猫の日ある晩、変わった猫を拾った。
長毛種の大型の黒猫で、抱き上げると僕の上半身がすっぽり隠れてしまうほど大きかった。
瞳は紫とオレンジが混ざったような、不思議な色をしていて、どこか見覚えがあった。
――ああ、あの人と同じ色だ。
怪我をしている様子はないが、僕のあとをついて離れようとしない。
心配になって「お前はどこの子なんだい?」と声をかけ、撫でてやると、喉をゴロゴロと鳴らした。
「うちにはgatitaがいるから、もし彼女が君を気に入らなかったら、ここでは住めないよ? いいかい?」
部屋は分けて寝かせるつもりだった。gatitaは知らない猫が苦手だから。
けれどその心配は、どうやら杞憂だったようだ。
gatitaは、まるで以前からの知り合いとでも言うように、黒猫に一切の敵意を見せなかった。
BTBの仲間に初めて会ったときのように、優雅に、しかし気まぐれに、その存在を許容する。
僕が「お姫様なgatitaが珍しい!知らない猫は苦手だろ?」と問いかけると、gatitaは「は?」という顔を向けてくる。
彼女には、なにが分かっているんだろうか。
それからしばらく、gatitaと黒猫はよくふたりで“話して”いた。
にゃうにゃうと、何か盛り上がっているようだった。
「なんの話をしてるの?」と僕が聞くと、gatitaはぷいと顔をそらして「フリオには教えないわ!」という表情をする。
黒猫は困ったように「にゃう」と鳴いた。
夜が更け、僕はベッドに潜り込む。
gatitaは、お気に入りの魚のぬいぐるみをくわえてリビングへ行ってしまった。
一人で寝たい夜もあるらしい。
ベッドのそばで、黒猫がうろうろと迷っているのが見えた。
「おいで」
布団をめくって招き入れると、黒猫は困った顔のまま、もそもそと入ってきた。
少し嬉しい。
gatitaはたまにベッドを占領するけれど、一緒に寝るとは限らない。
この子は大きな身体を小さく丸めて、僕に気を使ってくれる。
「おやすみ」
声をかけると、黒猫は僕の鼻にキスをした。
ほんのり、あたたかい。
夢の中で、想い人が出てきた。
大きな腕で、僕をぎゅっと抱きしめてくれる。
安心して、心がほどけるようで――ああ、こんな夢なら覚めなくていいのに。
「ん…ん~~っ!」
寝苦しさに目が覚めた。
そこには想い人が本当にいた。
僕を抱きしめながら、しかも、全裸で!!!
「じっジール?!??!!」
一気に目が覚めた。けれど、強い力でホールドされて身動きが取れない。
ちょ、ちょっと待って、何で、どうして!?
しかも、黒猫の姿が見当たらない!
そんな僕の混乱をよそに、ジールのあの不思議な、吸い込まれるような瞳がゆっくり開いた。
「ん……フリオ……おはよー」
「おはようって、何でジールがここにいるの?!?」
「え? あっ……!!戻った!!!」
ジールがぱっと表情を変える。
「戻ったって……なにが……?」
頭が追いつかない。
「猫の日に猫になってさ、そのまま戻れなくなってたんだよね〜。バーチャル世界のバグでたまにあるでしょ?」
「そんなバグ聞いたことないよ! ていうか、何で僕のところに……?」
「フリオは猫を飼ってるから、扱いが上手いかなって……あとは……」
「ん?」
「……ひみつ。下心かな?」
「はっ?!え?!」
顔が一気に熱くなる。
「そ、それより、なんで全裸なの?!??!」
「猫って服着ないじゃん?あ〜でも帰るとき困ったな……」
「僕の服貸そうか?」
「フリオの服着たらパツパツだよ?」
にこっ、と笑うジールに、軽くグーパンをお見舞いしておいた。