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    【熱に溶ける】 ワカ武/交際中/高校生軸 
    【話を聞いてよマイダーリン】 イザ武/交際中/中学生軸
    【こい、こい】 バジ武/中学生軸
    【花咲いたのは誰の心か】 寿武/高校生軸
    【最近の河童ってスイカ食べるんだって】 半武/中学生軸

    全て平和な世界線でお送りしています

    ##SS

    夏のSS詰め合わせ【熱に溶ける】 テーマ:熱中症

     雲一つない晴天。灼熱の光がコンクリートに照り返り、容赦なく体温を上げていく。額に玉のように浮かぶ汗を袖口で拭いながら、武道はジムに歩を進めていた。
     意識がぼんやりとしてきた頃、やっと見えた目的地に、武道はもうひと頑張りと気合を入れなおす。足を引きずり気味に歩き、倒れ込むように建物の扉を開けた。
     体を包み込む冷気に、生き返った心地で玄関に座り込む。良く冷えた壁に火照る頬を押し付け、気持ちよさに目を細めた。
     奥から足音が近づいてくるのに気づいたが、目を開けるのが億劫でそのまま安らぎに身を任せた。武道の目の前で止まった足音は、衣擦れの音を立てしゃがみ込む。
     何をしているのかと滲んだ意識のまま思っていると、背中と膝裏に他人の体温を感じ、浮遊感に襲われた。驚きで思わず目を開けると景色が何重にも見え、気持ち悪さから再び目を閉じる。
     武道を抱えた人物——このジムの経営者である今牛若狭は頬を武道の額に当て、その熱さに歩を速めた。普段の飄々とした雰囲気が霧散し、張りつめた様子の若狭にジム内の生徒は慌てて道を開ける。
     若狭は休憩室の扉を思い切り蹴り開けると、ベンチの上に武道を横たえた。横になった武道の顔は赤く、息も荒い。若狭は冷凍庫から氷を取り出し、袋に詰めて簡易的な氷嚢を作る。それを武道の首元や脇に置いて体を冷やしていく。
     若狭が武道の頬の手を当てると、冷たいからか顔を擦りつけ表情を和らげた。安らかな様子に軽度の熱中症だったのだろうと、若狭は安堵する。
     同時に、この猛暑の中何も対策せずにいたことに腹が立ってくる。会う約束をしたときに気を付けるよう言った自分に、武道は何と返事したか。確か「わかりました、気を付けます」と言わなかっただろうか?
     約束を守れないような悪い子には罰が必要だ。

     意識がぬるま湯の中で揺蕩っていた武道は、ぬるりと自分とは違う熱が口の中を侵食したことに意識が浮上した。熱と同時に冷たい液体も流れ込み、窒息するかもしれない危機感を感じる。反射で押し返そうとするが、許さないとばかりに更に奥に入って来た。口内を他の熱に蹂躙され、自分の熱を奪われ。混乱しながらも、武道は咽頭に入ってくる水分を精一杯嚥下する。
     数回同様のことが繰り返され、散々好き勝手された後、武道の口内は静寂を取り戻した。ヒリヒリする口を押さえながら、瞼を持ち上げる。途端に輝くような顔が視界に飛び込んでくる。武道は息を呑み、思わず目を閉じた。
     目覚めたのに気づかれ、若狭が武道を呼ぶ。武道は覚悟を決め、恐る恐る目を開いた。

    「よぉ、お目覚めか姫?」

     額に青筋を浮かべている若狭に、武道は冷や汗が垂れる。自分に何があったか思い出したのだ。目の前の人物との約束を思い切り破っている。

    「俺はちゃんと対策して来いって言ったと思ったんだが?」
    「ごめんなさい……」

     若狭の背後に鬼ならぬ、歯をむき出した豹が見える。必死に武道は謝り倒すしかなかった。
     しっぽを丸め股に挟んでいるような武道に、ため息を吐くと若狭は怒気を引っ込める。

    「二度と倒れている武道なんか見たくないからな」
    「はい……以後気を付けます」
    「うん。まぁ、罰としておいしい思いもさせてもらったし、いいよ」
    「おいしい思い?」

