白と黒 月が消えた闇夜。
見習い天使たちは眠りにつき、幼い天使たちを導く大天使である司は、眠っている見習い天使たちを見回って確認し、天使寮の端にある自室へ戻る前に、軽く散歩に出かけた。
ザァっと強い風が吹く。
ふと隣接する森へと誘われる司。
コツと石畳の道を白いブーツで踏みしめながら歩く。
今日はなぜか月が隠れている。
その異変に司は何やら嫌な予感をしながら、コツコツと森へと近付いていくと、ふと何か気配を感じた。
「……純、さん?」
知る気配、その持ち主の名前を小さく呟く。
するとザアアっと強い風が司の数メートル前で渦を作り、小さな竜巻のように巻き上がる。
そしてその竜巻が消えた場所に一人の男が立っていた。
「純さん、今日はなんで……って、あなた……っ」
やはり感じた気配は知った人だった、はず。
一緒に見習い天使を教育していた大天使、しかも司の先輩だった純。今日は無断欠勤をしていた。
棲み処もこの寮ではないため、司は心配しつつも、今日の授業を受け持っていたのだ。
その純が目の前にいる、はずなのに何やら様子が違う。
「まっ、てくださいっ! あなた、なんでっ!?」
「うん、もう天界には飽きたから、僕はここから去るよ」
「はぁ!? だから……っ、だから堕天したのかっ!!!!?」
昨日まで真っ白だったはずの羽。
その羽は今、真っ黒に染まっている。
森が生む闇に溶けあうほど黒々と。
「これはね……劣情を持ったから」
「……え?」
黒い靴でコツコツと石畳を蹴る純。
真っ直ぐ司に近付いてくる純の勢いに気圧されてジリっと後ずさる司だったが、純がその司へと手を伸ばし、その腕を掴んだと思うと無理矢理引き寄せて抱きしめた。
「っ!!」
「君に劣情を持ったから」
「ぇ……?」
腕を掴んだ反対側の手で司の胸倉を掴むなり引き寄せて、その唇へとキスを落とす。
「っん……ぁ……」
近付いた気配。
鼻腔を擽る苦い香りに、ヒクっと喉が震える司。
「んんっ、んっ……ぅ、ぁ」
気が済むまで唇を合わせる純にいいようにされて、司の眦に涙が溜まる。
ちゅ、という濡れた音がし、ようやく離れた唇。
純は司の唇をペロリと舐めてから、気が済んだのか、その大きな身体を突き飛ばした。
「ぃ、っ!?」
ズザっと石畳の上に尻もちをついた司は、痛みに呻きながら純を見上げたところでハっと気付く。
見れば羽が黒くなっただけでなく、悪魔の象徴となる角と尻尾まで生えているではないか。
「なんで……」
「天使同士だと結ばれないからね」
「な、なにを……」
「もうお友達ゴッコも同僚ゴッコも飽きたんだよ。これからは君を口説きにくるから」
じゃあね。
自分勝手に司を翻弄するだけ翻弄し、純は森の闇へと消えていってしまった。
司は、その場で座り込んだまま、動けずにその後ろ姿を見詰めるしかできずにいたのだった。
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から始まる堕天使×天使よだつかをその内、書きたいです。