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    こまつだよ

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    こまつだよ

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    慰霊碑の人の夢を見た泉の話。せななるr18
    2018年に書いたものを再掲

    寒い冬の夜の話 夢を見た。

     懐かしいあの顔。俺には言えなかった言葉ばかり紡ぐ唇、俺には到底持ち得なかったあの真っ直ぐな瞳。誰よりも優しく、誰よりも弱かったあの男。

     なるくんの隣を歩くそいつは、『何故』か時が進んでいた。年相応の男らしい顔つき、なるくんより少しだけ高い身長。傷みを知らない黒髪はサッパリと切りそろえられたあの頃のまま、最後に俺が見たあの人と変わらない眩しすぎる笑顔で囁く。

    『お前は相変わらず綺麗だな』
    『世界でいちばん綺麗だよ』

     恋とか愛とかそういうのはなかった。当時のなるくんはそうは言ってたけど、果たして本当のところはどうなんだろうか。そんなこと聞けるわけもなく、あの男の隣で少しだけ恥ずかしそうな、照れくさそうな顔でなるくんが微笑んでいる。

     駄目だよ、それは俺のなんだから。
     あっち行け、そこはもう俺のポジションなんだから。

     後ろから声をかけて、二人の邪魔をしようとしたのにそれはかなわない。二人の背中がどんどん遠くなっていく気がして、俺は必死で追いかける。

     待て、待てってば!

    『なるくんを、……連れて行くな……!』




     ガバリ。

    「っはぁ、……ッ、はぁ、…………ゆ、め」

     真っ暗な部屋の中。
     自分の叫び声で目が覚めれば、俺は異常なほど寝汗をかいていた。キン、と冷えた部屋の空気がちょうどいい。

     さっきまでのそれが夢だとわかった瞬間、俺はひどく安堵した。

     ふと横を見れば、カーテンの隙間から差し込む外の世界の光にうっすらと照らされたなるくんがすやすやと眠っている。

    「…………」

     俺が起き上がったせいで布団の中に外気が流れ込み、無意識に身体を縮こまらせるなるくんに少しだけホッとしながら俺はその身体に身体を寄せた。

     寝てるなるくんの無防備な頬に口付けて、シーツの上に投げ出された右手に右手を重ねてぎゅう、と握る。子供みたいにあったかいその手のひらに安堵しながら、脚を絡ませて、腕を撫でて胸を擦る。着ているパジャマの裾から冷えた手のひらを滑り込ませれば、「んっ、」と声を上げてその綺麗な顔の眉間に少しだけ力がこもる。

     それもぜんぶぜんぶ無視して、胸の突起を探ったあとに指先でさす、と撫でれば、柔らかかったそこがじょじょに芯を持ち始めた。


    「っん、……んぅ〜……ちょっとぉ……なに」
    「なんでもないけど」
    「……やだぁ、……もう、」

     左肩を下にして、なるくんに覆いかぶさるようにして耳たぶにキスをする。耳殻にやわらかく歯をたてて、その間も乳首をクリクリ刺激すれば覚醒したなるくんのアメジストのように輝く瞳が俺を捉えた。

    「……どうしたの?」
    「なにが」
    「……べつにィ?」

     寂しそうな顔してるから、って。そんなことを言いながらなるくんの方から唇へとキスをしてくれた。

     言えるわけないじゃん。もう十年も前に死んだ人に不安になって、嫉妬してるなんて。そんなこと言ったら、どんな顔するか、させてしまうかって、俺にだってわかるよ。


    「……っん、ぅ……」

     ちゅ、くちゅ、静かな部屋に濡れて絡む唾液の音が響く。

     俺のなるくん。俺だけのなるくん。
     いつも綺麗に、笑っていて。

    『泣かせたりなんてしない』

     ふと、昔学院にいた頃、返礼祭で言った台詞を思い出して恥ずかしくなった。あの時の俺が、人生でいちばん素直だった時。

     なるくんに悲しそうな顔は似合わない。
     俺に怒ってたっていい、楽しそうに笑ってくれたらそれがいちばんいい。

     雪が積もって、シン…と静まり返る慰霊碑の前。学生のころいつも使っていたバーバリーチェックのマフラーを巻いたあんたが、静かに涙を零しているのを俺は知ってる。マフラーからのぞく項も、ぜんぶぜんぶ寒そうで。

     どうやったらそんな悲しい顔をさせないで済むだろうとか、俺だって考えたりもしてた。まぁ、直接的な言葉をかけることはできずにただそばにいることしかできなかったわけだけど。

     外気に晒され冷えた耳殻にもう一度キスをして、「……俺の」とだけ呟けば、猫みたいに目を丸くしたなるくんが俺をじっと見つめた。それから首に腕を回されて、ぎゅう、と痛いぐらいに引き寄せられる。