     武道は不思議に思った。おいしい思いができるような状況ではなかったはずだがと若狭を見つめる。
     ニヒルな笑みを浮かべ、若狭はスポーツ飲料のペットボトルを持ち上げた。

    「飲み物、口移しで飲ませた」
    「何してくれてんスか?」

     道理で口がヒリヒリする訳だと、武道は唇をなぞる。意識がないのをいいことに好き勝手やってくれたらしい。

    「応急処置だよ」
    「さっき罰って言いましたよね?」
    「何?もっと過激なやつが良かった?」

     若狭はそう言って、武道に顔を近づける。武道は呆然と見ていることしか出来なかった。あと少しで唇が触れるところで若狭は笑い声を上げ、武道の頭をポンッと叩く。

    「病人相手に無体を働くわけないだろ」
    「どの口が言ってるんスか⁉」

    *****

    【話を聞いてよマイダーリン】 テーマ:虫刺され

    「大将。花垣にもうちょっと手加減してやったら」

     いつの間にいたのだろうか。唐突に蘭からそう言われ、ソファでくつろぎながら携帯を弄っていたイザナは小首を傾げた。耳元を彩る芒に月が軽やかな音を立てる。
     蘭の言っている花垣とは、イザナの恋人である花垣武道のことだろう。イザナは彼なりに武道を大事にしており、蘭の言うことに心当たりなどなかった。今日久しぶりの逢瀬を楽しむ予定だったのに、部外者から横槍を入れられイザナは不快になる。

    「何のことだ」
    「ん~。さっき花垣の横通ったんだけど、えげつなさ過ぎて俺ちょっと引いちゃった」

     イザナの問いかけを意図的にスルーしたのか、聞こえなかったのか。マイペースに、蘭は指で自身の首元を数回叩く。そして、言いたいことだけ言って満足した様子で、部屋から出ていった。
     結局何のことなのか分からず、イザナは組んでいた足を小刻みに揺らす。蘭が出ていった扉を睨眼し、眉間に皴を寄せた。痛みを訴え始めた米神を摩っていると、携帯が恋人の到着を告げる。イザナは考えるのを放棄し、この目で蘭の言葉の真意を判断することにした。
     扉を開け現れた武道の姿に、イザナは目を見開く。
     普段、リーゼントにセットされている髪は降ろされ、年相応の幼さが出ている。しかし、目元を赤く染め、気怠そうに伏せられた目。歩くのもやっとなのか、足はふらついて開いた扉にしなだれかかっている。どこか艶さえ感じる姿だ。幼さと色気のアンバランスさにイザナは眩暈がした。
     武道の魅力への眩暈ではなく、怒りから感じる眩暈だ。蘭が指していた首元は、タートルネックを着ているため、確認ができない。猛暑の中わざわざ首が隠れる服を着ているなんて、隠したいものがあると言っているようなものだ。

    「武道、こっち来い」
    「はひっ」

     苛立ちを含んだ声に、ウサギのように武道の体が跳ねる。ヨタヨタとイザナに近付き、指さされるまま床にしゃがみ込んだ。顔を真っ白に染め上げ、何かしてしまったのかと震えている。
     イザナは指先で武道の襟元を引っ張り、首を露わにする。目に入ったのは、程よく焼けた肌に散る赤い鬱血痕。明らかにキスマークで、自分は付けた覚えのないものだ。数えられないほどで、相手の執着が感じられる。

    「浮気か……?」

     地獄の底から響いているような声がイザナから漏れ出る。突然の言いがかりに武道は混乱しながら首を横に振った。風を切り、もげそうなほどの力強さだ。

    「浮気ってなんスか⁉」
    「あ゙?じゃあ、この首元のやつは何て言い訳する気だ?事後みたいな雰囲気晒して現れやがって」
    「心当たりがこれっぽっちもありません」

     詰め寄ってくるイザナに、武道は一生懸命に頭を回転させる。恋人に会いに来ただけでどうしてこんな修羅場になるんだと、涙が滲んだ。
     首元って何があったっけ?首元…首元…。

    「あ」
    「何だ?この世から消すべき相手の名前を出す気になったか?」
    「だから浮気じゃないんです!蚊ですよ!昨日の夜刺されまくって、朝起きたら痕だらけでみっともなかったんで首元が隠れる服を着て来ただけっス!寝不足だし、痒いし、最悪ですよ」

