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    manju_maa

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    manju_maa

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    支部の続きです。「」ない。ごろうくん療養編。

    ちょい病弱な明智吾郎くんに夢見た産物です。熱出し看病シチュはロマン。異論は認めない

    来栖暁に育てられたあけちごろうくんの話季節の変わり目になると、毎年と言っていいほどよく熱を出していた。
    その度に暁さんは優しく看病してくれた。彼と暮らし始めて初めて熱を出した時もそうだった。
    ベッドの上で吐いちゃって暁さんの部屋のベッドに移動したあの日は、熱で辛かったけれどベッドで横になりながら見えるパソコンに向かって仕事をしてるその横顔をずっと眺めていた気がする────






    ……………………

    目を開ける。視界は歪んでる上に霞んでてよく見えない。
    だけど何か黒い塊がこちらを見下ろしていて、目を向けるとすぐに視界の外に消えていった。

    「……ン!ゴ……が起……ぞ!」
    「………か?!」

    何か話し声が近くで聞こえるけれど、くぐもったような音しか聞き取れない。
    身体は熱くて重く、頭も両手で挟まれているのかと思うような不快感が残って、吐き気もする。どくどくと収まらない動悸のせいで息も苦しい。

    ……けち。良……った。…分はど…だ?」

    すると、再び視界の中に何かが入ってくる。
    少しだけ目の焦点が合ってきて、目に映る世界がはっきりしてくる。
    さっきの黒い影とは違う、また違う意味で黒い人影。声をかけながら、手を伸ばしてくるその人。
    その、この見た目は、声は。知ってる。
    ……彼は────

    ぁ……きら……?

    でも、どうしてここに。
    そう思って、開ききっていなかった目を開ける。
    ほぼ完全に晴れたその視界の中にいる、二年ぶりに見る彼の顔を見ようとして、

    え……

    それが、暁ではなく驚いたように目を丸くしている蓮だということを理解した。
    ……ああ、そっか。暁はもう居ないんだ。今この世界にいる蓮はこの蓮しか居ないんだった。
    ぽかんとした顔をしていた蓮は我に返ると、顔をずいっと近寄せて自分の顔を指さした。

    ……明智。俺は誰だ
    ……れん……
    コイツは?

    ヒョイっとモルガナを持ち上げて見せてくる。

    …もるがな…
    ………………。うん、良かった。倒れた時に頭打って記憶喪失とかそういうのはないみたいだ。単なる見間違いか

    ホッとしたように笑いながら顔が離れていく。しかしすぐに首筋と額の順で手を当てられた。
    冷たくて気持ちいいが、蓮の表情は少しだけ険しくなる。

    ……しかし全然熱下がらないな。本当に長引いてる
    …僕……なんで……
    ディスティニーランドで倒れたんだ。覚えてないか?

    そんな気がするような、記憶がないような。
    頭が働かなくて分からない。ひとまず首を横に振った。

    熱が酷かったんだ。ひとまず行きつけの病院に連れてって診てもらった。季節による風邪が過労と睡眠不足と栄養失調でとにかく悪化してるってさ。虎之助もびっくりのフォーアウトだ
    とらのすけって、だれ……
    知り合いの政治家。渋谷でいつも演説してる

    サラッと言うけど政治家に知り合いがいる高校生ってなんなんだろう。
    ……人のこと言えないけど。

    とりあえず点滴と、ビタミン剤と解熱剤を打ってもらった。熱が引くまで絶対安静。引いてから一週間もしっかり食事を食べつつ静養に徹しろだって。…それが二日前。家の場所はモルガナに案内を頼んだ

    言われてみれば、今居る場所は自分の家だった。
    通りで慣れた寝心地だと思った。

    …迷惑かけたね……ごめん…
    迷惑じゃない。…むしろ謝るのは俺の方だ。明智が忙しいの分かってたのに気づけなかった。モルガナのことがあったばっかなのに。リーダー失格だ
    気にしなくていいよ……全部僕がやりたくてやってただけだから…
    でも
    僕は、大丈夫だから…君はモルガナと帰りなよ……

