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    ズレた使い方でマッチングアプリを楽しむオールマイトと、そんなオールマイトに変に肩入れしてしまう相澤くんの話です。


    ファイナルファンブック発売前に書きはじめたものですが、この設定が現実となりました。嬉しい。泣きました。
    オールマイト、相澤先生、教職続けてくれてありがとう。オールマイトは教師という職業の素晴らしさを、何より相澤先生から学んだと思っています。

    「いやなに、マッチングアプリというものを始めてみたんだけど、これがなかなか楽しくてね!それより相澤くん、次の飲み会の出欠は出したかい?」
    相澤が衝撃のワードを反芻しているうちに、元ナンバーワンヒーローが少しの躊躇いもなくその画面を差し出してくる。果たして見てもいいものなのかいまいち判断のつかないまま、相澤は促されるまま視線をその画面へと向けた。
    「今回もまた私がお店を選ばせてもらってね!この前は皆を少しびっくりさせてしまっただろう。だからリベンジさ」
    かつてのマッスルフォームを彷彿とさせる笑みに、キラ、と白い歯が光る。画面に映し出されていたのは、なんてことのない大手グルメサイトの一ページだった。
     その言葉に、豪奢な造りの料亭での一幕が思い浮かぶ。見たことも聞いたこともない料理が次々と運ばれ、そういうものをあまり気にしない質の相澤でさえ緊張で箸が進まなかった。無論、会話も全く盛り上がらなかった。
     いや、今そんなことはどうでもいい。相澤は迷った。数分前、広い背中を丸め携帯を覗き込んでいたオールマイトに声をかけたのは相澤だ。それにオールマイトは普通に答えたのだから、知られたくないわけではないのだろう。自分から聞いておいて、ここで会話を終わりにするのもなんだか気が引ける。そして、気にならないと言われれば嘘になる。マッチングアプリが楽しいとは。そもそも天下のオールマイトがマッチングアプリとは?しかし同僚とはいえ、プライベートな部分にどこまで踏み込んでいいのかがいまいちわからない。相澤は、雄英教師陣きっての常識人、変なところで超がつくほどの真面目だった。
    「相澤くん?気に入らないかい?」
    この期に及んで、オールマイトは相澤が飲み会の出欠を迷っていると思っているらしい。人によっては卒倒物の特大ゴシップをバズーカ砲で打ち込んでおきながら、まったく呑気なものだと思った。やはりこの人は、何かが少しズレている。
    「そういうわけでは――」
    「マイティ!例のあれ、どうっすか」
    どうしたものかと相澤が気を揉んでいると、ちょうど外勤から帰ってきたらしい同期の陽気な声がした。アングラヒーローとして暗躍してきた長年の勘が、それがマッチングアプリを指すものであると確信させる。いつもならさっさと退場する相澤も、この時ばかりはこれ幸いと居座った。
    「やあマイク!楽しませてもらっているよ。今ちょうどその話をしていてね」
    「What!?マッチングアプリと対極にいるようなこいつと!?」
    別に話をしていたというほどでもなかったが、都合が良いので黙っておく。いちいち騒がしいリアクションを寄越すマイクに一瞥もくれず、相澤は無言で会話の行方を見守った。
    「っつーかマイティ、楽しんでるっつーのはどういう?意外とお盛んで?」
    片眉を上げニヤリと笑ったマイクと共に、相澤もオールマイトのリアクションを待つ。オールマイトは途端に何やら焦り始め、大きな手のひらを胸の前で振りながら否定した。
    「えっ!?違うぜ!?楽しんでいるのはプロフィール入力だよ。恥ずかしながら、私は今まで自分と向き合うという機会に恵まれなくてね。自分を見つめ直すいいきっかけになっているよ」
    オールマイトはそういうと、目が点になっているマイクに笑いかけ今度こそマッチングアプリのプロフィールページの画面を見せてきた。相澤にも見えるよう角度を調整したオールマイトの気遣いに画面をのぞけば、プロフィールの各欄に文がみっしりと連ねられている。頭の中で、ワイングラスを片手にバスローブ姿でたくさんの女性を侍らせていたオールマイトの姿が、ガラガラと音を立てて崩れていった。