     武道は、理由を一気にまくし立てた。唯でさえ暑さで寝苦しいのに、昨夜は蚊のせいで十分に睡眠が取れなかったのだ。
     話を聞いてから考え込んでいるイザナを、武道は祈るように見つめる。不意にイザナが笑みを浮かべた。許されたと武道が気を緩めた瞬間、体をソファに引き倒される。

    「一先ず、二度と同じことが出来ないよう上書きしてから、ゆっくりと相手を聞き出すことにした」

     先ほどの笑顔が掻き消され、剣呑に光る紫水晶が武道を映す。

    「え、だから、イザナくん、違う」
    「うるさい」

     イザナは言い募ろうとする武道の口を自身の口で塞ぎ、彼の口から吐き出された言葉を飲み込んだ。

     ——蘭の言う、えげつない姿に武道がされた後、怒れる武道と正座させられるイザナの姿があった。

    *****
    【こい、こい】 テーマ:カルピス

     東京卍會一番隊に所属している花垣武道は、一番隊隊長である場地圭介の家に遊びに来ていた。普段は場地・武道に合わせ、同じく一番隊隊員である千冬・一虎の四人でいることが多い。しかし、今日は珍しく二人きりであったため武道は緊張していた。
     開け放たれた窓から、シャワシャワと蝉の姦しい声が流れてくる。場地の部屋には冷房器具がなく、うちわを扇いで風を生み出すのが唯一の涼み方だった。武道は手を動かしながら、キッチンに行った場地を待つ。

    「武道ぃー、飲み物カルピスでいいかー?」
    「おかまいなくー」

     場地からの問いかけに、武道は気の抜けた声で返答した。すぐにキッチンから物音が近づいてくる。
     飲み物を持って帰ってきたのだろうと思っていたら、何故かカルピスの箱を持った場地が現れた。三箱ほど重ねられたそれは、原液が入っている贈り物用のものだった。予測外の出来事に武道は、口を半開きにする。

    「お中元にカルピスが大量に送られてきたから、消費手伝ってくれ」
    「そういうことなら……」
    「ったく、肉とか送ってきてほしいよなぁ」

     ブツブツと言いながら、場地はキッチンに戻って行く。カルピスを作り始めたようで、ガラスの澄んだ音が聞こえてきた。カチン、カラン。武道は、涼やかな音色に耳を澄ませる。蝉の声と相まって季節を感じる音楽を奏でていた。
     やがて、今度こそ完成したカルピスを携えて場地が戻ってくる。

    「特別に濃く作っといたぞ」

     コップを武道に差し出しながら場地が言う。『特別』という単語と輝くような笑顔に、武道の心臓は握られたような感覚がした。動揺から訳の分からない事が口から出る。

    「ま、また場地くんはそんなこと言って!どうせ千冬とか一虎くんにも言ってるんでしょう、この人たらし!」
    「何言ってんだ?」

     困惑しながら場地は武道の隣に座った。そのまま勢いよくコップの中身を呷り、喉を鳴らして飲んでいく。
     場地のように一気に飲むのは勿体なく、武道は手渡されたコップを見つめた。カラカラと軽やかな音を立て、中身が回っている。側面に浮かんできた水滴が武道の手を濡らした。

    「飲まねぇの?」
    「いただきます」

     場地から促され、武道はやっとコップを傾ける。冷たいカルピスが喉を通って行った後、とんでもない甘さが武道を襲った。濃く作られたどころではなく、原液そのままではないだろうか。口内の甘ったるさに、余計に喉が渇く。

    「場地くん、あの……」
    「どうだ?上手いだろ?」

     場地の邪気ゼロの表情に、正直に伝えるのは憚られた。武道はぎこちなく笑顔を作る。

    「おいしいデス」
    「だろー?」

     せめて氷が溶ければ薄くなるだろうと、武道はコップを揺らす。時間稼ぎのために、場地に話しかけた。

    「今日は千冬と一虎くん来れなくて残念でしたね」
    「……そーだな」

     二人の話を出した途端、場地の笑顔が掻き消える。武道はどうしたのだろうかと思いながらも、他の話題も思いつかず話を続けた。
     不機嫌そうながらも話に乗ってくれる場地に、武道は胸をなでおろす。

