ドーナツのあなのなか「ドーナツが食べたい!」
大型ショッピングモールであらかた買い物をして、ひと休憩しようと考えていると天がそう言った。そういえば最近食べてなかったねって伝えて、小腹も空いたしちょうどいいからフードコートにある某ミスターなドーナツ屋さんへと足を運ぶことにした。
「唯一は荷物あるから俺がトング持つ!」
珍しくやる気な天にドーナツを取る任務を任せて、僕は天の後ろから見守る。
「どれにしよっかな〜。唯一は何がいい?」
「うーん、どうしようかな。天は?いつもの?」
「なんか甘いのとしょっぱいのも食べたいな〜。ねえ!ちょっと見て!なんか穴に刺さってるのあるよ!何これ!断面図?笑う〜」
「え、ちょっと天静かに」
期間限定のざっくりしてもっちりしたあらびきソーセージドックという名前の商品に天が笑っている。断面図?に、見えなくもない?いやいや、食べ物に失礼だよ!
「僕これにしよう〜。あとはポットンデリングかな〜」
天はすっと自分の食べたいものを選んでいく。
さて、僕は何にしようかな。
「いちー、決まった?ほら、早くしないと後ろの人が来ちゃうよ」
「うーん、じゃあ僕もおかず系のこれと天使なフレンチにしようかな」
「おっけー!」
そう言って天はトングでドーナツを挟んでトレーへと運ぶ。ちなみにおかず系は天と同じシリーズの卵のやつにした。
「天、飲み物どうする?コーラ?カフェオレ?」
「カフェオレにする」
「分かった。支払い済ますからこれ持って席取っておいてくれる?」
「んー!」
天に席の確保をお願いして会計を済ませて商品の準備ができるのを待つ。
カフェオレとあたためてもらったドーナツを持って天を探す。あれどこに行ったんだろう、とトレーを持ってキョロキョロと当たりを見渡す。数分トレーを持って天の姿を探していると、ようやく見つけて天と合流する。
「ごめんお待たせ」
トレーをテーブルにおいて席に座る。向かいの天を見ると、下を向いたままなぜか体を震わせている。
泣いてる?何かあったのか心配になり天に声をかけた。
「天?どうしたの大丈夫?」
「・・・、ふふ、あっははははは!!トレー持ってうろついてんのめっちゃ笑うんだけど!あれじゃん彼氏がフードコートでうろついて蛙化したやつじゃん!なんなのもう笑わせないで。はーー!!おかしい。愛おしいわ〜もう」
ひーひーと天は笑っている。え、僕そんなにおかしかったかな?でもそういえば前に配信でそんな話していたような。
「はーー!笑った!コレあっためてもらったんでしょ、早く食べよ」
「そうだね。待たせちゃったからちょっと冷めちゃったかな」
「んー大丈夫!食べやすくなった!」
「そう?ならよかった」
「「いただきます」」
声を揃えていただきますをする。さて、甘いのとしょっぱいもの、どっちから食べようかな。
「天はどっちから食べる?」
「ソーセージ!」
「じゃあ僕も卵のやつから食べようかな」
そう言って手に取って口へと運ぶ。生地がカレーパンのようになっていて、カリッとしていて卵の甘さも相まって美味しい。いつもは甘い系が多いからこういうドーナツもたまにはいいかなって思う。
「これ美味しいね。あんまりおかず系のドーナツ食べたことないけど、次からは食べてみようかな。天のはどう?美味しい?」
「ん!美味しい!ソーセージパリッとしてる、ふふいちみたい」
「・・・、天、外だよ」
「えー?唯一は何かと思ったのかな」
もう本当に天はなんでもそうなっちゃうんだから。あれ、これはそう思った僕も同じかな。変なこと言うとまた揶揄われるから黙っておこう。
「なんでもないよ。ほら、口にケチャップついてる」
「ん、ありがと」
口の端についたケチャップを手で拭ってペロリと舐める。しょっぱくて美味しい。隣の天を見るとじーっと僕の顔を見つめている。
「・・・?天?僕の顔にもなんかついてる?」
「いや、別に。なんでもない。唯一って本当そういうところあるよねーって」
はーもう、何回やられても心臓もたん。ってなんか呟いてるけどまあいっか。
ドーナツを一つ食べ終えて、もう一つのドーナツを手にとる。これは定番のいつもの味。もう何回も食べているけど、毎回どうしても食べたくなるんだよね。
天はこのドーナツ屋さんの一番人気のポットンデリングを手に取って穴を見つめている。ほらまた何か嫌な予感がする。
「素敵な穴だよね〜」
「はいはい。ほら食べるよ」
「ちぇー!唯一が乗ってこない。寂しい」
「・・・、ドーナツの穴って神秘的だよね」
「唯一!!100点!!」
なにそれって笑いながら残りのドーナツを食べる。どうやら満点の答えだったらしい。よかった。食べ終えた食器やゴミを集めて返却口へと返しにいく。
先にフードコートの外へ出て待っている天の元へと向かう。壁に持たれてスマホをいじる天を遠目で見ていると、やっぱりこうしてみるとかっこいいよな〜って思う。家では姫全開だけど、外では結構澄ました感じでいるからそこもまたギャップがあって実は好きなんだけどって、天には内緒だけどね。
「お待たせ。じゃあ帰ろうか」
「んー!行こー」
お腹も心も満たされて家路へと急ぐ。帰ったらうんと抱きしめてたくさんキスがしたい。今はなんだか、そんな気分。