ハグの日「「母さーーん」」
洗濯物を庭で干していると、後ろから双子たちが司へと駆け寄ってきた。
何? と言いながら振り向くと小学生最後の夏休みを堪能している子供たちが司へと抱き着いてくる。
「明、茜、どうしたの?」
「あのね、今日はねハグの日なんだって」
「だからね、母さんとハグー!!」
夏休みの宿題で自由研究に「366日の記念日」を調べている双子たち。その成果だろう。
「今日はハグの日なんだ」
「「うん!!」」
「そっか、そっか」
司は抱き着いてきた我が子を二人纏めて抱きしめる。
「「えへへ、母さん、好きー」」
「俺も、好きだよ」
11年眠ったままの母親が目覚めて、こうして夏休みには一緒にすごしているのが心の底から嬉しいと、双子たちは隠すことなく表せば、司は司で大切だという思いを強く込めて抱きしめ返す。
「あ、洗濯物、干すの手伝うよ」
「私も手伝うー!」
「ありがとう。終わったらお昼ご飯の準備しようか」
「「はーい」」
学校から出されている夏休みの宿題はほぼ終わっている双子たち。
あとは自由研究を模造紙にまとめているところらしい。
そんな話をしながら親子三人で洗濯物を干す姿を、純はウッドデッキで煙草を吹かしながら見ていたのだった。
ワイワイきゃーきゃーはしゃぎながら洗濯物を干し終えて、昼食はフレンチトーストを食べたい、ということで牛乳と卵が足りない、となり双子たちはお使いをしに出掛けた。
見れば食パンも少ない。翌朝の朝食を考えると、ちょっと困りそうだ。
そう思ってスマホを取り出し、明のラインへと「食パンもお願いします」と打っていると、司を後ろからハグしてくる存在が。
「……純さん」
「僕の見えるところで堂々と浮気?」
「もー、俺たちの子供たち相手ですよ」
「でもハグいっぱいしてた」
ぎゅうぎゅうと腰を抱いて密着してくる純。
司はラインの送信を済ませると手に持っていたスマホをキッチンのカウンターへと置いてから純を構うことにした。
「仕方ない人ですね、まったく」
腰を抱く純の腕をポンポンと叩けば、強く抱いていた腕の力を緩める純。
拘束を解かれたところで、くるりと振り向いて純へと対峙すると両手を広げて。
「純さん、はい」
「司」
純を受け止めるために、と両手を広げた司は微笑んだ。
その誘惑に抗うことなどするはずもなく。
両手を広げて立つ司を抱き込んで密着する。すると司も純の背中へと手を回して、ぎゅーっと抱きしめる。
どれほど抱きしめ合っていただろうか。さすがに何十分も長くはないが、黙ってただ抱きしめ合ってるのは珍しいかもしれない。
ただ黙って互いの心音と体温を溶け合わせていく時間。
すると純の額からジワリと汗がにじみ出てくる。
「……暑いね」
「俺の体温が高いの知っているでしょ、もー」
「うん、知ってる」
暑い。
けどひっついていたい。
ジレンマだな、と思いながらも離れられない。
「でも離したくない」
「俺も離れたくないです」
うん、と一つ頷いた純は結局、双子たちが帰ってくるまで司に抱き着いて離さなかった。
買い物から帰ってきた双子たちはキッチンで抱き着く両親を見付けると。
「僕もーー!」
「私もーー!」
そして抱き合う両親に抱き着く双子たち。
そして親子互いにハグしあってから昼食の用意を始めた。
それは平和な夏の日の一幕。