    「こりゃまた随分とbusyなプロフィールだ!」
    「はは、書いていたら止まらなくなってしまってね!」
    「でもこれじゃあ、女性たちから敬遠されちゃうんじゃないですか?人がぱっと見で視認できる文字数、13文字までっすよ!」
    マイクがそういうと、オールマイトは再びええっ、と素っ頓狂な声をあげて大袈裟に驚いた。それから、やけにアメリカンな仕草で苦笑する。つくづく、リアクションの大きな人だと思った。
    「私、こんなおじさんだよ!?誰かに見初めてもらおうなんて初めから考えちゃいないさ。そもそもこれも、皆の気持ちが嬉しくて始めただけだよ」
    そう言って笑うオールマイトに、相澤はようやく全ての合点がいったような気がした。
     先の大戦は辛勝に終わったが、あまりにも多くのものが奪われすぎた。心身に傷を負った人たちが少しでも前を向けるようにと、最近ではニュース番組ひとつをとっても務めて明るいものを流そうという気概が感じられる。そこで、人々の気力を取り戻すという喫緊の課題にまた一役買っているのがオールマイトだ。
     その中でも、最も人気のあるトピックがオールマイトの余生についてだった。SNSでも大人気らしく、雄英にもオールマイトあてに全国津々浦々から様々なものや誘いが届いているという。
     そしてそれは、雄英生のみならず教師陣の中でも度々話題となっていた。大方、恋人でも作ってみたらどうか、という散々擦り尽くされた話題から派生したのであろう。そういえば最近、珍しく13号が何かを熱く語っていたのをぼんやりと思い出す。あれか、と思った。
    「……怪しいものではないんですよね」
    「もちろんだよ!これは13号くんが教えてくれたキールという会員制のアプリで――」
    なんだか頭が痛くなってきて、相澤は会話を同期に任せそっとその場を離れた。ズレた楽しみ方をしているオールマイトにも、おそらくカクテル言葉からつけられたのであろう安直なアプリ名にも、何故だかものすごく疲労を誘われた。
     マイクの声が大きいので、次第にオールマイトの周りには話を聞きつけた同僚が集まった。楽しそうに話す面々を尻目にため息をついて、相澤は自分の仕事に取り掛かったのだった。




     いきいきと職員室にやってくるオールマイトを見て、相澤は小さくため息をついた。全く、見ているだけで疲れる。何がそんなに楽しいのか知らないが、飽きずに毎朝元気1番、人類皆友達とでも言わんばかりの笑顔で出勤してきている。トゥルーフォームがデフォルトになってからというもの、なりを潜めがちだった猛暑日の太陽のような暑苦しさが舞い戻ってきたかのようだった。
     建て付けの良すぎる職員室の扉は、開閉音を全くと言っていいほどに出さない。しかし、誰にも気づかれることなく自席についていた相澤を、わざわざ大声で周知させるものがあった。
    「相澤!これ見ろよ!」
    マイクの隣ではオールマイトが、ニコニコと行儀良く膝に手を乗せて座っている。経験上、さっさと反応してしまった方が早く済むと直感した相澤は目線だけをそちらにむけた。
    「オールマイトも隅に置けねえってことよ!」
    勢いよく床を蹴り、シャーと椅子ごと移動してきたマイクが画面を見せてくる。誰かとのやりとりらしきメッセージの送受信履歴が、ずらりと並んでいた。
    「はぁ、よかったですね」
    大方この前話していたマッチングアプリ関連のものだろうと予想をつけて、相澤はマイク越しにそう声をかけた。オールマイトは照れもせずに、友達ができてね、と嬉しそうにしている。マッチングアプリは友達を作るツールではないと言う常識は、やはりこの人には通用しないらしい。
    「いやあ、八木俊典として友達ができたのは何年ぶりだろう。塚内くん以来かもしれないね」
    マイクから受け取った携帯を嬉しそうにポケットにしまったオールマイトに、マイクがHeyと声をかける。俺らももうダチみたいなもんでしょう、オールマイト!それは嬉しいな!HAHAHA!