    重い体を鞭打って身体を起こす。ひとまず喉がカラカラに乾いてるので、飲み物が飲みたい。
    ゲホゲホと咳き込むと蓮とモルガナの顔が目に見えて曇った。

    ……ダメだ。帰れない
    そうだぜゴロー。今のオマエを放って帰れるわけねえだろ…
    リーダーに風邪なんて伝染そうものならそれこそ問題しかないだろ……この時期はいつも熱出るんだ……慣れてるから平気だよ……
    なら尚更ダメだ。看病する。お前、このまま一人で暮らし続けてたら絶対いつか孤独死するから
    …失礼すぎない…?
    倒れてから二日間ずっと起きなくて、なのにまだ熱引かないんだぞ。とにかく寝ろ。欲しいものあったらすぐに言え。食事も全部俺が作る
    強引だな……
    明智にはそれくらいで行かないとダメだと判断した。リーダー命令だ、大人しく寝てろ。お前が身体起こしていい時は食事とトイレの時だけだ

    両肩を押さえつけられて、そのままベッドに倒される。

    …頼むから、もう無理しないでくれ。この二日間、生きた心地がしなかったんだ

    その顔はいつになく真剣で、けど泣き出しそうな情けない顔だった。
    ……そんな顔をされるとは思わなかった。
    ここまで悪化した理由については自覚もあるし、少しだけ罪悪感がわいてくる。恐らく寝ないでつきっきりで看病していたのだろう。うっすら見える目の下にくまがその証拠だ。おかげで、出ていってほしいという気持ちより、これ以上コイツに心配させたくないという気持ちが勝ってしまった。

    …分かったよ…分かったから…
    何かいるか?
    …飲み物……なんでもいい…
    ……じゃあポカリにしよう。今フタ開けるから

    蓮は安心したように穏やかに微笑んで、傍らにあるテーブルに置かれたペットボトルに手を伸ばす。
    キャップを外して、そこにストローを入れて口元に差し出される。ストローが逸れないように手でつまみながら、口に咥えて中身を吸い上げる。
    常温のまま置かれた甘いまろやかな味のするスポーツドリンクは、それでも発熱した身体よりかは冷たいようで胃の中でぶわりと広がる感覚が少しだけ心地良い。
    コップで飲むよりストローを使う方が今の弱りきった身体には向いていたらしく、一気にペットボトルの半分無くなるまで飲むことができた。

    ……ありがと……飲みやすかった…
    真がさ、ストロー使えば寝ながらでも飲めるだろうからって教えてくれたんだ
    …そう…
    とりあえず熱測ろう。冷えピタも貼って。それから飯食べよう。お粥作る
    ん…

    体温計を使ってみると38.8の文字が画面に表示され、額に熱冷ましのシートを貼ってもらえば蓮の手のひらなんて比べ物にならないくらいの冷たさが広がった。
    いつでも飲めるようにと手の届く所に置かれたスポーツドリンクをストローで吸いつつ台所に立って食事を作り始めた蓮の後ろ姿をボーッと眺めていると、やがて湯気が立つ土鍋を持った蓮が台所から戻ってくる。

    起きて食べるか?俺はあーんしてもいいけど
    いいわけないだろ……起きて食べるよ……
    ……ちょっと残念

    何言ってんだよお前は。
    全力で無視しながら身体を起こす。手のひらサイズのお椀によそわれたお粥とレンゲを蓮から受け取って口に入れた。
    喉に通りやすいようにと水分を多めにして作られた卵粥。

    ────

    それは、味も見た目も全て暁がずっと作っていたものと完全に一致していた。
    体調を崩すたびに食べていた。けれど暁が消えてからは食べれなかった。自分で作ろうとしても何故か再現できなかった…ずっと好きだった味。

    俺、卵粥だけは昔からよく作ってて得意なんだ。親が寝込んだ時とかよく食べさせててさ。味付けもずっと変えてないから不味いことはないけど

    ……ああ、だからここまで完全に同じものが作れるのか。
    何年経っても変わらない頭の中のレシピでずっと、ずっと作ってきてたから。

    おかわりはあるから食べれるだけ食べてくれ

    噛み締めるように咀嚼しながら、こくりと頷く。
    熱で頭がバカになってるせいか、不意にぶつけられた懐かしい味に不覚にも目頭が熱くなった。

    〇 〇

    次に気がつくと、部屋は暗くなっていた。
    蓮が作った卵粥を食べてから、医者から処方されたという薬を飲んだ記憶はある。その後にまた寝てしまったのだろう。
    顔を横に向けると、床に座ってベッドの上に頭と腕を乗せたまま間抜けな顔で寝ている蓮が隣に居た。その更に隣ではモルガナが丸くなって寝ている。

