ウサギの陥落 赤の王がご執心の白ウサギ。
幼馴染でもある二人は、この不思議の国では名物の二人だった。
后に迎える気満々の赤の王と、恐れ多いと逃げ回る白ウサギの追いかけっこがほぼ毎日繰り広げられているからだ。
とはいえ白ウサギが赤の王を嫌いなのか、というと、そうでもない。
むしろ赤の王と同じくらいの矢印を白ウサギも向けている。
いわゆる両片思いとかいうヤツ、いや、両想いは両想いだった。
ただ后になることに白ウサギが逃げているだけだ。
今日も今日とて、逃げる白ウサギは赤の王の城の裏庭で、赤の王のいう事しか聞かない不思議な茨に捕らえられていた。
「っ!! こらーーーー、また茨に命令したなっ」
「……当たり前でしょ。君が来たら通さず捕らえるように言ってるんだから」
「ぃ……ったぁ……」
ギチっという小さな音がする。
少年の頃の白ウサギならば四肢に茨を巻き付け、動きを制限すれば良かったが、大人になり赤の王より身長も伸び、趣味で筋トレをし始めてガタイも良くなった白ウサギは動きを制限するくらいではブチブチとちぎることもあったので、最近はその茨を喰い込ませて力業で抑え込むようになってきた。
「はぁ……ほら、僕の部屋に行くよ」
「ぃっ、行きませんっ! だいたい公務はどうしたんですかっ」
痛みに小さな悲鳴を漏らしつつも、拒絶を口にする白ウサギに思わず舌打ちを漏らす赤の王。
手と足にギチっと巻き付いた茨はそのままに、白ウサギを担ぎ上げた。
「君がいつも口実にするから、とっとと終わらせているよ」
「ぁ、っ!!」
安易に暴れられないように服越しに食い込ませる茨、その棘。
チリチリとした痛みに零れる呻き。
赤の王はそんな白ウサギの呻きなど気にした風もなく肩に担ぎ上げた身体をそのまま城の奥にある自室へと真っ直ぐ向かったのだった。
茨の棘が食い込む手足はそのまま、自室のベッドに放り投げる。
ぼふっとベッドのスプリングで跳ねる白ウサギ。衝撃で皮膚に棘が食い込み、小さく悲鳴が漏れる。
姿勢を安定させられず横たわる白ウサギにのしかかるように、着けていたマントと王冠を外した赤の王がベッドに上がってくると、白ウサギの靴を脱がせて皮膚に棘が残らないように手足に巻き付かれた茨をゆっくり取り外す。
赤の王の私室に連れ込まれてしまえば簡単に部屋から出られないことは経験上わかっている白ウサギは自分の手足から茨を丁寧に取り払っている赤の王を見詰めながら暴れることなく静かに口を開いた。
「……っ、純さん」
「何?」
「お……俺、后になんて……なれませんって」
「なんで?」
このやりとりも何度交わしたことか。
「……俺、ただの白ウサギです、よ?」
「でも僕は司以外、娶る気ないから早く僕の后になりなよ」
幼い頃に出会ってからずっと白ウサギ - 司 - しか見ていなかった赤の王 - 純 - は、ずっと司を口説いていたし、司はずっとはぐらかしていた。
「それとも他に誰かと番う予定でもあるの?」
「あっ、あるわけないでしょっ!! お、俺だって……」
出会った頃から純さんだけだったのに、という言葉は飲み込んだ。
言葉を飲み込んでぐっと引き結んだ唇に純の唇が重なる。
「っ!」
静かに重ねただけの唇を離すと純は司の上着を脱がせてしまう。
「ほら、血が付いているから脱いで」
「だ、れのせいで……っ」
茨の棘でついた傷から出た血が付いた司のパーカーを脱がせてくる純。
フードを剥ぎ取るとプルンと真っ白にピンクの兎耳が現われる。
「……ごめんね、ほら傷薬塗ってあげるから」
「っ、ぁ……」
フードに隠れていた本当の兎耳の付け根をあむっと食むと、性感帯でもある耳の付け根にやわやわと刺激されて、ひくりと震える司。
何度そうやっても慣れずに初心は反応を返してくる司に満足しながら、純はチェック柄のズボンも脱がしてしまう。
「ま……って、ちょ……っ」
「暴れないで」
「で、もっ」
ずるっとズボンを下げられ、脱がしてベッド下へ放り投げられる。
その臀部にある、ほわほわの真っ白な丸っこい尻尾をやわやわ揉む純。
「なに……する、んっ!!」
「はぁ……可愛い……司、傷薬塗ったらイチャイチャしよう」
「……純、さん……」
「今日の公務は全部終わっているから、残りの時間はずっと君と一緒にいられるよ」
ふわっとしている兎耳をツツっと舐めて唇で食む。
純からの刺激にヒクっと喉を震わせる司は、逃げることを完全に諦めると純のシャツのボタンを外し始めた。
その手を掴んでじわりと皮膚から滲んでいる血を舐めとる純。ペロリと舐めとる純の舌に、こくりと唾を飲み込んだ司は。
「そろそろ茨で捕まえるの、やめてください……」
「司が逃げなければ」
「……うう……なら……全力で、くっ、口説いてみてください」
下げる眉と同じようにペタっと下がる兎耳。
そんな司を、目を細めながら見詰める純。ようやくここまで譲歩してきた。
「うん、覚悟してね」
「……はい」
ようやく白ウサギを捕まえた赤の王が、二日ほど私室から出てこなくて城が大騒ぎになることを、まだトランプの兵たちは知る由もないのだった。