不器用な愛「はぁ」
澄野は今日何回目になるかわからないため息を溢した。
昼下がりコンビニで買って来たパンに齧り付きながら、屋上からどこまでも広い空を見た。
これだけ広いと自分の悩みもちっぽけなように感じる。
残念ながら自分にとって事態は深刻だった。
「どうしたの?拓海君」
そこに自分のお弁当を持って蒼月が座った。
「いつもの奴だよ」
「また?しつこいね」
この会話だけで何の話か伝わる。それだけ蒼月にはここでの悩み相談は恒例になっていた。
「で、今度は何があったの」
蒼月は自分の弁当に入ってたウインナーを食べながら話に耳を傾けた。
「あー…」
そう言って、澄野は今までの事を思い出していた。
悩みというのは澄野に付き纏っているストーカーについてだった。
最初にその事に気がついたのは澄野が出した、ゴミが漁られて澄野の玄関の前に捨てられていた事だった。
初めての時は誰かのイタズラだろうと思った。
しかし、そのイタズラはどんどんエスカレートしていって朝れたゴミに一言添えられた紙が付くようになった。
しかもしかもその内容が「毎日カップ麺だと健康に悪い」とか「夜更かしはあまりしない方がいい」とかプライベートに関する事ばかりで気持ち悪い。
さらには澄野を隠し撮りした写真まで送られて来るようになったのだからどうしたらいいかわからなくなった。
そこでたまたま相談を乗ってくれたのが蒼月だった。
蒼月は澄野の話を聞いて「それってストーカーだよね」と驚きの解答が返ってきた。
まさか男の自分がストーカー被害を受けると思ってなかった澄野はそれから毎日のように蒼月に相談するようになったのだ。
「何となくなんだけどな。たぶん、部屋に入られてる気がする」
「ずいぶん歯切れが悪いんだね」
「証拠はないんだ。ただ、トイレットペーパーが最近早く終わる気がするし、飴とかチョコとかそういたちょっとした物が無くなってる気がするんだよ。でも、昨日散々部屋を探し回ったけど誰も居なくて」
「探し回ったって」
蒼月は驚いて言葉を失った。
そんな蒼月を見た澄野は頭に?を浮かべるばかりだ。
「危険過ぎるよ」
「何がだよ」
「相手が誰かなのがもわからないのに探し回る行為が危険だって言ってるの」
「大丈夫だろ。オレ男だし」
「…。だとしても相手が武器持ってたらどうするの?」
「武器って?」
「包丁とかいろいろあるでしょ」
「たしかに、それはやばいかもな」
そんな事は想定して無かったと澄野の顔がありありと語っていた。
「でも、だったらどうすればよかったんだよ。警察にでも電話するか?」
出来ればそれは澄野はしたくなかった。
澄野だって男である。警察にストーカーにあったので助けて下さいなんて言うのは恥ずかしいと思うし、何より無理を言って大学の一人暮らしを始めたのだ。反対していたお母さんとカルアにだけは絶対にバレたくない。
「なら、まずはボクに電話しなよ。必ず駆けつけるからさ」
「いいのか?」
「今更でしょ。ここまで話聞かせてもらったんだから最後まで見させてよ」
そう言って、何やら蒼月は少し考えてから言った。
「ちょっと相談なんだけど、ボク達ルームシェアしない?」
「え、ルームシェア?」
いきなりの提案に澄野は目を丸くする。
「そうすれば、ストーカーも諦めるかも知れないでしょ?」
「それはそうだけど、いいのか?」
「ボクから言ったんだから、いいに決まってるでしょ。ボクも拓海君も家賃半額になるし、悪い提案じゃないと思うけど」
そこまで言ったところで予冷のチャイムが鳴った。
「わかった。考えておく。じゃあな」
そう言って澄野は立ち上がって教室に向かった。
そんな澄野の後ろ姿を見送りながら蒼月は不適な笑みを浮かべた。
「逃がさないよ。ボクの神様」
不器用な愛は今日も届かない。