    「二人にももうカルピス出してあげたんスか?」
    「来るたびに出してんだけど、全然減らねーんだよ」
    「薄めなきゃですからね」
    「作ってもアイツら濃すぎとか文句言うんだぜ?それから自分で作らせてんだけどよー」
    「どれぐらいの濃さで作ったんスか……」
    「千冬と一虎には半々ぐらいかなぁ」

     武道は、自分のよりは薄そうだがそれでも濃いなと思う。そりゃあ二人も文句を言うだろう。自分は善意に負けて言えなかったが。

    「俺のは特に濃く作ってくれたんですね」

     武道の言葉に返答がない。不思議に思って場地の方を向くと、彼は武道を真っすぐに見つめていた。目が合うと、場地ははにかんだ笑顔を浮かべる。

    「言っただろ『特別』だって」
    「へ……?」

     真意が分からず混乱している武道を、場地は鼻歌を歌い出しそうなほど上機嫌で見つめていた。
     今日は邪魔者もおらず二人きり。彼を落とす時間はたっぷりあるのだから。

    *****

    【花咲いたのは誰の心か】 テーマ:夏祭り

     露店が立ち並び、提灯が宵闇を照らす。幽かに聞こえる祭囃子に耳を傾けながら、武道は焼きもろこしを頬張った。途端に口の中に広がる焦げたバター醤油の味に舌鼓を打つ。
     味わいながら咀嚼していると、目の前をカップルが横切った。内心舌打ち一つ溢し、武道は隣に目を流す。当然そこには誰もいない。昔この祭りに一緒に来た彼女とは紆余曲折あったが円満に別れ、今では良き友人として接している。
     その後一緒に祭りに来るような恋人が出来ることもなく、行こうと誘った友人にはことごとく断られ、今日は一人で祭りを満喫するつもりだった。しかし、右を向いても左を向いてもカップルだらけ。独り身には肩身が狭い。嫌気がさし、そろそろ帰ろうかと考えたところで武道の前に影が差す。
     武道が目線を上げると仏頂面の男——柴大寿が自分を見下ろしており、思わずトウモロコシを噴き出しそうになった。寸でのところで我慢して、何とか口の中のものを飲み込む。物も言わず自分を見つめてくる大寿に、武道は非常に居心地悪く、誤魔化すように体を揺らした。
     何を隠そうこの男、数日前に武道に告白してきたばかりである。「好きだ」とたった三文字で想いを告げ、武道が状況を飲み込めないでいる間に返事も聞かず去って行った。
     それ以来の再開だ。どんな対応をすれば良いのか、武道は考えあぐねる。相手の顔を直視する気分にはなれなくて、何気なく目線を大寿の腰あたりで彷徨わせた。
     腰の横に添えられた拳が白くなるほど握られているのが目に入った。爪で傷ができまいかと心配になるほどで、武道は思わずソッと手を伸ばす。指先が触れようとしたところで、大寿の拳が上がった。釣られて目線を上げた武道は、避けていた大寿の顔を見てしまう。
     武道の瞳に映ったのは、表情は平静を装っているが耳を真っ赤に染めている大寿の姿だった。どこからどう見ても照れているようにしか見えない。改めて大寿が自分を好きなことを意識してしまい、武道の顔も熱くなる。自分の反応を気取られないよう、武道は慌てて大寿に話しかけた。

    「偶然ですね」
    「いや、八戒にここにいると教えてもらって来た」
    「アイツ、俺の誘い断った上に情報売ってんの何で?」
    「俺が花垣のことが好きだって公言してから、何かと協力的でな」