    「……へんな泉ちゃん」
    「うるさいよ」
    「っん、……そこ触んないでよぉ」

     どさくさに紛れて臍の下を撫でて、ゆるゆると下着とズボンをずらしていく。細い腿の内側をぐい、と開かせて、双丘の奥にあるそこを中指の先でくにくにと刺激した。

    「ねぇ、抱きたいんだけど」
    「えぇ〜、……んもう、……いいけど、」

     ふふ、いいんだ。
     色っぽい声で俺の我儘を受け入れながら、なるくんの長い指が俺のパジャマのズボンを下ろした後に下着の中にあるそれを握りこむ。

    「……ッ、……はあ」

     少しだけ腰を浮かせて、なるくんの指で扱かれながらキスを交わす。重力に倣って流れ込んでく俺の唾液をなるくんに啜られて、それに興奮しきった俺はなるくんの咥内を、舌をしゃぶった。呼吸さえ奪うようなしつこいそれに、俺のを握るなるくんの指の動きがじょじょに止まっていく。それにすら興奮して、少し強引な動きでなるくんのパジャマを捲り上げ、固く勃ち上がったそこに舌を這わせながら脚の間に身体を滑り込ませる。

     すでに充分にぬるついて固くなったそれをなるくんのそこに押し当てれば、「ん、」と苦しそうな声が漏れた。

     そのあとにふう、と力が抜けた瞬間を見計らってぐぐ、と挿入し奥まで突けば、もう何度も身体を重ね俺の形に馴染みきったそこが俺を受け入れる。

    「……っ、さむい」
    「……今だけだよ」

     俺が上半身を起こしたことで布団が剥がれ、冷えた空気に晒されたなるくんがぶるりと身体を震わせる。一度チュ、と口付けを交わし、その腿を抱えて腰をゆさゆさ揺すれば、次第になるくんの口から甘い声が上がり始めた。

    「……っあ、ん……ッん」
    「……ッ……、」
    「……っんぅ、はあ……っ」

     俺の二の腕に手を添えたなるくんが、俺に縋るように見つめるその顔が好きだった。濡れた瞳が俺を見て、はあはあと吐息を漏らす唇が寂しそうに震えてる。

    「……名前、呼んで」
    「……や。泉ちゃんが先に呼んで」
    「…………」

     やっぱりムカつくやつ。俺の不安だとかそういうの勝手に読み取って、そうやって俺をどんどん甘やかしてく。

    「……なるくん、」
    「うん」
    「なるくん、……なるくん」
    「ちゃあんとここにいるでしょ」

     ちゅう、と唇に口付けて、キスを交わしながら腰を打ち付ける。なるくんの両腕を首に回されて、甘い声で「泉ちゃん」と名前を呼ばれる。

     重ねた肌から伝わる熱い体温、挿入したそこが包まれる熱も、はあはあと吐き出される吐息も、すべてがなるくんを感じさせて心が満たされていくのを感じた。




     いつの間にか、感じていた不安や焦りが消える頃には俺の頭は射精したいっていう雄の本能でいっぱいだった。

     いつもならちゃんとゴムをつけてセックスするけど、今日はそんな余裕なかったからナマ。たまにはナカに出しても怒らないかな、とは思ったけど、今からお湯も沸かしてもいない寒い風呂場に行くのが億劫だったので大人しく外に出す。

     イきそう、ってとこでずるりと引き抜けば、俺のを受け入れてたなるくんが途端にもの寂しそうな顔で俺を見ている。

    「……っは、ぁ……ッく、ぅ!」

     その少し切なそうな瞳にすら興奮して、自分で扱いて、どくんと吐き出した白濁がなるくんの腿を濡らす。はあはあと荒い息を漏らしながら、噛み付くようになるくんの唇に口付けて。今まで俺のが入ってたそこに指を指し入れて、なるくんの好きなところを指先で擦る。ぴくぴく震えるそれも一緒に握り込んでやれば、面白いほど身体をくねらせたなるくんもあっという間に絶頂を迎えて、「あぁん」なんて耳に馴染んだ甘い声を漏らしながら射精した。

     掌に付着したそれと、なるくんの腿を汚したそれを枕元に置いてあるティッシュでさっと拭って。ふたりの熱い熱が溶け出さないうちに、布団をがばりとかけてなるくんごと抱き締める。

    「っん、……お風呂はぁ……?」
    「明日の朝にしよ」

     洗濯も掃除もぜんぶ俺がやるから、いいでしょ?って。そんな風に耳元で囁やけば、なるくんの方から甘えるように腕枕をせがんでくる。

    「……いま何時?」
    「見てない」

     その形のいい頭を抱え込むようにして抱き締めて、なるくんも慣れたように収まりのいいポジションに体を動かし密着する。

     寒いのは苦手。

     暑い夏も嫌いだけど、大人になってから冬のほうが苦手になったような気がするのは気のせいだろうか。

     それでもこんな風に、冷たい空気の中でお互いの体温を分かち合いながら眠る幸せを知ったのも大人になってからだから、やっぱり冬も悪くないのかもしれない。

     やたら寝付きのいいなるくんの寝息がすぐそばで聞こえ始めて、起こさない程度にぎゅう、とその身体を抱きしめたあと、もう一度耳元で囁いてみせる。

    「俺のだよ」

     誰にも渡さない。

     鳴上嵐は、俺だけのものだから。

     誰に宣言したかもわからないそれが冷たい冬の空気に染み込んで、俺となるくんの間にまたひとつ熱を残して消えてった。



    おわり
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