観察帰り道、蒼月は今日も自然な動作でスマホをチェックする。
スマホに写されて居るのは澄野の家の玄関である。そこに澄野がドアを開けて入って来た。
それを確認した蒼月は当たり前のように澄野のマンションの隣の部屋に音を立てないよう気をつけて入っていく。
隣の部屋は元々空き部屋だった。
そこの鍵はきっと前の住人が隠して忘れていったのだろう。ガスメーターの上に隠されて居たのを前に蒼月が見つけたのだ。
空き部屋に入った蒼月はスマホの電気を付けた。その電気で照らしながら今度は押入れに入った。
押入れの上にはぽっかりと大人一人分が入れる穴が開いていた。
穴に入った蒼月は下に敷かれた緩衝材を道代わりにして、澄野の部屋の上に向かう。
本来なら隣と澄野の部屋を区切っている壁にもぽっかりとした穴が開いていた。
その穴を通ると空気で膨らませるタイプの簡易ソファーとモニター画面が四つ並べられていた。
モニターには澄野の部屋が死角がないようにさらに4分割されて映し出されている。
その澄野の姿を確認しながら蒼月はソファーに座って音に気を付けながら一息ついた。
蒼月には生まれた時から前世らしい記憶があった。
らしいと言うのはあまりにも今の世界と違い過ぎて誰かに話しても信じられないない話だからだ。
昔そんな事を知らなかった頃。幼稚園児だっただろうか。その頃に仲良くなった子に話してしまってみんなから嘘つき呼ばわりされた事もあった。
蒼月は前の記憶では認識障害という訳の分からない障害に苦しめられていて、そのせいで人類を酷く憎んでいた。それはもう本気で人類滅亡を企むほどだった。しかも東京団地とかいう空もない場所でほとんどを過ごし、いきなり拉致られてこれまた訳の分からない敵と強制的に戦わせられそうになり。でも、それを逆手に取って人類滅亡に役立てようとしたところ、澄野君に止められた。
そう、澄野君。あの時の澄野君には興味ぐらいにしか感じなかった。それがーー。
記憶にある最後の澄野君を思い出す。
あの神々しさ。あの好きだという思い。蒼月の全てを。
そう、全てはその記憶が原因だった。この事を話せば誰だって蒼月は狂っていると言われるだろう。それでも止められなかった。
あの思いが全てになってしまった。
だから、澄野をいつだって探してた。そして、見つけ出した時、全てが叶った気がした。
でも、それは間違いだった。
澄野に嫌われないようになるべく自然な形で近づき気がついた。
蒼月にとって澄野が全てだが、澄野にとって蒼月は澄野の生活している世界の一部でしかないのだ。
それを知った蒼月は思い出した。澄野以外の周りの人間の醜さを。
あのグロテスクで臭く汚物のような存在が澄野の周りを満たしているのだ。
それは思い出した憎しみの感情だった。まるで過去の蒼月と今の蒼月が同じになったようだった。
その時点で蒼月は澄野のそばに居るだけでは満足出来なくなってしまった。
それだからといって澄野の周りの人間を殺して回るほど蒼月はバカではない。
澄野とは永遠に一緒に居るのだ。その為に全てをかける覚悟が蒼月にはあった。
だから、全てを計画してここまで耐えて来た。
用意は周到に。失敗は許されない。
画面の澄野を見ながら今日もこれからの事を考える。
この愛は燃え尽きない。
澄野は蒼月だけの神さまなのだから。