     大寿の言葉に武道は頭を抱える。だから最近、八戒からの視線が物言いたげだったのかと合点がいった。

    「良かったら一緒に回らないか」
    「……いいっスよ」

     もうどうにでもなれと、武道は大寿の申し出を受け入れる。二人は立ち並ぶ露店を冷やかしながら、一緒に祭りを回った。いつの間にか、武道の両手は溢れんばかりの戦利品を抱えている。当初の下がっていた気分も忘れ、武道は大寿との祭りを楽しんでいた。
     気持ちの余裕が生まれたと同時に、武道は周囲の女性の視線が集中していることに気付いた。自分の横にいる大寿にちらりと目線を向ける。今日の彼は普段の洋服を脱ぎ捨て、臙脂色の浴衣に黒帯を締めていた。紺色の髪をハーフアップに纏め上げ、浴衣と同じく臙脂色の紐で括っている。
     大変に気合が入っている格好だ。こんな美丈夫がいれば女性が色めき立つのも分かる。一方武道はTシャツにハーフパンツという普段着だった。女性の視線は自分を素通りしていく。

    「……大寿くん、浴衣なんスね」
    「あぁ。三ツ谷が、好きな奴と祭り行くならキメてけっつって、無駄に張り切って着付けられた」

     武道の脳内で三ツ谷が笑顔でサムズアップした。八戒に引き続き、三ツ谷からの協力体制も整えられている。自分の知らないところで、着々と外堀を埋められている恐怖に身震いした。暑いはずなのに寒気を感じ、腕を摩る。

    「あの~、お兄さん、良かったら私たちと一緒に回りませんか?」

     武道が震えていると、遠巻きに見ていた女性の一人が大寿に声をかけてきた。武道は、大寿が女性のことを一笑に付すだろうと思い気の毒になった。しかし、意外にも大寿は紳士的に対応している。女性が大寿の腕をさりげなく触っても、片眉が軽く上がる程度だった。
     その男、俺のことが好きなんですよ。武道は謎のモヤッとを感じ、持っていたたこ焼きを自分の口に突っ込む。割り出た中身の熱さに、思わず声を上げた。舌がひりついた痛みを訴える。
     舌を突き出し冷ましていると、女性の相手をしていたはずの大寿が、指で武道の口元を拭う。女性はいつの間にかいなくなっていた。

    「……そそっかしいな」

     指先についたソースを舐め、大寿は口角を上げる。瞳に溢れんばかりの愛しさを携えて。
     武道は、そんな彼の顔から目を逸らせずにいた。この世で一番綺麗な物を見てしまったような高揚と罪悪感。心臓が高らかに鳴り、頭の中が痺れる。この感情の名前に、気付いてはいけないと思うのに。

     武道の頭上で、大輪の花が弾ける音がした。

    *****

    【最近の河童ってスイカ食べるんだって】 テーマ:スイカ

     武道が河川敷を歩いていると、信じられない光景を目にした。半間が川べりに腰掛け、足を水につけている。見間違いかと思い目をこすってみたが、特徴的な髪型に細長い体型は見間違いもなく半間だった。
     普通なら涼し気な光景であるが、半間がしているとひょろりとした手足と相まって納涼中の新手の妖怪にしか見えなかった。
     武道は我関せずと、見ないふりを決め込みその場を急いで去ろうとする。途端に、水面を眺めていた筈の半間がぐるりと首を回し、視線をこちらに向けた。あまりのホラー具合に、武道の口から悲鳴が漏れる。
     武道を認めた半間は笑みを浮かべると、手招きする。絶対にイヤだったので逃げようと足に力を込めた所で、半間が周囲を見渡し始めた。やがて拳大の石を持ち上げると、武道の方に標準を定める。完全に逃げたら当てる気でいる。
     DEADorDIEの状況に、武道は涙を飲み半間に近づく。

    「よく来たなぁ、花垣」
    「何してるんスか……」

     上機嫌な半間に武道は不満げな表情を向ける。近くで見ると余計に川で涼んでいる半間という光景が違和感でしかない。

    「よくメシを奢ってくれるパイセンからスイカもらったから、冷やしてる途中」

     半間が指さした方を見ると、川から緑と黒の縞々が覗いている。

    「うわ、マジでスイカだ。半間とスイカって似合わねぇな」

     思わず武道はそう溢し、慌てて口を噤む。半間の方をちらりと確認すると、まじまじと武道を見ていた。イヤな予感に、武道の口角がひくりと引きつる。

    「お前の頭でスイカ割りするかぁ」

     良いことを思いついたとばかりに半間は言うと、スイカを取り出そうとする。武道は半間の腕に飛びつき、バイオレンススイカ割りを全力で阻止した。

    「死ぬ死ぬ死ぬ。スイカの前に俺の頭が割れるやつ!」
    「ばはっ。それはそれで面白れぇじゃん?」
    「俺は面白くないけど⁉」

     武道の必死の抵抗に、半間はえぇ~と不満げに腕の力を抜いた。武道は息荒く腕に縋りついたまま、うるさい心臓を鎮める。
     と、再び半間の腕に力が籠った。振りかぶる様に武道ごと後ろに下がる。何をしようとしているのか武道は察してしまった。