     例によって頭痛がしてきた相澤は無言で席を立ち、飲み物を購入するべく職員室を後にした。まだ六月に入ったばかりだと言うのに、暑い。来る夏本番のことを思うと気が滅入る。
     自販機に電子端末の入った腕時計を近づけると、鈍い音とともに清涼飲料水が落ちてきた。音を立ててキャップを開ける傍ら、液晶がパッと明るくなる。携帯端末と連動した通知だった。
    『八木 俊典さんからメッセージが届いています』
     そういえば、通知を切るの忘れていた。というよりは、アプリを退会するのを忘れていた。相澤はマッチングアプリを呼び出して、素早く退会の手筈を踏んだ。しつこく理由を聞いて引き止めようとしてくる運営の設問を全て無視していると、最後にこの方と相性がいいようですと八木俊典というユーザーが表示される。相性も何もその人としか連絡も取っていないだろうと鼻白んで、迷わず退会のニ文字をタップした。
     昨晩、相澤は酔っていた。立て込んでいた仕事がようやくひと段落し、期末試験までもまだかなりの余裕がある時期だったからだ。そして、苛々としていた。昼のオールマイトの言葉を、1人思い出していたからだ。こんなおじさんだからと笑う顔にも、その顔に自虐や卑下の色がまるで浮かんでいないことにも、なぜだか無性に腹が立った。
     相澤は酔っていた。無性に腹が立って、その勢いのままアプリをダウンロードした。昼に見た広辞苑と見紛うほどの文字がひしめく文面から、目についたワードを数個抜いて検索する。すぐにオールマイトのプロフィールまで辿り着いた。屋久杉のアイコン。年齢は50代、職業は教師、年収までご丁寧に入力済み。一つ一つの内容は初見時と違わず、濃い。しかし一度読んでみると案外読みやすいもので、あっという間に最後の欄にまで辿り着いた。すぐ下には、メッセージ送信のダイアログボックスがある。
     相澤は酔っていた。趣味の欄には、映画と読書と書いてあった。相澤も本は読む。よく読む著者が少し被っていたのを、そのまま書いた。それから、文章が読みやすかったこと、面白かったことを書いた。そして、最後に送信ボタンを押すという暴挙に出た。
     退会しましたと言う簡潔な文が表示され、晴れて相澤は酩酊ゆえの奇行と決別した。酔いも相まって興が乗り、当初の予定を超え夜更けまで続いた応酬も綺麗さっぱり消え去った。
     何はともあれ、これで誰かからメッセージが来たと言う実績を作れたことに違いはない。0と1では雲泥の差がある。『いいね』というアプリ特有の外的評価指数も、相澤が増やしておいた。誰かがいいと言ったものは、不思議とよく見えてくるものだ。そう自身の行為を合理的に正当化して、相澤はペットボトルのキャップを閉めた。
     午後からはまた実習で忙しくなる。相澤はペットボトルをポケットへと捩じ込んで、再び職員室へと向かった。





     オールマイトの選んだ店は、小洒落た老舗のフレンチだった。造りは古いものの、手入れが行き届いており清潔感がある。相変わらずよくわからない名前の料理が運ばれてはくるが、以前の料亭よりずっと息がしやすい。
     問題なのは話題だ。同僚たちは相も変わらず、オールマイトのマッチングアプリ事情について興味津々。特に13号などは、しきりに連絡が取れなくなってしまったという女性――相澤だが――について残念がった。
    「うーん、いい友達になれると思ったんだけどなぁ」
    「オールマイト、きっとまたいい人が現れますよ!」
    「そうですよオールマイト。あなたはとても素敵な男性ですから」
    セメントスをも巻き込み、後輩たちとオールマイトの微妙にズレた会話は続いていく。同時に、こうして周りが無意識に甘やかしてきた結果がアレだったのだろうなと、修正箇所だらけの書類を思い出した。
    しかし、それを許す相澤ではない。
    「そんなんで落ち込んでいたらやっていけませんよ」
    初めは相澤の歯に物着せぬものいいにぎょっとしていた面々も慣れたもので、まあ先輩はそういうタイプですよねという顔をするだけに終わる。しかし意外なことに、当のオールマイトが言い返してきた。
    「でもね相澤くん、仲良くなれそうだったんだよ。本の趣味もあっていてね、とても落ち着いた雰囲気で知的で――」
