夏のSS詰め合わせ【熱に溶ける】 テーマ:熱中症
雲一つない晴天。灼熱の光がコンクリートに照り返り、容赦なく体温を上げていく。額に玉のように浮かぶ汗を袖口で拭いながら、武道はジムに歩を進めていた。
意識がぼんやりとしてきた頃、やっと見えた目的地に、武道はもうひと頑張りと気合を入れなおす。足を引きずり気味に歩き、倒れ込むように建物の扉を開けた。
体を包み込む冷気に、生き返った心地で玄関に座り込む。良く冷えた壁に火照る頬を押し付け、気持ちよさに目を細めた。
奥から足音が近づいてくるのに気づいたが、目を開けるのが億劫でそのまま安らぎに身を任せた。武道の目の前で止まった足音は、衣擦れの音を立てしゃがみ込む。
何をしているのかと滲んだ意識のまま思っていると、背中と膝裏に他人の体温を感じ、浮遊感に襲われた。驚きで思わず目を開けると景色が何重にも見え、気持ち悪さから再び目を閉じる。
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