    …………

    不眠不休で看病していたコイツも、目を覚ましたことで少しは肩の荷が下りたということなのか。
    こんな時期に布団もかけずに寝たら、僕が風邪を伝染す前に身体を冷やして風邪を引くだろうに。なのに、こちらの掛け布団には元々使っていたものの上に佐倉の家から持ち込んだのだろうか見覚えのないフリースのブランケットが重ねられていて、完全に身体を冷やさないようにされている。

    …馬鹿

    何年経っても変わらない。コイツのそういう自己犠牲に躊躇いがないところがずっと嫌いだ。
    クラクラする頭を押さえながら身体を起こし、自分に掛けられていたブランケットを蓮の背中に被せて、力尽きたように再び身体をベッドに倒す。
    散々寝たからもう目は覚めたと思っていたけれど、発熱している身体はまだ睡眠を欲しているらしく、すぐに再び意識は落ちていく。

    〇 〇

    それから丸々二週間後。熱も下がり、体調も万全。見事に完全復帰を果たした。
    微熱が続いて倒れてから一週間は寝たきりで、熱が引いた後の残り一週間は蓮の言われた通り、ただのんびりと身体を休めた。

    『君、本当は入院させた方が良かったんだけどモルモットくんが明智は家で休ませるって聞かなくてね。まあ解熱の新薬の効果が知りたかったし、それ飲ませてみて経過報告してくれるならって条件で家に返すの許したの』

    これは倒れた時に僕を診察したらしい四軒茶屋の診療所にお礼と報告に足を運んだ際にパンクな格好をした女医から言われた言葉だ。
    あっさり決まったような口振りで言うから、そんな裏取引があったとは夢にも思わず愕然とした。しかもめちゃくちゃナチュラルに薬の実験台にされてるし。薬は確かによく効いたけれども。

    要入院案件だったんじゃねえかよ。人がぶっ倒れてる横でクソみたいな取引してやがって
    嘘はついてない。入院するより家で療養した方がお前は気が楽だろうなって配慮してやったんじゃないか
    医者の言うことには従えよそこは。自責の念に駆られた情けない顔してるからちょっと悪いことしたなと思った気持ちを返せよ
    大丈夫だ。武見の薬は最強だし何かあればすぐに来てくれるよう話は通しておいたし、やってた事は全部武見の指示下だし、俺もずっと寝泊まりしてたわけだし。あと自責を感じてたのは普通に事実。そう思ってくれてたとは思わなかったな。嬉しい
    そういう問題じゃねえだろ喜ぶな!
    はは、口調がいつにも増してイキイキしてるし元気になって良かった。看病した甲斐があったよ
    言ってろ。ぶん殴ってやる
    ああ、いいぞ。かかって来い。お前とは一対一でやってみたかったんだ
    お~い、オマエ病み上がりなんだから飛ばしすぎんなよクロウ~

    晴れて全ての顔ぶれが揃った怪盗団とやって来たのはメメントスだった。
    冴さんのパレスが無い時点で、ターゲットのアテは完全にない。ひとまず総選挙がある12月までの一ヶ月は僕のリハビリをしつつ溜まったリクエストの消化を片付けながら力をつけて、あとは各々休息しようという話にまとまった。リハビリの相手を務めるのは勿論ジョーカーだ。溜まりに溜まった鬱憤と身体の鈍りを解消させてやる。

    つかアイツ、病み上がりのくせに元気すぎねえ?人格ブレブレじゃん…
    むしろゆっくりたっぷり休んで元気が有り余ってるんじゃないかしら
    クロウみたいな頭固いやつはな~。合法で『家から出るな』って言われることの素晴らしさは分からないだろな~
    ふむ、クロウの二面性には常々興味が尽きなかったが三面…いや四面性くらいはありそうだな。見ていて本当に飽きない男だ
    凄いよねえ。あれで多重人格とかじゃないんだもんね
    まあでもお父様の件で無理させてたんじゃないかって心配してたから元気になってくれて良かったよ

    少し離れたところで地面に座って持ち込んだ菓子類をボリボリ食べながら他のメンバーが何やら話していたが内容は聞こえない。多分ろくな内容じゃないのは分かる。
    とりあえずお前らもお前らでこんな場所でピクニック感覚で寛ぐなと言いたかった。


    〇 〇


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