言うのだろうか。
    「…花見、また桜が咲いたら胡蝶のところにでも行くか?」
    まだ桜の木々は蕾のままだ。咲くのはあともう二週間後くらいだろう。
    「却下。あそこならいつでも咲いてるから特別感もへったくれもありゃしないわ。普通のソメイヨシノが見たい。」
    「そうか。」
    桜が咲いたらヒビキも連れて、月桃庵の菓子でも持って花見をしよう。あいつの進級祝いもしなければならない。
    早いもんだ。あいつはもう中3になる。ワタシは成れなかった中学3年生。来年の卒業式には出た方がいいかな。

    時が経つのは早いもので、駄弁っていたらもう昼になっていた。
    「昼どうしようかねぇ。」
    「霞でも行くか?」
    「ああ、そうしましょうか。」
    さらりとした流れで行き先が決定する。
    「じゃ、決まったことだし、着替えて。」
    「ああそうだった。」
    そういえばまだ寝巻きのままだった。
    しっしっ、と蝿を払うように化け猫を窓から追い出す。渋々窓から出て行ったが、きっとすぐに玄関を開けて中に入ってくるだろう。
    「はあ。」
    ため息をひとつついて立ち上がる。霞へ行くのは久しぶりだ。店主のカズハは元気だろうか、なんてことを考えながらクローゼットを開ける。

    まだ昼だ。今日はまだこれから。どんな話をしようか。
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