Quasi amoroso キラキラと音の粒が輝いて、目の前が眩しい。
辿々しさが残る演奏。テクニックなら僕の方が上なのに。
なのに。
その演奏はあまりにも衝撃的で。
バイオリンが——音を鳴らすことが楽しいと謳うあの子の笑顔が、会場の空気を変えていく。
リズムに自然と体が揺れる。
客席の誰もがあの子に夢中だ。僕も目が離せない。
音楽の持つ力の凄さを初めて体感した。
させられた。
ステージの上でたった一人、淡いスポットライトに照らされた小さな体が、とてつもなく大きく見える。
僕もあんなふうに弾けたなら。
きみの見ている景色を、僕も見てみたい。
Quasi amoroso
『ピピピピピピピピピピ』
部屋中にけたたましく鳴り響くアラーム音。ふわふわの、柔らかい羽毛布団に包まれて眠っていた幸せな時間はもう終わりだ。だが、まだこの温もりから出たくない。
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