まどろみ 明浦路司の朝は早い。5~6時頃に目覚めて、軽いストレッチとジョギングを済ませると、帰宅後すぐ洗濯機を稼働させながら朝食を作る。
そんな司だが時折、起床が遅いときがある。
「ん……」
覚醒を告げる吐息。司の口から小さく漏れ出る。
普段なら目覚めてすぐ意識もハッキリするが、そういう日は目覚めも悪い。
昨晩、純からたっぷり愛されたその翌朝は気怠さが手伝ってぼんやりしていることが多いのだ。
重たい瞼を開ければ濃い琥珀の瞳が現われる。
その琥珀は揺らめいていて、まだ色濃く昨晩の情交を匂わせる。
スンと鼻を鳴らせば近くには嗅ぎ慣れた煙草と香水の匂い。
その匂いに誘われるようにして、隣にいる最愛へと手を伸ばす司。
その手は捕らえられ、指先にチュとキスを一つ落とされた。
「ん……っ」
「おはよう」
「……おはようございます……」
普段は目を覚めたと同時にガバっと上体を起こしてベッドを降り、カーテンを開けたりと朝一から騒がしいが、この時ばかりはそんな司は鳴りを潜める。
毛布に身を包み、指先に当たる刺激をヒクリと甘受する。
「純……あの……」
「何?」
寝起きざま、何やら言いたいことがある司だが、まだ頭の中がフワフワしていてなかなか言葉にならない。
司がなかなか働き始めない頭を叱咤している間にも純は指先一本一本にキスをしていく。
「……んっ、純……」
「だから、何?」
抗議のつもりが、声が甘いせいで伝わらない。
でも一言、どうしても司には純へ言いたいことがあるのだ。
小さな小さな刺激を、どうにか思考の奥へと逃がしながら、自分にいたずらをする純の唇を空いている方の掌で覆い、それ以上のキスを阻止しながら、言いたいことを口にした。
「あっ、ぁの、ですね」
「うん」
「噛みすぎ、です……」
「………………」
「せ、せめて……服に隠れないところ、には……つけな、ぃで……」
身長が10センチ差なために、立つとどうしても純が司を見上げてしまうことになるが、ベッドの中では純の胸元にグリグリと甘えるように飛び込んでくる司は、純の胸に埋めていた顔を上げ琥珀を涙で潤ませながら見上げてきていた。
純は思う。
この年下の最愛はなぜこうも自分を煽ることが得意なのだろうか、と。
「隠れないところ、ってどこ?」
言いながら司の身体を隠す毛布を取っ払う。
「……っ、ぁ……」
弱々しい抵抗などあってないようなもの。
自分の身体を隠す毛布を掴もうとしたが、弱々しく掴んでいるだけではダメだったようで、司の手から毛布がスルリと奪い取られてしまう。
純は現れた司の美しい肉体を凝視した。
その身体には首筋、鎖骨、胸、腹筋、背中、内腿をメインに、腕と脚以外のほぼ全身に純が付けた噛み痕と鬱血痕が点在している。
昨晩、いや、昨晩だけではなく、何度も上書きしたものも含めて、司が反応を示し感じている場所を中心に、愛撫と共に残していった所有の証。
司は純のものなのだ、と無遠慮にマーキングしていっているのだ。
露わになった鎖骨に唇を寄せながら、司へと確認をする。
「今日は夕方から、だったよね?」
「……純?」
「だからもう一回」
昨晩たくさん与えた快楽でふにゃふにゃな司の思考回路へと低く甘い声で囁けば、司の抵抗などあっさりと封じられる。
「ゆっくりたっぷり、愛してあげるから」
横向きで抱き合っていた司の身体を仰向けにし、両の手それぞれに指を絡め合わせ、組み敷く。
カーテンから漏れ入る光の強さなど無視して、締め切って薄暗い部屋の中。
赤く染まり、自分のマーキング痕をたくさんつけた最愛の身体を、ゆっくり指でなぞりながら、純はもう一度、司の身体に溺れにいったのだった。