デルタニアの愉快な仲間たち「第一回〜!」
「「「デルタニア国技術研究所ババ抜き王決定戦!!」」」
何をやってるんだ、そう思っただろう。安心しろ、俺もだ。
俺はこのデルタニア国技術研究所で兵器を開発する為に働いてるしがない研究員だ。
まあ、俺のことはジョンとでも呼んでくれ。
ああ、そうだこのアホな発言のことだったな。
そうだな、どこから話そうか。
今、世界はかつてないほどの大戦だろ?あっちこっちでドンパチしまくっててよ。
技術大国デルタニアは戦争やってる他国に最新兵器を作って売り飛ばしてるわけよ。
デルタニアには戦火は及んでないけどさ、それでも国内はちょっとピリピリムードなんだよな。
デルタニアの技術を恐れる奴が報復すんじゃねーかとか、スパイがどこかに潜んでんじゃねーかとか、根拠もない噂が国のあっちこっち飛び交ってて皆どことなく暗い。
信じられるか?国民性がのほほん前向きと言われてるデルタニア人がだぜ?
そんでさ、そんな噂があるからなのかは定かじゃないけど、あちこち警備の軍人とか見回ってたり、色々規制とかも入ってさ、特にこの研究所なんて国家の最高機密を扱ってるからここ最近は所員の外出と帰宅も面倒くさい手順踏んで許可されるかされないかも半々だし、許可されたとしてもせいぜい半日程度だチクショーめ。
つまり、我々研究員は長きに渡る缶詰め状態にストレスが大爆発しそうな訳だ。
いや、仲間の一人は既に大爆発して服をキャストオフして廊下を爆走していってたな。
さっき女性所員の悲鳴が聞こえた。…あいつ、しばらく減給処分されるだろうな。
しかしこれは他人事ではない、同じ環境にいる俺達にも起きうる可能性がある。
明日は我が身。
ストレスフルマッハの末路を身を持って教えてくれた仲間の死を無駄にはしない。(死んではないが)
俺達は互いに目配せすると静かに頷いた。
「よし、息抜きするぞ。」
そうして、俺は研究所内の所員に声をかけ、どうしても外せない仕事のある奴、仮眠中の奴、外に出てる奴以外は菓子やつまみ、酒、ちょっとした娯楽を持ちより会議室に集まった。
ざっと十数人ってとこかな。
そういや明日、国のお偉いさんがくるとか言ってた気がするけどそれまでに片付けりゃいいから気にしない気にしない。
今日この会議室は俺らの宴会場だ、外出させないのが悪い。
そう自分に言い聞かせて。
「んじゃ、テキトーにカンパーイ!」
「オイ、ジョン。ここはせめて『デルタニアに乾杯』くらい言えよww」
「うるせぇー!いくら俺らがデルタニアっ子でも、こんな色男をずーっと研究所に閉じ込めてる国に乾杯できっかよ!国のせいで行きつけのバーのネェちゃんといい関係になれねぇしよ!」
「ハハそりゃちがいない!」
「いやハリス、ジョンがバーの女性と付き合えないのはこいつが甲斐性ないの見抜かれてるからだよ。」
「あ、確かに。」
「シモン!てめー!ハリスも納得してんじゃねぇ!」
「まあまあ!喧嘩しないでくださいよ!せっかくの息抜きだから楽しみましょうよ!ね?」
俺たちの言い合いになりそうな雰囲気にリンが割って入る。
他の所員達もそうだそうだ、落ち着いてとなだめてきたので乾杯を仕切り直すことにした。
「悪ぃ、んじゃ改めてカンパーイ!」
「「「カンパーイ」」」
各々、好きな酒やジュースなどが入ったコップを掲げ乾杯をし、宴が始まった…そこへ。
「あれ、諸君、何をしているんだい?」
会議室のドアを開けて一人の人物が入ってきた。
顔はフルフェイスマスク、白衣と制服の下は全身義体の男。
オスカー・K・タウンゼント。
デルタニア国一の頭脳を持つ男。
天才技術者であり、科学者であり、発明家であり、ここの研究所所長だ。
「やべっ」
俺は焦った。
何故なら宴をすることも、会議室を借りることもオスカー所長に申告してないからだ。
(流石に叱られるよなぁ、宴中止だけで済めばいいけど…)
勝手なことをしたのは百も承知なので俺はオスカー所長に正直に全て説明をする。
後ろではハリス達も緊張の面持ちで固唾を呑んで成り行きを見守っている。
(みんな、俺の骨は拾ってくれ…)
なんて内心呟きながら、オスカー所長の返事を待っていると。
「つまり、仕事の合間にしっかりと休憩を取って英気を養っているのだな!
