心臓の音と明主の話────夢を見た。
幼い頃の僕は母の胸に抱きつくのが大好きで、母も優しき抱きしめてくれて。
温かくて、幸せで。そんな時間が好きだった。
「お母さん、胸の中から変な音するよ。どくどくって言ってる」
「それは心臓の音だよ吾郎。変な音なんて言っちゃダメ」
「しんぞう?」
「お母さんが生きてる音だよ。吾郎の胸の中でもちゃんと同じ音がしてるんだから」
「僕も?」
「そうだよ。心臓が動いてる限り、私は吾郎のそばにいることができる。吾郎が今聞いたのは、そういう大切で、大事な音なんだよ」
「そうなんだ!じゃあ僕、この音好き!」
「ふふ、ありがと。吾郎」
「えへへ!」
そんな会話をしたのが、遠い日のことのように思える。
母はその後、僕を置いて死んでしまった。
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