    「え、ちょ、まさか……?」

     制止する声も届かず、半間は腕を振り武道を川に投げ飛ばした。派手な水しぶきを上げ、武道は川に沈んでいく。
     怒声を上げながら浮かんでくるだろうと半間は水面を見ていたが、待てど武道はあがってこない。

    「お~い、花垣ぃ~。……やべぇ、死んだか?」

     半間は頭を一つ掻くと、武道が落ちたあたりまで水をかき分け進んでいく。水中に散る金色のところに着いた瞬間、腕が飛び出してきた。油断していた半間は、そのまま引きずり込まれる。
     半間の視界に金糸と青が広がる。束の間、その光景は掻き消えた。
     水面に出た武道は、ゼェゼェと息を整える。遅れて半間も顔を出した。

    「は、死ぬ、かと、思った。ざまぁ見ろ」
    「花垣のせいで濡れたんだけど」
    「うるせぇ、自業自得野郎」

     一矢報いた武道は、この後やり返してくるだろう半間を警戒した。半間は髪をかき上げ武道に視線を向ける。しかし、びくつく武道をスルーしてそのまま歩き出した。

    「はぁ、騒いだら腹減って来たし、スイカ食おうぜぇ」

     半間は川縁に戻り、スイカを引きずり出す。あまりのマイペースぷりに武道は脱力しながら、同じく陸に上がった。
     スイカをどうするのか見ていると、半間が素手でスイカを割る。腕力で割れたスイカに、武道の肩は跳ねあがった。
     半間が片割れを差し出してきたので、武道は震える手で受け取る。食べ始めた半間を横目に、恐る恐る口を付けた。良く冷えていて、甘くて、おいしい。
     疲れたなぁ。武道は輝く水面を眺めながら黄昏るのだった。

       ***

    「なぁ、この川河童が出るらしいぜ」
    「えぇ~嘘だぁ」
    「本当だって!隣のクラスの奴が河童が人を川に引きずり込むの見たって言ってたし!」
    「それ俺も聞いた。しかもその河童、キュウリじゃなくてスイカ食べるらしいよ」

     小学生が話しながら半間の後ろを通っていく。その場にしゃがみ込み爆笑し始めた彼に、一緒にいた稀咲は戦慄するしかなかった。
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    🐓酉🐓

    DONE【熱に溶ける】 ワカ武/交際中/高校生軸 
    【話を聞いてよマイダーリン】 イザ武/交際中/中学生軸
    【こい、こい】 バジ武/中学生軸
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    【最近の河童ってスイカ食べるんだって】 半武/中学生軸

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    夏のSS詰め合わせ【熱に溶ける】 テーマ:熱中症

     雲一つない晴天。灼熱の光がコンクリートに照り返り、容赦なく体温を上げていく。額に玉のように浮かぶ汗を袖口で拭いながら、武道はジムに歩を進めていた。
     意識がぼんやりとしてきた頃、やっと見えた目的地に、武道はもうひと頑張りと気合を入れなおす。足を引きずり気味に歩き、倒れ込むように建物の扉を開けた。
     体を包み込む冷気に、生き返った心地で玄関に座り込む。良く冷えた壁に火照る頬を押し付け、気持ちよさに目を細めた。
     奥から足音が近づいてくるのに気づいたが、目を開けるのが億劫でそのまま安らぎに身を任せた。武道の目の前で止まった足音は、衣擦れの音を立てしゃがみ込む。
     何をしているのかと滲んだ意識のまま思っていると、背中と膝裏に他人の体温を感じ、浮遊感に襲われた。驚きで思わず目を開けると景色が何重にも見え、気持ち悪さから再び目を閉じる。
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