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    オキタ

    @OKT85trpg

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    オキタ

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    レタスをつくってのこす話

    とある田舎の広大な畑にぽつんと一人と一台はいた。

    「ほら、新しくできたレタスだよ。お食べ」

    畑から取れたばかりのレタスを土を落としてモルカーに差し出す男。どうやらこの畑の農家らしい。

    「ぷいっ!」

    差し出されたレタスに目を輝かせてシャクシャクと食べ出すモルカー。
    それを優しく見つめながらそっとモルカーをなでる男。

    「どうだい?美味しいかい?」
    「ぷいっ!!!」
    「ははは、そうかそれは良かった。」 

    夢中でレタスを食べるモルカーに男は笑顔になる。
    そして少しだけ黙って、また口を開く。

    「なあ、これから僕はもっとこのレタスを美味しいものにするよ。」
    「ぷい?」
    「美味しいだけじゃない、栄養価ももっと上げて、できるだけ手間のかからない…人が育てる必要のないものにするんだ。

    …人が…僕がいなくなった後も君が生きていける為にも。」

    ■■■

    人類は様々な要因で滅びることになった。
    もはや再興の兆しはなく、人の歴史はゆっくりと幕を閉じる。
    ある者は自ら命を断ち、ある者はどうせ死ぬのだからと犯罪行為に手を染め、世界は絶望と混乱に満ちていたが、それでも少なからずささやかな希望…相棒モルカーの生きる未来…を模索する人々もいた。
    人類の終わりにモルカーを巻き込みたくないと思った人々は近づくタイムリミットまで各々準備を始めたのだ。

    こののどかな田舎の畑にも人の終わりは平等に迫ってる。
    男もどうあがいても人の世界は終わる事に最初は嘆き、年甲斐もなく泣きじゃくり自暴自棄になっていた。

    「ぷいぷい…」

    しかし、男を心配してずっと側にいたモルカーの存在に気付き我に返った。

    (そうだ、僕が死んだら…この子は…)

    長年ずっと一緒にいたモルカーの未来がこのままでは危ういのではと考えた男は起き上がるとすぐに行動を開始した。

    (僕にできる事はこれしかない…!)


    そうして始めたのがレタスの品種改良だった。
    男はモルカー専用のレタスを作る農家で味も相棒のモルカーお墨付きの美味しいレタスをたくさん作っていた。
    男の目標は【栄養価が高く、人の世話のいらない美味しいレタス】を自分が死ぬ前に作り出すことだ。

    ■■■

    「なあ、僕がいなくなっても君はこのレタスを食べて生きてってくれよな。」
    「ぷい…」
    「ああ、ごめんね。悲しい顔しないで、すぐにじゃないよ。」
    「でもいつかその日が来た時、僕は君に毎日ぷいぷいって元気に鳴いて楽しく過ごしていて欲しいんだ。」
    「ぷいぷい…」

    男の言葉に寂しそうな声をあげ瞳を潤まるモルカーの体をそっと撫でればもっとと身体を寄せてくる。

    「ずっと一緒にいれなくてごめん。…でも、このレタス畑はずっと残すから、僕の生きた証として君に残しておく…だから…忘れないでね。」
    「ぷい…っ!」
    「ありがとう…
    そうだ、後でドライブに行こうか。君のお気に入りの山頂の景色を観に行こう?」
    「ぷい!」

    嬉しそうに鳴くモルカーに男はじゃあ、今日の作業をさっさと終わらせなきゃねとレタス畑を歩き出すのであった。

    ■■■

    山々に囲まれた道路をぷいぷいと走るモルカーが一台。
    目指すは山頂、お気に入りの場所だ。
    たどり着いた山頂は初めて来た時と変わらない清んだ空気と心地のよい風、青空と緑豊かな景色が広がっていた。
    その広大な景色の中からとある場所に視線を向ける。
    ジッとつぶらな瞳で見つめる先はレタス畑だ。
    遠くからでも分かる広く立派な、…男がモルカーに遺した最高のレタス畑だ。

    ■■■

    男は理想のレタスを完成させた後、すぐに亡くなった。
    モルカーは長年の相棒の死にしばらく泣き続けひどく落ち込んだ。
    しかし、お腹は空くし喉も渇く。
    落ち込んだままレタス畑にモルカーはやってきてツヤツヤのレタスを食べる。
    シャクシャクと咀嚼する度に広がるレタスの美味しさ、それと共に思い出すのは男との思い出。

    「ぷい…」

    はらはらと涙が零れる。
    男はもういない、だけど男がモルカーの為に作ったレタスがある。
    泣きながらもレタスを食べながらモルカーは元気に生きていく事を誓った。

    ■■■

    山頂で暫く景色を眺めていたモルカーだが、きゅるるるるる…という自分のお腹の音でハッと我に返った。今は太陽が真上にありお昼だ。
    モルカーはごそごそと持ってきたレタスを取り出すとシャクシャク食べ出す。
    独りの食事も最近慣れてきたモルカーだが、やはりどこか寂しさは感じずにはいられない。

    「ぷい…」
    「ぷいぷいっ」
    「ぷい?」

    ふと聞こえた自分以外の鳴き声の方に顔を向けるとそこには見知らぬモルカー。
    レタスを咥えたまま戸惑うモルカーの事などお構い無しに近づくとレタスをくんくん嗅ぎ、ぎゅるるるるるるるると盛大にお腹を鳴らした。
    どうやら見知らぬモルカーはとても空腹の様で、涎を垂らしながらキラキラと瞳を輝かせながら見つめている。

    「ぷ、ぷい?」
    「ぷい!!」

    そっとレタスを見知らぬモルカーの前においてあげると、ありがとう!!とでも言う様に鳴き、シャクシャクと物凄い勢いでレタスにかぶり付いていくのであった。
    若干引きつつもモルカーはその見知らぬモルカーの車内や、周りを見渡すがモルカーの相棒らしき人間はどこにもいない。
    おそらくこのモルカーも相棒と死に別れ今まで独りでさ迷っていたのだろう。
    自分と同じ…そう考えている間に見知らぬモルカーはレタスを食べ終わったらしくご機嫌にぷいぷい話しかけてくる。

    「ぷいっ!ぷいっ!」
    「ぷ、ぷい…?」
    「ぷいっ!!」

    見知らぬモルカーは元気にぐるぐるモルカーの周りを走っている。
    一緒に遊ぼうと言っているようだ。

    「…ぷいっ!!!」

    モルカーは嬉しそうに元気よくその誘いに応えると二台は競争しようとでも言うように山頂から走り出す。
    目指すはあの広大なレタス畑だ。
    モルカーと見知らぬ…いや、お友達モルカーは今日から一緒にレタス畑で楽しく元気に暮らしていくだろう。
    もしかしたら明日はまた新しい友達がやってくるかもしれない。


    人類は滅亡した、だけどモルカーは今日も元気にぷいぷいと生きていく。



    レタスを作って遺す話
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