    「くどい。さっさと次行ってください」
    「ウッ」
    普段のイレイザーなら絶対に加わらないであろうジャンルの会話も、酒の席とあらば別。――と、思ってもらえたなら良い。相澤には、どうしてもさっさとあの女のこと忘れてもらわねばならない理由がある。そして、不自然な行動から事態が明るみに出るようなことは避けたかった。
    「オールマイトさん」
    「はい」
    「その調子です」
    えっ、と、何らかの叱責を受けると踏み、身体を硬くしていたオールマイトが目を丸くする。それから、私……激励されている!?と左右の後輩の表情を交互に見やる。両隣からも力強く頷かれて、オールマイトはようやく相澤の方へと向き直った。
    「すぐにいろんな人から連絡が来るようになります。いいですか、なるべく多くの人と話してみてください。時には同時進行も必要になってきます。……はい?そんな悠長なことを言っている場合ではありませんね。合理的に行きましょう。それと、あなたの使っているアプリは友達募集ツールではありません。お友達から始めるのも結構ですが、そこを勘違いしないように」
    喋りすぎたか?と後輩たちの様子を伺えば、オールマイトとともにいたく感動した様子でこちらを見ていた。日頃から何かと相澤を甘い男だと評する養護教諭のせいで、最近では教師陣のみならず在校生にまでそのイメージが伝染しておりやりづらい。が、初めてそれに助けられた。
     店員が、退店時間を伝えにやってくる。隙あらば全員分を支払おうとするオールマイトに会費を押し付け、相澤は早々に外へと出た。ひとり、またひとりと店から出て来て、ついには再び全員が店の外へと集まる。
    「相澤くんは二次会にはこないの?」
    これまで飲み会というものに縁がなく、どこか引き気味だったオールマイトも今やそれなりに馴染んでいる。いつの間にかたまになら二次会にも参加するようになっていた男にそう聞かれ、相澤は首を縦に振った。
    「ええ、まだ仕事が残っていますから」
    まだ話をしたいのだろうなと、よくわかる。しかし、相澤の方にはもう話すことなどない。
     マイクあたりに引き止められる前にと歩き出せば、すぐに一向の声は聞こえなくなった。申し訳程度に植えられた街路樹が、場末の繁華街特有の侘しさに拍車をかけている。相澤の実家のある東京とは違い、電車もそう次々とくるものではない。ホームで電車を待つ時間が嫌いな相澤は、検索して出てきた電車に間に合わせるべく足を早めた
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    MAIKINGズレた使い方でマッチングアプリを楽しむオールマイトと、そんなオールマイトに変に肩入れしてしまう相澤くんの話です。


    ファイナルファンブック発売前に書きはじめたものですが、この設定が現実となりました。嬉しい。泣きました。
    オールマイト、相澤先生、教職続けてくれてありがとう。オールマイトは教師という職業の素晴らしさを、何より相澤先生から学んだと思っています。
    「いやなに、マッチングアプリというものを始めてみたんだけど、これがなかなか楽しくてね!それより相澤くん、次の飲み会の出欠は出したかい?」
    相澤が衝撃のワードを反芻しているうちに、元ナンバーワンヒーローが少しの躊躇いもなくその画面を差し出してくる。果たして見てもいいものなのかいまいち判断のつかないまま、相澤は促されるまま視線をその画面へと向けた。
    「今回もまた私がお店を選ばせてもらってね!この前は皆を少しびっくりさせてしまっただろう。だからリベンジさ」
    かつてのマッスルフォームを彷彿とさせる笑みに、キラ、と白い歯が光る。画面に映し出されていたのは、なんてことのない大手グルメサイトの一ページだった。
     その言葉に、豪奢な造りの料亭での一幕が思い浮かぶ。見たことも聞いたこともない料理が次々と運ばれ、そういうものをあまり気にしない質の相澤でさえ緊張で箸が進まなかった。無論、会話も全く盛り上がらなかった。
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