自己管理が出来てうちの所員は大変素晴らしい!」
とめちゃくちゃ褒めてくれた。
ああ、うん、こういう人だよ、オスカー所長って。
「そうだ、私も混ぜてもらっていいかな?」
そしてアンタも加わるんかーい!いやまあ全然大歓迎だけど。
さて、オスカー所長も加わって始まった宴会、皆各々喋りだしたり飲んだり食べたりして楽しんでいる。
俺もハリスとシモンと飲みつつ、ちらりとオスカー所長の方を見ればローズとミーナに挟まれて色々話しかけられていた。
「オスカー所長〜、お酒飲まないんですかぁ?」
「私は全身が義体だろう?
生身の部分が少ないせいか少し飲んだだけで酔いが回るのが早くてね…だから今日はオレンジジュースで参加させてもらうよ。」
「きゃっ、所長かわいい♡
じゃあアタシ、所長にどんどんオレンジジュースお酌しちゃう♡」
「ありがとう、御手柔らかに頼むよ。
ああ、私ばかり注いでもらっては悪いからミーナくん、君のコップにも注いであげよう。」
「やーん♡所長優しい〜大好き〜♡」
「オスカー所長、こちらのお菓子美味しいですよ。
所長は誰よりも頭を使ってらっしゃいますから糖分などの栄養はきちんととってくださいね。」
「ああ、ありがとうローズくん。
でもせっかくの宴会なんだから君も楽しみたまえ、君はいつも皆に気を使ってくれてるんだ、今くらい気にせず楽しんでほしい。」
「…!オスカー所長なんて優しいお言葉…!このローズ、ずっとついていきます…!」
「?ハハ、ありがとう、一緒に研究頑張ろうね。」
「ハイ…!」
お わ か り い た だ け た だ ろ う か
パッと見、オスカー所長が女性研究員を侍らせてる様に見えるだろ?
違うんだよ、アレあの二人が『オスカー所長に自分から迫って』いるんだよ。
オスカー所長って見た目怪しさ全開の職質確定怪人だけど、めちゃくちゃ優しいから所員には慕われてんのな。
たまにやらかすけど基本、所員の身の安全を考えてくれたり、外出や帰宅の許可も上と掛け合ってくれたりするし。
女性にも下心とかも全くない気遣いができるから女性所員からのウケがいい。
羨ましい。
女の子に囲まれて両手に花でキャッキャッされてるオスカー所長が心底羨ましい。
俺はちょっとの嫉妬心で邪魔してやろうとオスカー所長に話しかける。
「そういやオスカー所長って出掛けてたんですよね?」
「ああそうだよ、偉い人に呼ばれてね…あ、すまない!
皆にお土産買ってくるの忘れてしまったよ…あぁ、やってしまった。」
オスカー所長はいきなり話しかけてきた俺にも嫌な態度もせず、むしろお土産買い忘れたことを謝ってきた。
オスカー所長邪魔されたとも思ってないんだろうなぁ―――変わりにオスカー所長の左右にいるミーナとローズにはめちゃくちゃ睨まれたが。
俺は二人の「あっち行け」の視線は無視してオスカー所長との会話を続ける。
「いや、お土産はいいんですよ…それよりお偉いさんが?またなんで?」
「ああ…その…」
この人のフルフェイスマスクの画面、本当に高性能だよな。
へにょっと困ったような、しょんぼりした様な顔になった。
くそ、かわいいな!!
「怒られちゃって…アクシオム帝国にこの前、兵器をいくつか送っただろう?」
「ああ、うちの国の一番の太客の」
「その一つに私のオススメとして『アルティメットパンジャンドラムZ』を送ったのだが、その、めちゃくちゃ評判が悪くてね…
要約するとアクシオム帝国の偉い人から「デルタニアふざけんな」と言われてしまったと偉い人にこっぴどく怒られてしまったんだ。」
「いや、何やってんのアンタ!!」
パンジャンドラム!?
もはや内容聞かなくてもそれアカン奴だぞオスカー所長オオォォォ!!
「いや、しっかり改良すればイケると思ったんだ、結果イケなかったが。」
「うん!?アンタの思い付きで強国のアクシオムに睨まれたら大変でしょーが!反省して!!!」
「うん…もっと難しく、長ーーく同じこと偉い人に言われたよ…反省する…」
更にしょぼんとするオスカー所長。
両隣の視線が更にきつくなっていく、え、俺が悪いの?
「うん、あの、いや、オスカー所長…次挽回すりゃいーんすよ!ね!」
「そうだな…」
ああ、まだしょぼんだよ!どうすりゃいいのか、もう俺逃げようかな…そう考えていたら視界の端に何かを手に持ったリンがやってきた。
「ねぇ!皆でババ抜きやりません?」
リンが持ってきたのは私物のトランプだった。
それを皆の返事を待たずにケースから取り出し慣れた手付きでカードをきり始めた。
「ババ抜き?ポーカーとかじゃなくて?」
「私ポーカーのルール知りませんもん。」
「いいじゃん、やろうぜー!」
「やろやろババ抜きー!キャハハ!」
皆そこそこ酒が回ってきたのかババ抜きにキャッキャしてる。
まあ、たまにやるのも悪くないし、俺ら娯楽に飢えてるし、ちょーどいいかな。
「でも、人数が多いですよ。なかなか決着がつかないのでは?」
「それもそうですね!じゃあ今16人いるから4つのグループに分けてやりましょう!そんで最初に上がった人が決勝戦進出!あと各グループのビリの最下位決定もやるということで!」
シモンの言葉にリンは頷くとそう提案してきた。
トーナメント形式なんてちょっと燃えてくるじゃねぇか。
「なら、優勝した人には私から賞品としてデルタニア国で美味しいと評判の高級レストランのデリバリーをごちそうしよう!」
オスカー所長の発言によりその場にいた所員全員の目の色が変わった。
「おもしれえ!お前ら負けねぇぞ!!」
会議室は高級デリバリーを賭けた戦場と化した瞬間だった。
「では…
第一回〜!」
「「「デルタニア国技術研究所ババ抜き王決定戦!!」」」
そうして冒頭の頭の悪いタイトルコールになるわけだ。
ここ、国でトップクラスの頭脳の奴らが集まるとこだよな?
何やってんだろ…まあ、高級デリバリーは大事だ、うん。
――――――――――――
さて、結果はというと1位はシモン、2位は俺、3位はローズと言う結果になった。
ちっ、惜しかった、シモンのポーカーフェイスで見事にジョーカーを掴まされた俺はあと一歩で高級デリバリーを逃した。チクショー。
俺の横には優勝したのにポーカーフェイスのままのシモンと、さっきから「所長からの…ご褒美…うっ…」と小声で悔しがっているローズがいる。
お前決勝戦で目が血走ってたな…。
そして俺らから少し離れたところで最下位決定戦をしてる四人、リン達所員…に混ざってオスカー所長がいた。
丁度そちらを見たタイミングで一人上がり、残り三人となった。
俺はオスカー所長の斜め後ろに立ち、成り行きを見守る。
あれ、オスカー所長、ジョーカー持ってる。
これは上手く取らせれば次はオスカー所長上がれるんじゃね?
「よし、次は私の手札から引いてくれたまえ。」
そういって所員に手持ちの数枚のカードを向けるオスカー所長。
所員のカードはあと一枚、所長の持ってるジョーカーさえ引かなければ上がれるかもしれない。
所員は少し迷いながら指でオスカー所長の持つカードをなぞっていたが、ふと、所員はオスカー所長の顔をチラッと一瞬見て、また指を動かし、そしてまた一瞬顔を見ては指を動かした。
なんだ?所長がどうかしたのか?そう思って少し体をずらしオスカー所長を見ると
「あ~~」
所員の行動に納得した。
所員の指がジョーカーに触れた時、所長の顔部分の画面には嬉しそうな表情が出てて、それ以外だと慌てた表情がでてくる。
嘘だろ所長〜!!アンタ顔にめっちゃ出てんじゃん!!!
「よっしゃ!あがり!」
「うあぁぁぁ〜!」
俺が心の中で突っ込んでいる間に所員は無情にもオスカー所長からジョーカー以外をさらい上がってしまったようだ。残るは所長とリンのみだ。
所長がリンのカードを取る、数字が揃って捨て、残るカードはオスカー所長の二枚とリンの一枚のみとなった。
どちらかが最下位となってしまう…運命はいかに。
…あ、いや既に分かってる未来だったな。
「やったーー!私あがりましたー!オスカー所長最下位ー!」
「なんでなんだぁあぁぁぁぁ!!さっきから私にジョーカーが回ってくると最後まで誰にも取られずに終わってしまうのは何故なのだぁぁぁぁ!!!」
飛び跳ねて喜ぶリンと突っ伏すオスカー所長。
いやだってねぇ…とオスカー所長の周りにいた所員達と目を合わせるもオスカー所長の敗因がなんなのかわかっているので皆ウンウンと頷く。
「うう、私はなんで昔からババ抜き一回も勝てないんだ…」
マジかよ、人生で一度も勝ててないとかあるか?と思わずツッコミそうになる俺だがそれより先にはしゃぎ気味のリンが話し出す。
「だってオスカー所長、顔にめちゃくちゃ出してましたもん!みーんな所長の顔見ればジョーカーの位置わかっちゃいますもんね!」
あー、言っちゃたよー。
お前最下位から二番目なのにはしゃぎ過ぎだろ…酔っ払ってるのか?うん、酔ってんな。
リンの言葉を聞いてオスカー所長が勢いよく顔をあげる。
「なんと…!!くっ、なんたる盲点だ…ならば…こうだ!!」
悔しそうな顔をしていたオスカー所長だが、フッと顔の画面から表情が消えた。
「フフフ…表情の表示機能をオフにさせて貰った…これで私の表情は読めないだろう!
さあ!愛しき所員諸君!!私とババ抜き再戦だ!!」
うわ、この人ちょっとムキになってる?よっぽど顔に出てるの悔しかったのかよ…
俺たちは再びババ抜きをすることになったのであった。
一時間後――――
「なんでぇぇぇ!!」
再び始まった、今度は高級スイーツを賭けたババ抜きトーナメントは一位はリン、二位はハリス、三位はミーナと違ったメンツがランクインした。
…ちなみに最下位はまたしてもオスカー所長だ。
今回もオスカー所長の処にジョーカーが来た途端最後まで誰にも取られずに敗北し、また机に突っ伏していた。
「画面消したのに…何故…何故なんだ…」
ちなみに最下位決定戦には俺もいたんだが、理由は解ってる。
オスカー所長は確かに表情が一切読めなくなった、しかし。
オスカー所長の身体は正直だった。
…おい、変な意味じゃねーぞ。
つまりだ、先程と同じ様にジョーカーに指を滑らすとオスカー所長が早く取れ、と言わんばかりにほんのわずかに少しカードをこちらに近づけてきたりするのだ。
そして他のカードに指を滑らせると今度は取るな、とほんのわずかに引っ込める。
他にもジョーカーを取ってしまった時に身体が揺れたりとめちゃくちゃ解りやすい。
なんでこの人こんなにちょろいんだ…
結果オスカー所長は二度も最下位になってしまったのだ。
机に突っ伏し悲しむ所長にミーナがストローと飲み物を差し出してきた。
「所長〜どんまい☆ジュース飲んで元気出してくださいー♡」
「ああすまない、ありがとうミーナくん…」
渡されたジュースにストローを差してフルフェイスマスクの経口を開くとそこからストローで飲みだすオスカー所長。
半分以上飲み干した処でミーナが「あっ」と短く叫ぶ。
「これ、ジュースじゃなかった…お酒だったわ…え、えへ☆」
気まずそうに引き攣った笑みを浮かべるミーナの持つ瓶は美味しそうなジュースに見えるがよくよくラベルを見るとアルコール表記がされていた。
しかもかなりの度数じゃねぇか!ふざけんなミーナ!!!
「オスカー所長!!大丈夫ですか!?」
慌てて所長に水を持って駆け寄る。
所長は生身の部分が少ないせいかアルコールの回りが早く酔いやすい、義体になる前から一口だけでも酔ってしまうほどめちゃくちゃ下戸だったのに。
なのにあんな度数の酒飲んだら…!
所長の様子を伺っていると、
「だいじょーぶではにゃいー!!!!」
所長は叫んだ。
あ、完全に酔ってる。
「わたしはくやしい!なのでいとしきしょいんしょくん!!ぜーいん、わたしとしょーぶしたまえ!!!」
呂律が回らない口でそう叫ぶと近くにいた俺を含む所員を捕まえカードを配り始めるオスカー所長。
あ、これ止めらんない奴だーハハハハ…。
俺はすぐ横にあったウォッカを煽りカードを手に取る、仕方ない、オスカー所長の気が済むか酔いが醒めるまで付き合おう。
その後、オスカー所長は宣言通り所員全員と勝負した。
案の定全員に負けてめちゃくちゃ泣いていた。
あと、国のお偉いさんが視察にくるのをすっかり忘れ酔い潰れていた俺らは二日酔いでガンガンする頭にお偉いさんの怒声をめいっぱい浴びせられることになった。
オスカー所長と俺達はめでたく前半キャストオフ所員と同じ減給処分がくだった。
めでたくねーわ!
おわり
登場人物
オスカー…所長ババ抜きが死ぬほど弱い。ポーカーフェイスができない。お酒にも死ぬほど弱い。
ジョン…語り手。口は悪いがオスカーをきちんと慕い尊敬してる。
ハリス…甘いものが好きなジョンの同僚、ちょっと太ってきたのが悩み。
シモン…常にポーカーフェイスでカードゲーム激強。2回目トーナメントはスイーツ興味無かったので手を抜いた。
リン…騒動の発端。明るく素直で無邪気ゆえにハッキリ言いがち。
ミーナ…ぶりっ子、仕事はできる。ローズとオスカーの隣を争ってる。酒はマジのミスだった。
ローズ…優等生タイプ。オスカーに褒められるのが嬉しい。